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 「ブレストの乱暴者」 ジャン・ジュネ (フランス)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
軍艦《復讐者》号は霧のたちこめる港町ブレストに寄港した。そこには水夫クレルの瓜二つの弟ロベールがいる。 ロベールは、その妖しげな雰囲気が権威となって世界中に名をはせる淫売屋《ラ・フェリア》の美貌の女主人リジアーヌの愛人となり、 安穏とした生活をしている。リジアーヌにはノルベールという夫がいたが、二人はすでに金だけで結びついた冷めた関係で、 ロベールの存在を疎む者はなかった。
にえ 澁澤龍彦訳のジャン・ジュネ著「ブレストの乱暴者」が待望の文庫化ということで読んでみました。
すみ ジャン・ジュネは、私生児として生まれ、孤児として育ち、十代の大半を感化院で過ごし、 その後も何度も投獄され、終身刑の判決を受けたこともある、いわば犯罪者作家なのよね。
にえ 泥棒であるうえに、男娼でもあって、まさに社会の最低層で生きてた人。 でも、作家として、詩人としてはコクトーやサルトルに絶賛される才能の持ち主だったりするの。
すみ そう言うと、一人の人の光と影、表と裏みたいに聞こえるけど、犯罪歴や同性愛はそのまま 文学作品に投影されてるから表裏一体なのよね。
にえ うん、この「ブレストの乱暴者」の主人公クレルも、犯罪者であり、同性愛者でもあった。
すみ 同性も異性も両方でしょ。犯罪のほうは泥棒だけじゃなくて、麻薬の密輸、殺人と罪を重ねていくのよね。
にえ クレルだけじゃなくて、同性愛者がわんさか出てきた。
すみ クレルの上官、海軍少尉セブロンも同性愛者なのよね。粗暴だけれど容姿の美しいクレルを ひそかに愛し、立場的に思いを伝えられずにいるんだけど。
にえ クレルは瓜二つの弟がいる淫売屋《ラ・フェリア》に行くんだけど、そこの男主人ノルベールも、 女性だけじゃなくて男性のも興味があるみたいで、クレルと関係を結ぶことになるのよね。なかなかの色男みたいなんだけど。
すみ さらに、《ラ・フェリア》に出入りする美男子の警官マリオも同性愛者。
にえ クレルはセブロンにも、マリオにも気づかれることはなく、水兵仲間を使って港町ブレストに 運びこみ、ノルベールに売り、仲間の水兵を殺してしまうのよね。
すみ 弟のロベールは意外と印象が薄かったかな。クレルの犯罪についてはまったく知らないし、 クレルの同性愛をみっともないことだと怒るだけで。
にえ ロベールを愛人にした淫売屋《ラ・フェリア》の美貌の女主人リジアーヌのほうが出番は多かったね。 リジアーヌはクレルとロベールがあまりにも似ていることに戸惑い、どちらをより愛しているのかわからなくなっていくの。
すみ ロベールはリジアーヌに頼って生きてるわりには、リジアーヌの心の機微には無頓着って印象を受けたよね。
にえ 水兵殺しの犯人に仕立て上げられ、逃げまわることになるのが美少年ジル。
すみ ジルは職人だったんだけど、同性愛者の先輩職人に言いよられたすえに虐めにあい、 逆上して先輩職人を殺してしまっているから、その前に起きた水兵殺しまで疑われ、つかまったら絞首刑確実の連続殺人犯ってことにしまうの。
にえ そのジルを愛して、つくすのが、年下の美少年ロジェ。ロジェはジルを助けてもらうために クレルに近づき、いつしかジルよりも、美しい瓜二つの兄弟クレルとロベールを愛すようになっちゃうんだけど。
すみ なにも知らないロジェによって結びつけられ、クレルはジルに会って、自分の犯罪をジルに 押しつけようとして、ジルはクレルを信頼しきって、いつしかこの二人もただならぬ関係になっていくのよね。
にえ ジルを追いながら、クレルを疑う警官マリオも、疑いが確信に変わりながら、 やっぱりクレルを愛さずにはいられなくなるの。
すみ とまあ話が始まり、ストーリーが進んでいくんだけど、印象に残るのはやっぱり 分析的な語り口かな。
にえ 悪と淫売が語られていても、作者が持つ知性の冷たい目みたいなものを常に意識して読まされるって 感じだった。
すみ こういう内容だとお勧めはしづらいけど、読む価値のある小説でした。少なくとも、エロティックさに嫌悪感をもよおす ってことはないのでは?