すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「体の贈り物」 レベッカ・ブラウン (アメリカ)  <マガジンハウス 文庫本> 【Amazon】
私はUCSという団体に所属するホームヘルスケア・エイド。看護士のように薬を飲ませたりする権限はないが、 エイズ患者の宅を訪問し、身のまわりの世話をしている。週に二日、三日と各患者の家を訪れ、家事をこなしたり、 体を洗ってあげたりする仕事だ。この仕事について、もう二年になる。
にえ 私たちにとって、初レベッカ・ブラウンです。
すみ いちおう、11編の連作短編という形式になってるんだけど、 読んでる感覚としては、章が分かれているだけで、通してストーリーを追えるひとつの長編小説だったな。
にえ でも、短編形式だから、一つずつのお話に間があいて、そこで一呼吸つける のがよかったよね。一気に読むようなお話じゃないから。
すみ エイズ患者のホームヘルスケア・エイドをしている女性の一人称語りで、 いろんな患者のところに行く話なのよね。レベッカ・ブラウン自身が、何年か、ホームケア・ワーカーの経験がある人だそうなんだけど。
にえ だからって、エイズ問題を深く掘り下げた社会派小説ってわけでもないの。 エイズ患者がたくさん出てくるんだけど、エイズについては最小限にしか触れられてなくて。
すみ うん、どうやって感染したとかいう話もないし、世間のエイズにたいするとらえ方の問題についてとか、 治療法についてとか、なんにも書かれてないんだよね。
にえ 淡々と患者さんとの会話とか、どういう世話をしたとかが書かれてて、読んでくうちに、あ、 読み進めているうちに、みんなエイズ患者なんだなと気づいた。ホントにその程度だった。
すみ 大きな喜びもないし、死が当たり前の状態となっては衝撃的な出来事もないし、 ただ淡々と、患者は症状を悪化させていき、ヘルパーは世話をしつづけるの。
にえ 普通の病人の看病なら、励ましたり、こういうことをしたら治療効果が上がったとか、 そういう話が出てくるんだろうけど、登場する患者は末期に近づいた、もしくは末期のエイズ患者ばかりだから、そういうのはなにもないんだよね。
すみ 治療なんてあってなきようなものだし、先には快復という希望のまったくない死が待っているだけなんだもんね。
にえ せめて気持ちよく死なせてあげようとしたいところだけど、気持ちよく死ぬなんてことのできない病気でもあるし。
すみ 世話してるヘルパーも患者には死しかないことを知っているし、世話してもらう 患者も先には死しかないことを知っているし、お互いがそれを知っていることを知っている。人の世話をするといっても、ガンバレって ところからおおよそ遠いところにあるお世話だよね。
にえ でも、絶望に満ちた、暗くて、つらいばかりの話でもないの。あとわずかであるにせよ、 みんなちゃんと人として生きてて、そこには大袈裟でない日常的な愛情表現もあれば、尊敬もあり、思いやりもあって。
すみ 読んでて考えさせられるのは、どんな状態になっても、人は死ぬまで人であり続けるんだなって ことだったな。当たり前なんだけど、そのことにあらためて気づいて、なんか圧倒された。
にえ みんな、それでも人であろうとしてたよね。プライドもあれば、親切にたいして、「ありがとう」と いう感謝の言葉もあって。
すみ 死ぬってドラマティックなことではなくて、こんなにも淡々としたことなんだ、ってジワジワと実感した。
にえ どんどん体が不自由になっていくのに、手伝いの人が来ていることを周りの人に知られまいとして、 できる範囲のことは自分でしようとする女性の話はせつなかったな。
すみ でもそこには、彼女の人としてのプライドを大切にしながらも、いたわりの気持ちを持った家族たちの姿もあったよね。
にえ 全身の皮膚が醜くただれて、その皮膚に自分で軟膏を塗ることすらできなくなっても、 ヘルパーに礼儀正しく、してほしいことをきちんとした口調で伝える男性と、その男性の母親が来たときに、男性の髪をそっと整えるヘルパーのさりげない思いやりにジンと来た。
すみ 愛する人が病気のためにどんどん変貌して、あとは死ぬだけなのにそばに居続ける同性愛者の男性の、 ベタベタ感のない愛情表現にも静かに感動した。
にえ こういうときになって、愛情がはかれるっていうのも、なんともせつないけどね。そして、看病している恋人にも、 いつ来るかわからない死の恐怖が迫っているし。
すみ ものすごく淡々として、静かな小説なんだけど、読んでるあいだは、いつかは死ぬってことがあらためて怖くもなるし、あたたかい気持ちにもなれたし、 死ぬまでにどれだけ自分は他人に優しくなれるのかな、なんてことも考えたりしたし。そして、読み終わったら、生きてるってことそのものが、愛おしくてたまらなくなった。そんな小説でした。
「体の贈り物」は雫さんからの贈り物です。素敵な本のプレゼント、本当にありがとうございました。