すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ザ・ファミリー」 マリオ・プーヅォ (アメリカ)  <ソニー・マガジンズ 文庫本> 【Amazon】
さまざまな芸術が花開いたルネッサンス期、15世紀のイタリアで、法王アレッサンドロ6世となった ロドリーゴ・ボルジアには、美貌の才女ヴァノッツァを母に持つ、チェーザレ、ホアン、ルクレツィア、ホフレ という4人の子どもがいた。子供たちの未来とボルジア家のさらなる繁栄を夢見るロドリーゴは、あらゆる敵を 迎え撃つべく数々の策略を胸に秘めていた。
にえ これは、マリオ・プーヅォの遺作をキャロル・ジーノが完成させた歴史小説です。
すみ マリオ・プーヅォといえば、「ゴッドファーザー」があまりにも有名よね。 プーヅォはごく古典的な小説を2冊発表したけれど、ほとんど収入もなく貧しい作家だったところを、48歳になって やっとマフィアの小説「ゴッドファーザー」を書いてベストセラー作家となったんだそうな。
にえ プーヅォはボルジア家に大変な興味があって、ボルジア家を小説にすることは 二十年もあたためてきた企画だったんだけど、マフィア小説でやっと食べられるようになったって思いが強くて、なかなか 書くにいたらなかったとか。
すみ ふだんから、ボルジア家の話ばかりしていたしていたらしいけどね。で、 最晩年になってやっと書きはじめたけど、完成しないままに亡くなって、ずっとそばにいてプーヅォのボルジア家話に 耳を傾け、ボルジア家の小説を書くことを励まし続けてきたキャロル・ジーノがプーヅォに頼まれて完成させることに。
にえ 未完の遺作に別の人が手を加えると、なんだかな〜な感じに仕上がってることが多いから、 どうなんだろうと思ったけど、読んでて違和感とか、ほんのわずかでも感じるところはなかったよね。
すみ うん。それよりも私は、とにかく世界史が苦手で、 十字軍だのボルジア家だのって聞いただけで顔に縦線はいっちゃうから、ぜったい10ページも読んだら投げ出しちゃうだろうと思ったんだけど、 最初から最後まで夢中になって読めたから感激。
にえ おもしろいし、読みやすかったよね。私も登場人物が次から次へとドンドン出てきたら、置いてかれちゃう だろうな〜と心配してたんだけど、メモも取らずに読めてしまった。
すみ サヴォナローラとか、マキアヴェッリとか、レオナルド・ダ・ヴィンチとか、ミケランジェロとか、 女傑カテリーナとか、ボルジア家以外にも魅力的な登場人物たっぷりで、書く方としてはみっちり書き込みたいだろうなと思うような 歴史的出来事もたくさん出てきたけど、あくまでも主軸の話から逸れた部分は簡略な記述だけにとどめてて、話を一本の筋から 外さないでくれてあったからね。
にえ それにしても小説としておもしろかった。家族という複雑な関係からくる愛とジレンマがあり、 マフィア小説なみの血を血で洗うような陰謀と暗殺があり、裏切りと協力、残酷な処刑、それに清らかな純愛までからまっていって、 もうホントにおもしろい物語。
すみ 歴史ってものがほとんどわかってない私たちは単純に楽しめたけど、 歴史に詳しい人が読むとどうなんだろうね。
にえ うん、プーヅォがもともと人を悪意でとらない人だったらしくて、 ボルジア家の人々について、史実として残っている悪行はそのまま書きつつも、好意的な解釈で人物像を描き出してるから、 そのへんは賛否両論あると思うけど、それはそれでこういう解釈もあるかと楽しめるんじゃないかな〜。
すみ ファミリーの父であるロドリーゴ・ボルジアは、大きな体躯で豪胆、型破りな性格で、 自分の味方には深い情をかけるけど、敵には非情になれる、まさにマフィアのボスのような人になってたね。
にえ プーヅォはとにかく、子供に対する愛情が深すぎた人って感じで解釈していたそうだけど、 とくに一人娘のルクレツィアに対する愛情はたっぷり書かれてたよね。
すみ でも、いくら愛してても、ファミリーを守り、繁栄させるために、政略結婚の駒として使うのよね〜。
にえ 長男のチューザレは、生まれついての軍人ってかんじで、枢機卿に選ばれても満足せず、 辞めて法王軍の総司令官となって戦果をあげていくの。
すみ 彼のことが一番好意的に書かれてなかった? 豪華な衣裳の無駄遣いやご乱行のすえに ご自慢の肉体に現れた天罰についてもきっちり書かれてはいたけど。
にえ 実の妹ルクレツィアに対する赦されぬ愛のためにって理由づけがあるからね。
すみ それにしても、冒頭のところの、チューザレとルクレツィアの愛と悲劇の 原因についての描写には度肝を抜かれたな。
にえ 次男のホアンは、いつも口元に冷笑を浮かべているようなやつで、三男の ホフレは一見ボワワンとした取るに足らない間抜け男、でも、じつは・・・ってやつ。それぞれの個性がくっきり出てたね。
すみ ルクレツィアは見た目も心も美しい娘なのよね、しかも賢くて。運命に翻弄され、 何度も苦しみを味わうことになるんだけど。
にえ ボルジア家の影のような存在のドン・ミケロットも印象的だった。 ボルジア家の敵を闇のうちに抹殺していく、冷たく怖ろしい男。
すみ だったら、ドゥアルテが良かったな。ボルジア家の味方なんだけど、 過去は謎に包まれてるの。いいところで出てくるんだ、この人が。
にえ でもって、ストーリーは史実を追いながら、戦争あり、さまざまな国王と法王の 駆け引きあり、男女の愛憎劇あり、で進んでいくんだけど、これがもう、こんなにおもしろくていいのかしらって感じなのよね。 上質のエンタメ系歴史小説とでもいえばいいのかな。
すみ 私のような歴史物恐怖症ぎみの人でも、苦手となるような原因はすべて取り除かれてるから、 そっちは気にしなくて大丈夫。それよりも、かなりどぎつく濃厚な小説だから、そういうのが嫌いじゃないって方にオススメ。おもしろかった〜。