=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「セメント・ガーデン」 イアン・マキューアン (イギリス)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
ジャックが14歳の夏、父親が死んでしまった。残されたのは病弱な母と、ジュリー、ジャック、スー、 トムの四人の子供、それに、父が買った大量のセメント。その翌年、今度は母親が病気で死んだ。このままで は四人は別々の、おそらくは孤児院や養父母のもとに連れて行かれてしまう。ジャックとジュリーは母の死体 をコンクリート詰めにして、地下室に隠すことにした。こうして、四人の子供だけの生活がはじまった。 | |
イアン・マキューアン、とうとう初期までさかのぼりました。 | |
もとを正せば、『愛の続き』の不思議なテイストに惚れ 込んで、他の作品も読んでみようとしてただけなのに、だんだん研究発表みたいになってきたね(笑) | |
でも、逆行して読んでいったおかげで、『愛の続き』のあの 不思議なスタイルがどうやって出来上がったかわかった。 | |
うん、なんか最初に完成品を見せられて、あとから分解して 部品をひとつずつ説明してもらってる気分だね。 | |
で、この本は70年代、つまりマキューアンにすると初期の 頃の作品群のひとつです。普通だったね、ビックリした。 | |
うん、ごく普通だった。今まで読んだ本の冷たい分析口調み たいな文体では全然なくて、引き締まってコンパクトにまとめているとはいえ、他の作家の小説とそれ ほどの違いは感じなかったね。 | |
この作家が80年代に政治色の濃い小説を書くことによって、 だんだんと独特な肌触りの文体や突飛なストーリー展開を身につけていって、90年代に題材を大人の狂気 にかえ、で、『愛の続き』みたいな不思議な小説を書いたんだね〜。 | |
それにしても、十年ごとの鮮やかな変化といい、読み比べれば すぐわかる成長過程といい、なんてわかりやすい作家さん(笑) | |
ここまであからさまだと、逆に研究論文とかは書きづらいかもね。 | |
で、この『セメント・ガーデン』ですけど、この頃は思春期の 少年少女を主人公にして、猟奇的な小説を書いてたってことだったよね。 | |
猟奇ものというほどグロテスクではなかったよね。 むしろ、少年少女の思春期をクローズアップしたって感じだったけど。 | |
まあ、母親の死体を隠したといっても殺したわけじゃないし、 その辺の描写もそれほどオドロオドロしくはなかったしね。 | |
子供だけになったあとも、基本的には普通に生活してる だけだもんね。ただ、子供たちがもともと持ってた問題を少しずつ増幅させていく描写が鮮明に書かれている。 | |
ジャックは思春期独特の焦燥感とか、無気力感を増していくし、 トムは男であること、だんだん大人になっていくことの恐れから逃げていくのよね。 | |
猟奇、猟奇ってやたらと書いてあるから、理解できないところ までいっちゃってるのかと思ったら、理解しやすい域でおさまってたよね。それほど特異ではなかった。 | |
死んだ父親の描写は秀逸だったよね、身勝手で、独断的な 男が子供の目から克明に書かれてた。その辺の分析ぶりはさすがマキューアン。 | |
でもさ、ラストの驚かし、どうせ表紙の裏にまで紹介され ちゃってるから、書いてしまうけど、最後の最後に姉と弟の近親相姦、あれはいかにも若手作家が好んで 使いそうな衝撃のラストだね。青い、青い、ふふふ。 | |
あなたねえ、二十年もあとの完成されたスタイルの作品を先に 読んでおいて、初期の作品を青いなんていうのは卑怯者のやることだよ。 | |
ははは。でもさ、この人って、この本にしても、政治もの だった『黒い犬』にしても、『愛の続き』にしても、なんか不思議なやさしさがあるよね。 | |
結果としてこうなったんだから許すしかないでしょう、みたい な追いつめないやさしさがあるよね。 | |
そうだね、「ゆるし」だね。罪が起きる前にも起きた後にも その精神がききまくってるから、読み方によっては突き放しているようにも見えるけどね。 | |
ということで、マキューアンは一応落ち着いたかな。 | |
あとは『アムステルダム』以降の新作が読みたいところだね。 さてさて、マキューアンは2000年代はどう変化していくのでしょう。 | |