=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「ダンシング・ガールズ」 マーガレット・アトウッド (カナダ)
<白水社 単行本> 【Amazon】
岸本佐知子さん翻訳による、6編の入った短編集。 | |
私たちにとっては3冊めのアトウッド本です。 | |
あとがきに原書の短編集から6編を選りすぐったと書いてあったんで 調べてみたら、もとは14編の入った短編集だったみたい。 | |
6編だけでも、なにげない終り方のあとにドドド〜ッとやってくる余韻に 引きずり込まれてしまったのに、14編も読んだらどうなるんでしょうって感じだよね(笑) | |
アトウッドってホントに成熟した大人の女性だよね。読んでるとそれが怖くもあるし、 身を委ねたくもなるの。 | |
それにしても、長編もうまいし、短編もうまい。本当にうまい作家さんだよね。 | |
だけどさあ、うまい短編って最後にニヤリか、やわらかな余韻がず〜っと残るかって感じだけど、 最後にドスンと重く来るよね。ドスンと来て、鈍い余韻がズルズルッと残るというか。なんか癖になりそう。もっと読んでみたくなった。 | |
<火星から来た男>
体が大きく、お世辞にも綺麗とはいえない顔の大学生クリスティーンは、恋愛には疎く、男の子からも 仲間扱いされるような存在だった。ところが、ある日を境にクリスティーンは、アジアのどこかの国から来 たらしき男子留学生につきまとわれるようになってしまった。汚い服を着て、爪は噛みすぎてなくなりそう、 意味不明な笑みを浮かべるだけ、気味の悪い彼から逃げまわるクリスティーンだったが・・・。 | |
クリスティーンが子供の頃、お伽話に「美しくて心のやさしい娘」 が出てくると、ああ、これは自分じゃないと思ったってところ、うまいなあと唸っちゃった。 | |
物語の主人公をこれは私だ、これは私じゃないって思う感覚、わかるよね〜。女の子 ならではなのかな。 | |
ぶきみな男につきまとわれて、逃げまわりながらも、そんなに悪い奴じゃないかもと思ったり、 それはそれでちょっと得意だったりもする感覚、なんともわかるな〜って感じだったよね。 | |
とにかく二人の姉と違って見栄えのしないクリスティーンを男の子とくっつけようとする 軽薄な母親と、ちょっぴり苛立つクリスティーンの母子関係も、わかる、わかる、と思った。 | |
<ベティ>
戦後まもない7才の時、私たちの一家はセント・メリー川を上流にさかのぼったところにある小さな コテージに引っ越した。右隣のコテージには、ベティとフレッドという若夫婦が住んでいた。やさしく親切 なのはベティなのに、なぜか私と姉はベティの存在は軽視して、フレッドのほうに夢中になった。 | |
これはアトウッドの子供の頃の実体験をもとに書いたのかな〜と思わせるような ストーリーだったよね。 | |
そうだね。子供たちに礼儀正しく、としつけをしながら、聞き上手で、 つい他人の世話を焼いてしまう母親についての描写に、ほんのりと尊敬と愛情がこもってたからかな。 | |
語り手である妹が、お姉ちゃんにつきまとって遊んでもらいながらも、 いつも張り合ってプリプリしてるところなんかもリアルだった。あと、なんとか向上していこうとはしてるっていうような生活の匂い。 | |
お話としても、子供の頃、近所にこういう夫婦が住んでて、こんなことがありましたっていう、 なんとも本当にあった話っぽくて、しかも、こういう話を知人から聞かされたら、なんとも考えさせられるだろうなと思うような話だった。 | |
<キッチン・ドア>
ミセス・バリッジは、グリーン・トマトのピクルスを瓶詰めしている。夫のフランクのためだ。 ミセス・バリッジはフランクに銃の扱い方を教えてもらおうかと思っている。また戦争が始まったとき、 かならずや必要となるはずだから。 | |
子供たちは少し離れたところに住んでいて、時々孫を連れて会いに来る、 夫は頼んだことをなかなかやってくれなくて、でも、ミセス・バリッジのピクルス大好きで、とまあ、多少の 不満はありながらも、わりと幸せかなという、ありがちな女性の日常生活のひとこまなんだけど。 | |
頭のなかは凄いことになってるよね(笑) | |
ピクルスの瓶詰めを作りながら、戦争が始まったとリアルに想像していく。狂気ともとれるけど、 正直なところ、私もこのぐらいまで、のめりこんで想像してしまうことがあるんだよな〜。 | |
たとえ平凡なように見えても、女性のなかには狂気があるってことかしら。 | |
<旅行記者>
旅行記者のアネットは、パラダイスのような観光地に倦んでいた。緑の木々も白い砂浜も青い空も青い海も、 巨大な一枚のスクリーンのように感じられる。乗っていた飛行機が事故で海上に不時着しても、その感覚は依然として残っていた。 | |
「キッチン・ドア」とは対照的に、こちらは本当に、非日常的な事件に巻き込まれてしまった女性の話。 | |
非日常に巻き込まれながらも、ズルズルと日常を引きずってるようなところが、 かえって怖かったよね。 | |
ミセス・バリッジのリアルな想像と比べて、アネットのなんという実感のなさ。どんどん大変なことになってるのに。 | |
他のだれよりも冷静沈着、正しい判断をしているけれど、アネットの狂気のほうが根深いって気がしたね。 | |
<訓練>
祖父も父も医師、二人の兄も優秀な医師となりそうなところ、ロブは自分だけはぜったいに医師になどなれないと 考えていた。なぜなら、学校の成績が悪いこともあるが、なによりも血を見たり、メスで他人の腹を開くというような 行為が怖ろしくてしかたなかったからだ。兄たちはそんな行為さえも笑いにしてしまうが、ロブは青ざめるだけで、 とうてい笑いになどかえられそうになかった。 | |
これはもう、ホントに成熟した大人にしか書けないって内容。ラストにはドキッとさせられた。 | |
読み終わったあと、裏切られたって気持ちと、なるほどそうかと納得する気持ちが 一度に押し寄せてきたよね。 | |
正しいとか間違ってるとか、杓子定規にしか考えられないって、けっきょくまだ子供の状態なのよ。 どっかで突き抜けないと。 | |
6編のなかで、明確なラストがあるのってこれだけだよね。しかし、このラストを いったい他のどの作家が書けるっていうんでしょう。アトウッド、おそるべし(笑) | |
<ダンシング・ガールズ>
隣の部屋の住人と風呂を共同で使う下宿に住むアンは、新しい隣の部屋の住人を長く見たことがなかった。 お喋り好きの大家の話では、今度の住人は留学生の男性で、とてもきちんとしているということだが。 | |
本当は売春婦かなにかなんだろうけど、とにかくそういうアバズレっぽく見える女性を 「踊り子」と言い切っちゃう大家さんがわかるな〜と思ってしまった。 | |
留学生だから民族衣装を着て集まれとか、とにかく中年女性ならではの決めつけが激しい人だよね、この大家さんは。 | |
妙に、どこにでもいるよな〜、こういう人、と思っちゃうのよね。 | |
なんで中年になると女性って、決めつけで喋るようになっちゃうんでしょうね〜。気をつけなきゃ、でも、 言っててもそうなっちゃうんだろうけど(笑) | |