すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「カメレオンのための音楽」 トルーマン・カポーティ (アメリカ) <早川書房 epi文庫> 【Amazon】
T カメレオンのための音楽
「カメレオンのための音楽」「ジョーンズ氏」「窓辺のランプ」「モハーベ砂漠」「もてなし」「くらくらして」
U 手彫りの柩
「手彫りの柩」
V 会話によるポートレート
「一日の仕事」「見知らぬ人へ、こんにちは」「秘密の花園」「命の綱渡り」「そしてすべてが廻りきたった」「うつくしい子供」「夜の曲がり角、あるいはいかにしてシャム双生児はセックスするか」
にえ 1983年に邦訳出版された単行本を、訳者の野坂昭如氏ご自身が改訳した文庫です。
すみ 単行本のほうは、読もう、読もうと言いつつ読んでなかったから、私たちにとっては初「カメレオンのための音楽」なんだけどね。
にえ なんというのか、不思議な短編小説集というか、事実と虚構が入り混じったルポや交友録や対談などの集めた作品集ってかんじかな。
すみ 「冷血」以後の作品ってことで、「叶えられた祈り」とちょっとスタイルは似ていたよね。もっとあたたかいけど。
にえ 「叶えられた祈り」はP.B.ジョーンズというカポーティの分身のような主人公が登場するけど、「カメレオンのための音楽」では、そのまま カポーティが登場するよね。そのぶん、つねに前面にいるんじゃなくて、聞き役にまわったりすることも多かった。
すみ Tの<カメレオンのための音楽>にかぎっては、短編小説集といっていいでしょ。カポーティの思い出話的なものもあるけど、 きちんと短編小説に仕上がってたし。
にえ 「カメレオンのための音楽」は、カメレオンを飼っている上品な老夫人のお話、「ジョーンズ氏」は、 昔住んでいた下宿の隣の部屋にいた目が見えなくて足も不自由なのに失踪した男性の話、これは十年後の後日談にハッとさせられた。
すみ 「窓辺のランプ」は、暗い田舎道でどうにもならずに立ち寄った老婆の家での不思議な体験談。 最後にゾクッよね。
にえ 「ジョーンズ氏」と「窓辺のランプ」は、「カメレオンのための音楽」からちょんぎられたかたちで、ちくま書房の 文庫「カポーティ短篇集」に収録されてたよね。「窓辺のランプ」は「窓辺の灯」って題名になってるけど。 翻訳者が違うから、読み比べてもおもしろいかな。
すみ 「モハーベ砂漠」はブ男の愛人を持っていた美人妻に、ハンサムな夫が砂漠で出会った盲目の老人の話をするんだけど、 同時にセックスレスで愛し合う夫婦の不思議な関係が浮き彫りになっていくの。
にえ 「もてなし」は誰でも気さくに家に誘う叔父叔母が誘ってしまった驚くべきお客の話で、「くらくらして」は 願いを叶える魔女らしき洗濯女に、8歳の僕が願いを叶えてもらおうとする話。
すみ 「もてなし」と「くらくらして」もちくま書房の「カポーティ短篇集」に収録されてたよね。「くらくらして」は「くららキララ」って題名になってたけど。
にえ 同じ話でも、翻訳者が違うとちょっとずつイメージが違うよね。 まあ、「カポーティ短篇集」はあくまでも日本再編集の寄せ集め的な本なんだけど。でも、翻訳文は良いから、1作ごとを読み比べるぶんにはおもしろいかな。
すみ Uの<手彫りの柩>はそのまんま「手彫りの柩」1作が入ってて、これは対話で進行していく中編小説って感じかなあ。
にえ アメリカで起きた連続殺人事件のルポルタージュって形式で、ほとんどがカポーティと刑事ジェイク・ペッパーとの会話で占められてるんだけど、 あとがきを読むまでもなく、ジェイク・ペッパーは虚構の人物だよね。
すみ うん、奇怪な連続殺人事件に自分の人生もからめとられていく姿は、とっても小説的だった。
にえ 事件そのものは本当に起きたことらしいんだけど、これもまた、殺そうとする相手に 手彫りの柩を送りつけるという奇怪さで、フィクションじみてた。事件の奇怪さも、解決していく過程も、閉鎖的な田舎町ならではの事件解決の難しさも、 なんとも興味深く、おもしろかったな。中編小説の味わい。
すみ Vの<会話によるポートレート>は、有名、無名、さまざまな人々のことを対談形式や交友録形式でつづった、まさしく ポートレート集。「一日の仕事」は、カポーティが気さくな黒人掃除婦メアリーに連れられて、一緒に他人の家をまわる話。カポーティが言葉遣いは悪くても、人生を大切にしていて、人と してあたたかみのあるメアリーを気に入るのは、なんとなくわかるな。
にえ 「見知らぬ人へ、こんにちは」はもとクラスメートで、カポーティとは腐れ縁のジョージの話。ひょんなことから12歳の少女と知りあって、身の破滅を招く ジョージの話は、どこに真実があるのかわからないところがおもしろかった。
すみ 「秘密の花園」は、カポーティが旧知の仲のビッグ・ジューンバッグ・ジョンスンという女性と再会する話。彼女の性格は、 まさしくこの名のイメージどおり。
にえ 「命の綱渡り」は警察に追われることになってしまったカポーティが偶然、女優のパール・ベイリーと出会うことによって起きる、小粋なドタバタコメディのようなお話。
すみ 「そしてすべてが廻りきたった」は殺人鬼の男性との対話。そして「うつくしい子供」は読む前から楽しみにしていた、 マリリン・モンローとの交友録よね。
にえ まさに美しい子供であるマリリン・モンローの魅力が、たっぷり味わえた。グレタ・ガルボがマリリン・モンローを使って映画を撮ろうとしていたなんて、 驚くような話もたっぷり盛り込まれてたし。
すみ 最後が「夜の曲がり角、あるいはいかにしてシャム双生児はセックスするか」、これはカポーティとカポーティの対談。カポーティが三島由紀夫と仲良しだったなんて知らなかった。他の作家の話もタップリ出てきます。
にえ それにしても、自分との対話になると、どうしてもスックとの思い出話が出てきてしまうのね。これが、私たちがカポーティを好きな理由でもあるんだけど。 また「クリスマスの思い出」と「草の竪琴」が読みたくなっちゃった。
すみ もっと全体的なイメージとか、受けた印象とかをきちんと話したかったけど、収録作品を駆け足で紹介してごまかしてしまったねえ(笑)