すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ずっとお城で暮らしてる」 シャーリイ・ジャクスン (アメリカ) <学習研究社 単行本> 【Amazon】
ブラックウッド家は歴史のある名家で、城のような大きな屋敷に住んでいた。惨事が起きたのは6年前、 毒入りの砂糖をヤブイチゴにかけて食べたため、ブラックウッド夫妻とその息子、それにブラックウッド氏の兄の妻は亡くなってしまった。 砂糖をかけなかったブラックウッド家の長女コンスタンスが疑われたが、なんの証拠もなく釈放された。それ以来、 コンスタンスは村の人々に疎まれながら、罰を受けて部屋に閉じこめられていたため毒の被害をまぬがれた妹の メアリー・キャサリン、毒の後遺症で精神を病んでいる伯父ジュリアンと三人で暮らしている。城のような屋敷に 閉じこもり、敷地からは出ることもなく。
にえ 「くじ」「たたり(山荘綺談)」で知られる、モダンホラー作家 シャーリイ・ジャクスンの本を初めて読んでみました。絶版本です、申し訳ないっ。
すみ この本は、ホラーとも言い切れないような、うっすら〜と怖いお話だったよね。
にえ 語り手は18才のメアリー・キャサリン。家族毒殺人事件の犯人と疑われる 姉コンスタンスと、伯父のジュリアン、それに猫のジョナスと暮らしてるの。
すみ ジュリアンは砒素の後遺症で、ご飯もまともに食べられず、歩くこともできない車椅子暮らし。
にえ 記憶もおかしくなってるのよね。コンスタンスを妻と間違えたり、弟がまだ 生きているように話したり。
すみ そんでもって、壊れたテープレコーダーみたいに、事件のあった日のことを繰り返し、 繰り返し語りつづけるの。なんだか大長編の覚え書きをつくってるみたいなんだけど。
にえ 語り手であるメアリー・キャサリンなんだけど、彼女もまともではないのよね。18才なのに 幼い子供みたいなしゃべり方だし、家の中のものを持ちだして地中に埋めたりとかって自分で決めたおまじないを本気で信じてるし。
すみ 猫と人間の区別もついてないみたいだった。
にえ で、コンスタンスは野菜を作り、掃除をし、料理をして、とやさしく二人の面倒をみているの。
すみ でも、一歩外に出れば、村人たちからは毒殺魔と忌み嫌われ、罵られているのよね。買い物は メアリー・キャサリンに任せて、コンスタンスはぜったいに外に出ないんだけど。
にえ そんな三人の籠もった静かな生活のなかに、従兄のチャールズってのが現れて、 それなりに保たれていたはずのバランスが崩れ始め・・・っていうお話なんだけど。
すみ なんか不思議な読感だったよね。
にえ 私はねえ、読み終わったあとでルース・レンデルの「ハートストーン」を思い出し、比べてしまった。
すみ ああ、設定とかちょっと似てるよね。「ハートストーン」は父と妹の三人で古い館に住む少女のお話で、 やっぱり狂気と悲劇の謎がテーマになってた。
にえ でもね、レンデルのは研ぎ澄まされて、最初から最後まで張りつめた緊張感があって、 流れはきっちり計算されつくしててって感じなんだけど。
すみ うんうん、ピリピリしてたよね。ページをめくる手が切れそうなくらい。
にえ で、こっちの「ずっとお城で暮らしてる」はなんというか、ここはもうちょっとつなげて話を発展させて いってもいいんじゃないのってところがプツンと途切れてたり、話の流れがすんなりしてなくて、ぎこちなかったり、ゆるみがあったり。
すみ そう? でも、少なくとも極端ではないでしょ。うっすらそんな感じがしたってだけで。
にえ いや、悪く言うんじゃないのよ。そこにね、足場がさだまらないみたいな不安定感があって、 なんというか、書いてあるところと別なところに恐怖を感じるというか。
すみ ああ、うまいとかヘタとかそういう問題じゃなくて、行間からにじみ出てくるところに怖さが あったってこと?
にえ う〜ん、なんだろう。なんか落ち着かなくて、なんかシックリいかなくて、読んでると 肌になにかが触ってくるような、そういう甘く気味の悪い感触が不思議な味わいになってたな。
すみ ほんのり病的な歪みがあるってことかな。とにかく、毒殺事件の謎については最初のうちから たっぷりヒントが与えられてて、真相は早いうちからわかっちゃうんだけど、それ以外のところでおもしろかったです。