=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「パストラリア」 ジョージ・ソウンダース (アメリカ)
<角川書店 単行本> 【Amazon】
6編の短編集。 | |
現代アメリカ文学界で、にわかに注目を浴びているというジョージ・ソウンダースの 短編集です。さすがにおもしろかったね。 | |
6編入ってるんだけど、前の3作と後の3作で、かなり違う印象を受けた。 | |
そうそう、前3作はけっこう奇抜な設定で、まず驚く、それから読んでいるうちに笑っちゃう、そして 最後にホロリ淋しくも切なくなるっていう感じなんだけど、後の3作は、最初から最後まで淋しくも切ないって感じかな。 | |
6作ぜんぶに言えるのは、日々の生活に追われる虐げられた人々の悲哀が 書かれてるってことかな。でもたしかに、前3作が強烈な設定で、しかも内容もおもしろいから、後3作が見劣りしなくもないけどね。 | |
うん、後3作も地味ながら、いい短編なんだろうけど、どうしても前3作の驚きとか、笑いとかを 期待しちゃうんで、なんか物足りない気がするのよね。 | |
でも、前3作だけでも読む価値ありの本だった。これからを楽しみにできる 作家さんだし。あとがきに作者本人の、最近はSF的なものにむかう傾向があるって発言があったから、これから先の作品が前3作に近いことを 期待していいんじゃないかな。 | |
<パストラリア>
見学者に原始時代の生活を再現してみせるテーマパークで、おれはジャネットという中年の女と二人で原始人の 夫婦になり、毎日、山羊の肉を焼いて食べている。近頃では見学者はほとんどないが、それでもおれは原始人になりきって 生活している。ジャネットはそうでもないが。 | |
原始人の夫婦役を演じる一組の男女。語り手の男は超まじめで、客も来ないのに原始人のふりを して言葉も喋らないし、原始人らしい動作をつづけている。女は中年で見栄えも悪く、しかも不真面目。 | |
愛情もなにもない人と四六時中、二人っきりでいなきゃいけないって、 なにげに凄い状況だよね。 | |
男は原始人のふりをして話もせずにずっと耐えながらも、毎日送るパートナーの 評価表には、女のことをよくやっていると書いてるの。でも、経営は傾いていくばかりだからリストラもはじまって、 どうなることやら。 | |
経営側のノードストロームって人が洞窟にファックスを送ってくるんだけど、 その内容がなんとも、なめくさりやがってって感じでおもしろいのよね。 | |
<ウインキー>
カリスマ的指導者トム・ロジャーズが主催する自己啓発セミナーに参加したニールは、自分が幸せになれないのは 一緒に暮らしている妹のウインキーが原因だと告白した。ウインキーは正気には見えない、信心深すぎる、そして、 白髪に禿の目立つ頭にピンク色の顔をしているからだ。 | |
カリスマ指導者のトム・ロジャーズは、「きみのオートミールに大便をしているのは誰だ」ってのが 口癖みたい。 | |
その一言で、どんなやつだか、だいたい想像はつくよね。 | |
ニールの妹のウインキーは、とにかく悪気はないんだけどやりすぎってタイプで、 どこに行っても、もう来ないでくれと言われるような女性。しかも、見てくれはウインキーにとって恥ずかしいばかりだし。 | |
でも、役に立つか立たないかは、人を愛する理由にはならないのよね。 | |
<シーオーク>
男たちが下着一枚になって女性にサービスする店で働いているおれは、二人の妹と、妹のそれぞれの子供まで 扶養して貧しい生活を強いられている。だれもが文句ばかりを口にするなか、バーニィおばちゃんだけは すべてのものに感謝していた。 | |
これがこの本の中で最高傑作だと思うんだけど。 | |
今までの3作はどれもそうだけど、読みはじめは、あ、奇抜な設定で笑わせようと狙ってるな って身構えちゃうんだけど、読んでるうちになんだか引き込まれていって、最初に予想していたのとは別のところで 笑って、それからホロッとしちゃうのよね。 | |
うん、読みはじめの印象と展開のギャップがなんとも新鮮だよね。それにしても、 これの展開には腰が抜けるほど驚いた。まさかこんなことになるとは〜(笑) | |
怖ろしくも切ないお話なんだけど、私はなかばにあるバーニィおばちゃんのセリフに 笑いが止まらなくなってしまった。「エビ」がツボだった(笑) | |
<ファーボの最期>
臭いと言われ、間抜けだと罵られ、だれからも仲間はずれにされる少年はファーポと呼ばれていた。 ファーポは自転車で、悪態をつかれながら近所を疾走する。 | |
これはなんかよくわからなかったな〜。まあ、そうなんだろうけど、 だからなに?って感じで。 | |
最後が「最期」なのか、フェイクの「最期」なのかって疑問が残ったかな。 | |
<床屋の不幸>
老いた母と暮らす床屋はまだ独身。女性との恋愛は妄想となって膨らむばかりだが、足の指がない自分の 欠陥を思うと、なかなか踏み切れないものがある。それをいうなら、床屋が自動車教習所で知りあった女性にも欠陥があった。 | |
主人公の床屋はとにかく妄想癖があるというか、想像ばっかりしているのが哀れ。 想像の中のさまざまな女性は、みんな床屋を褒めたたえるんだけど、それがなんとも虚しくて。 | |
「床屋」って三人称になったり、「ぼく」って一人称になったりするのが、 チト気になったかな。 | |
<滝>
背が高く、痩せていて、陰気な見てくれのモースは、家を持つといってもおんぼろ小屋がせいぜいだったが、 もっと貧しい人も多くいることを思い、自らを慰めていた。 | |
ラストまで読んで、「ありがち」と呟いた私はヒネクレ者かしら(笑) | |
6作のどれも、貧乏くさくチマチマながらもどうにか生きてるって悲哀が 感じられる内容だったけど、これはちょっとね。こういうのを避けてるところに、あなたの小説の面白さがあるんじゃないの? なんて作家さんに言いたくなるような。 | |