すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「巫女」 ラーゲルクヴィスト (スウェーデン)  <岩波書店 文庫本> 【Amazon】
デルフォイを見下ろす山腹に建つ小さな家に、一人の老婆が白痴の息子と住んでいた。老婆はかつて、 神殿の長い歴史のなかでも最も優れた女祭司だと讃えられ、神に憑かれて人々に神託を与えていたが、罪を犯して 人々を、そして神を裏切り、追われた身であった。一人の男が、老婆を訪ねていった。男はかつて平穏に暮らしていたが、 十字架を背負って死刑場に向かう死刑囚が自分の家の壁にもたれかかるのを叱りつけたため、呪いを受けて死ねない身と なっていた。男は老婆に、自分の未来を見せてくれと言う。呪われた身にはどんな未来が待ち受けているのだろうか。
にえ スウェーデンのノーベル文学賞受賞作家パール・ラーゲルクヴィストの作品です。
すみ この作品は初邦訳になるのかな? おもしろかったよね。
にえ うん、これは扱ってるテーマといい、舞台背景といい、私のモロ好きな感じなんで、ちょっと 点数甘くなっちゃうけど、それにしてもおもしろかった。
すみ 神とはなにか、信仰とはなにかって問いただしてくるような内容だったよね。
にえ そう、神とか信仰といっても、時代背景はキリスト教以前で、めんどうくさい教義とかの お話はいっさい抜き。もっと原始的な部分で、信仰について問いただしてくるの。
すみ 男に呪いをかけた死刑囚っていうのが、どうやらキリストみたいなんだけど、 それについては、さほど深追いしてなかったね。
にえ あくまでも、主人公は老婆のほう。老婆が男に、自分の数奇な半生を 順序正しく語っていくという、わかりやすい話の展開。
すみ 美しく悲しく、そして最後のほうはものすごく残酷なお話だったよね。
にえ 老婆はあまり人付き合いをしない、信仰心の厚い両親のもとで育てられたのよね。 信仰心といっても、近所の川とか、木とかに祈りを捧げる、あくまでも原始的な信仰なんだけど。
すみ かなり貧しい農家なの。土地さえ持ってなくて。土地はみんな、デルフォイの神殿のもの。 せっかくの収穫も、ほとんど神殿にとられちゃうの。
にえ 神殿では、巫女が神様に憑依されて意味不明なことを叫び、それを神官が わかりやすい人間の言葉にかえて人々に預言を与えてるのよね。デルフォイの町の人々は、この神殿にやってくる人たちの 落とす金で暮らしているの。
すみ だれもが神殿を絶対視して、崇め奉っちゃってるけど、神殿による収入が頼りだってところもあって、 どこまで神様を信じてるかはあやしいところなのよね。
にえ 老婆は幼いときから、同い年ぐらいの子と遊ぶより、神秘的なものに惹かれてて、 幻覚とか幻聴とかにとらわれていたの。
すみ そんな老婆のもとに神殿からの使いが来て、巫女にならないかと誘われるのよね。 老婆は選ばれた者になったと大喜びして神殿へ。
にえ でも神殿には、巫女の評判が上がれば自分たちの収入も増えると欲深く考えている神官とか、 親切そうにしていても、心のどこかでは巫女を憎んでいるような世話焼き婆とか、ろくな人間が集まってなかったのよね。
すみ ただ一人、神殿には年老いた下僕がいて、なにかと若かった頃の老婆をかばってくれるんだけど、 この人だけは神様を信じきってた。
にえ 一般の人たちの反応も、けっこう冷たかったりするのよね。巫女のことを尊敬しているようで、 じつはちょっと軽蔑の気持ちもあって、避けてたりして。
すみ 老婆のほうでも有頂天になっていた時は過ぎ、自分が巫女に選ばれた本当の理由が徐々にわかってくるんだけどね。
にえ それでも、まだ若い娘だった老婆はひたすら純粋な気持ちで、神に仕えようとするのよね。 世話焼き婆からはろくでもない知恵をやたらと吹きこまれたりするんだけど。
すみ 老婆の巫女としての名声は上がっていく一方。ところが、母が亡くなってしばらく実家に帰り、父親の畑仕事を助けているときに、 ある男性と出会ってしまうの。
にえ 男性は、兵役から帰ってきたばかりで片腕しかないんだけど、老婆が巫女であることも知らなくて、 老婆を初めて女性として見る男性なのよね。
すみ そこからは美しい愛の物語があり、さらにその先には、神との壮絶な戦いとも言えるような日々があり・・・凄まじい人生だった。
にえ 老婆の過酷な人生、神が老婆に与えた残酷な仕打ち、とにかくすべてが語り尽くされたあと、では、神とはなんなのかと 問われるんだけど、とにかくその叫びのすさまじさに圧倒された。
すみ 霊現象というか、とにかく超自然的な出来事もたくさん語られてて、これはもう寓話ととるしかないんだけど、 謎めいた恐怖に満ち満ちていたね。物語のなかに含まれてるものが多くて、凄い小説でした〜。