=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「モンスター・ドライヴイン」 ジョー・R・ランズデール(アメリカ)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】
収容車数4千台の巨大ドライヴイン・シアター《オービット》は、B級ホラー映画がオールナイトで上映される 金曜の夜ともなれば大変な賑わいだった。勤め先の家具工場を首になり、この町を去る年上の友人ウィラードに誘われ、 《オービット》に向かったぼく、ことジャックとボブとランディは、もちろんB級ホラー映画が大好きだった。 見ることはってことだけど。 | |
これは「テキサス・ナイトランナーズ」のあと、「凍てついた七月」の前に発表された 作品で、ランズデールの小説のなかでは初期の頃に書かれたものってことになります。 | |
B級ホラー映画を観ていたら、いつのまにか自分たちがB級ホラーの世界に いたって感じのストーリーなのよね。 | |
くだらない、覚悟してた以上にくだらない、でも、おもしろかった(笑) | |
そうね、もしこういう言葉を使うことが許されるなら、最低におもしろかったってところかしら(笑) | |
ホントに最低級のスプラッターで、ホラーなのよ。人がドンドン殺されちゃうし、 死体を食べちゃったりする奴も現れるし、友人がモンスターに変貌しちゃったりするし、どうしようもないの。 | |
でも、なんか笑えるというか、B級ホラー映画ならではの味をうまいこと小説世界に醸し出して くれちゃってて、なんかこれはこれで、やられたって感じよね。 | |
最初のうちは、ちょっとアメリカのちょい前の青春ものって雰囲気なの。 大学進学前の気楽に遊んでる3人の少年たちと、タフでクールで、なぜか少年たちにやさしい年上の男の人の交友の話。 | |
少年たちのうち、ジャックとボブは幼なじみで似たような境遇なのよね。 で、もう一人のランディは、ヒョロヒョロッとしてて眼鏡をかけてる黒人の男の子で、ホラー映画の特殊メイクや特撮にやたら詳しくて、 将来はそういうことに関わる仕事がしたいと思ってるの。 | |
とうぜん、アメリカのちょい前の青春ものだから、ランディは乱暴者の男にからまれ、 それを年上のクールガイ、ウィラードが助けてくれるのよね。 | |
ランディとウィラードはお互い持ってるものが正反対で、それで憧れあってるような関係なの。 | |
で、ジャックの家のパパとママはとっても仲がよくて、ジャックには寛容で、 ホームコメディの世界を連想させるような、典型的なアメリカの中流家庭って感じなんだよね。 | |
そして、ウィラードが町を出ることになり、みんなで金曜日の夜のドライブイン・シアターに行くことに。 ここからが急展開なんだよね。 | |
映画を観ている最中に血の色の光を放つ彗星が襲撃してきて、ドライヴイン・シアターは 触ると溶けちゃう黒いなにかに包みこまれ、観客たちは閉じこめられてしまうことに。 | |
売店にあったポップコーンとホットドッグ、それに甘い飲み物しか口に入れることができなくなった 観客たちは、タンパク質不足でしだいに頭が変になってきちゃって、殺し合い、食い合ってと壮絶なサバイバル・ウォー状態に。 | |
そこで起きることは、低予算の特殊効果とチープな台本によってできあがったような、 まさにB級映画の世界。登場人物たちもその安っぽさにちょっと愚痴ったり、これは現実なのかB級映画なのかと首をひねったり。 | |
残酷なシーンの安っぽい残酷さが特に印象的だったよね。ほんとにもう、 ウゲゲって感じで(笑) | |
そのウゲゲがいろいろ起こるあいだは、主人公のジャックの可愛らしさに救われてたかな。 | |
ジャックはお人好しで、騙されやすくてチョイおバカで、チョイ弱々しくて、 どう考えてもサバイバル状態では一番にくたばりそうなキャラなのよね。でも、なんとか生き残っちゃって。 | |
大変なことになってるのに、なんか状況を把握してないというか、変わるべきところで 人が変わらないというか、それがなんともスプラッターな中で微笑ましい存在だったりもして。 | |
ラストがまた、ニンマリさせられるのよね。 | |
脱力した状態でダラリンと読めば、かなりおもしろい小説なんじゃないかな。もちろん、 オススメするのは好きそうな人限定ってことになるけど。 | |
ランズデールが少年の頃、大ファンだったB級ホラー、B級スプラッタ映画へのオマージュ だったりもするのかな、なんてことも思いました。あ〜、おもしろかった。 | |