すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「蜜蜂職人」 マクサンス・フェルミーヌ (フランス)  <角川書店 単行本> 【Amazon】
ラングラードの青年オーレリアンは、祖父レオポルドと二人きりで暮らしていた。ラングラードの産物はおもにラヴェンダーで、 レオポルドは最大手のラヴェンダー業者だった。しかし、オーレリアンは黄金色の蜜に魅せられ、養蜂家となる道を選んだ。 オーレリアンが心惹かれるのは、黄金に光るものだけだった。
にえ 「蜜蜂職人」はフランスの人気作家マクサンス・フェルミーヌの3冊目の著作で、初邦訳本です。
すみ とっても不思議な感じのする小説だったよね。
にえ アレッサンドロ・バリッコの「絹」にちょっと似てるかなと思ったんだけど。
すみ 時代は1885年というから百年以上も前のこと、フランスのプロヴァンス地方にある ラングラードってところに20才の青年、オーレリアンが住んでいるの。
にえ オーレリアンは祖父レオポルドと二人っきりで暮らしてるんだけど、どうして 両親がいないのかとか、そういう説明はいっさいないのよね。
すみ オーレリアンの両親のことだけじゃなくて、すべてについてよけいな説明はいっさい なし、だったよね。余白をいっぱい残した絵のような小説だった。
にえ オーレリアンは蜜に魅せられ、養蜂業をはじめるの。最初は10の巣箱からはじめて、 年を重ねるごとにだんだんと増やしていき、三年目にはかなりの利潤を生むことになって、順調な滑り出し。
すみ ところが、4年目に雷が落ちて、火災で巣箱がすべてダメになってしまうのよね。
にえ ポーリーヌって美しい女性と結婚することになりかけてたんだけど、それも 延期せざるを得なくなって、部屋に閉じこもったオーレリアンは1冊の本を読むの。
すみ アフリカで、黄金を探し求めて旅をする人のお話なのよね。
にえ その本を読んだあとで、オーレリアンは不思議な夢を見るの。その夢に導かれ、 オーレリアンはアフリカへ行くことに。
すみ じつはこの作者のマクサンス・フェルミーヌは、アフリカの砂漠を旅して、しばらく チュニジアで働いていたことがあるそうな。
にえ でもさあ、この小説からはぜんぜんそんな感じがしないんだよね。小説の中のアフリカは幻想的な 夢世界で、とても現実のものとは思えなくて、リアルとは真逆。
すみ 夢に導かれてアフリカに行ったオーレリアンは、アフリカでも夢の話をたびたびするけど、 アフリカでの経験じたいが夢そのものだよね。
にえ そういう異国を夢っぽく描いてみせるところも、ストーリーじたいも、 すんごくバリッコの「絹」に似てると思ったんだけど。
すみ どっちも、夢の女性を求めるロマンティックな男性の夢だよね。ストーリーよりも、 幻想的な余韻を楽しむところも似てるかな。
にえ バリッコの幻想世界はアフリカではなく、日本だったんだけどね。そんなことを 考えながらあとがきを読んだら、マクサンス・フェルミーヌの処女作が明治時代の日本を舞台にしたものだって書いてあって、 またビックリだった。
すみ アントニオ・タブッキにも似てなかった? 私は読みはじめたとき、そっちを 意識してしまったんだけど。
にえ どちらもイタリアの作家だねえ。私たちは二人とも、フランスの小説家っていうより、 イタリアの小説家のような印象を持ったってことなのかな。
すみ あとねえ、この小説には別のお楽しみが隠されているの。一人の画家と、一人の詩人が オーレリアンの旅の途中で現れるんだけど、この二人は画家にも詩人にもうとい私たちレベルでも、あ、あの人がモデルだなって 読んでてすぐわかったよね。
にえ うん、あとがきを読めば、だれだかわかるんだけど、先にあとがきは読まないで、 まずは小説を読んで気づいてほしいよね。わかったって喜びがあるから。
すみ 幻想的で、余韻深い、書いてあることより書いてないことのほうが多いような小説でした。 好きそうだったらお試しあれ。