=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「心地よく秘密めいたところ」 ピーター・S・ビーグル(アメリカ)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】
ニューヨークの片隅にある共同墓地で、身を隠して暮らす男レベックは、二十年近くも墓地の敷地から 出ていない。彼に食事を運んでくれるのは鴉。レベックと鴉は会話ができる。レベックは、墓地にさまよう 死者の霊とも話ができる。最近墓地に来たのは、妻に毒殺されたマイケルと交通事故で死亡したローラ。 三人と一羽は、愛について、人生について時に縛られず話し続ける。そんな中、レベックは亡き夫の墓参り に来たモーリスという女性と知り合った。 | |
お初の作家さん、ピーター・S・ビーグルです。 | |
この本は19歳のときに書いたんだってね。ビックリしまくり。 | |
その後も10年に1作ずつ長編を発表してるって書いてあった よね。これまたビックリの超寡作。 | |
で、この本ですが、どうでしたか? | |
何のことはない話なのよね、幽霊の男女と、老齢に近づいた 男女が知り合い、惹かれあう、内容を説明するとそれだけなのよ。 | |
ほとんど会話だけだし、舞台は墓地のなかに終始してるしね。 | |
そうそう、あとからわかる事実かもあるけど、基本的には 事件らしい事件も起きないし、ほとんど起伏のない話だしね。 | |
でもスイスイ読めちゃっう。哲学的でも、柔らかでリズム感の ある会話のせいかな。 | |
いろいろな逸話とかが挿入されてるから、飽きないよね。 童話の話が出てきたり、過去の印象的な経験の話が出てきたり。 | |
ほんと「心地よく」読めたよね。 墓地とはいえ、ほとんどが天井のない野外で会話されてるから、なんか読んでてこっちも気持ちのいい風が 吹いてくるような、いい気持ちで読めるのよね。 | |
私たちも家の中じゃなくて、公園の木陰とかで読んだほうが よかったかもね。 | |
まさにゴールデンウィーク中に読むのにピッタリな、ゆったり した気持ちになれるお話。 | |
それにしてもさ、なんといっても一番印象に残るのは鴉でしょ。 | |
うん、鴉はおもしろい。ツッコミがきいてるし、カラス哲学み たいな話も独特でおもしろかった。 | |
あとさ、レベックが話す前とか後とか、かならず、ここはちょ っと思いきって言ってみよう、とか、やっぱり言わなきゃよかったかなあ、でも言ったものはしょうがな い、みたいな感じの心の流れが一行、二行、書き加えられてるでしょ。あれが慣れてくるとなかなか楽し かった。 | |
ああ、あそこまで細かく書いちゃう作家ってあんまりいないよね。 | |
とうぜん、死についてたくさん語られてるんだけど、これが また宗教の影響がまったく感じられなくて、すごく心地よく、納得しながら読めた。 | |
死についての考え方ひとつとっても、なんだかすごく透明感が あるっていうか、澄んだ水みたいな感触のする話なのよね。 | |
天国と地獄だの、痛みだの苦しみだのって、そういう話はないの よね。ただ、頭も体もゆっくりと透明になっていく、そんな感じ。 | |
翻訳も装丁もよかったね。特に装丁は、描いてある景色は、 話のほんの一部を描いた挿し絵みたいなものだけど、雰囲気がすごくこの本をあらわしてた。 | |
摩天楼の黄昏時、空に舞う一羽の鴉。この絵のシンとした感じ が、あってるよね。前に妖精文庫ってので出版されてるんだけど、それは墓場の絵で、指してるものは そっちのほうがあってるんだろうけど、絵がちょっとクドイ。こっちのほうが内容にあってるよね。 | |
邦題もうまい! 『心地よく秘密めいたところ』、まさに そういうお話。 | |
静かな場所で、雰囲気にひたって読んでほしいね。 | |