すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「世界のはての泉」 上・下  ウィリアム・モリス (イギリス)  <晶文社 単行本> 【Amazon】 (上) (下)
アプミーズは小さな国だった。小さな領土のうえに、国王ピーターは税も取り立てず、自由農民たちとともに 仲良く暮らしていたため、富などほとんどなかったが、敬愛されていた。ピーター王には4人の息子がいた。 息子たちも両親を敬愛していたが、狭い王国を飛びだして、広い世界で腕試しをすることに憧れてもいた。 ある日、王は4人の息子にくじを引かせた。それによって、3人の息子は外の世界へと旅立ち、末息子の ラルフだけが、跡取りとして国に残ることになった。しかし、ラルフの外の世界への憧憬は捨てがたく、 ラルフは館を抜け出すと、愛馬に乗ってひっそりと旅だった。
にえ 私たちにとっては、初のウィリアム・モリスです。
すみ ウィリアム・モリスは、1834年生まれで、イギリス・ヴィクトリア朝の 詩人であり、壁紙や織物のデザイナーとして有名な装飾芸術家であり、日本では明治時代に紹介された「ユートピアだより」の 作者として有名な人。
にえ でも、じつはファンタジーの始祖でもあるのよね。イギリスでは、 大人も楽しめるファンタジーというものじたいが評価されず、長くウィリアム・モリスの作品が埋もれてしまっていたんだけど、 「指輪物語」のトールキンや「ナルニア国ものがたり」のC・S・ルイスによって再認識され、ウィリアム・モリス作品も ふたたび脚光を浴びるようになったのだとか。
すみ トールキンもルイスもウィリアム・モリスの大ファンで、与えられた影響は計り知れな い、とのこと。
にえ とくに、この「世界のはての泉」はモリス・ファンタジーの最高傑作って 言われているのよね。
すみ まあ、ファンタジーにはまったく詳しくない私たちが、受け売りでこんなことを 語るのは笑止千万なんだけど(笑)
にえ そうそう、じつは水晶社のウィリアム・モリス・コレクション・シリーズの、 モリスのデザインした壁紙を使った美しい装丁に惹かれて、読まずにはいられなかっただけなんだけどね。
すみ でも、読んで良かったよね〜。もうホントに大河ロマンスの正統派って感じのストーリーなんだけど、 この正当な感じがとっても心地よかった。
にえ うん、変に凝ってなくて、わかりづらい部分がないから、すんなりと 優美な作品世界へのめりこめるよね。
すみ とはいえ、もともとは私たちが苦手とする設定のはずなんだけど(笑)
にえ そうそう。中世と思われる空想世界、若くてまだ経験もないが、知恵と勇気のある美貌の騎士が 旅をする物語。仲間を得て忠誠を誓いあったり、国と国との戦があったり、本当は苦手なはずなんだけどね〜。
すみ 主人公のラルフ王子は、まさに紅顔の美少年、いや美青年かな。 女性たちがはっと息を飲むほど美しい容貌。で、怒ったり、恥ずかしかったりすると、すぐに顔を赤らめるの。
にえ ラルフ王子が旅の途中で出会うのは、光り輝くばかりに美しい女性<豊穣の女王>。 この人は、魔女とも呼ばれ、聖女とも呼ばれる謎多き女性なのよね。
すみ ラルフは一目見るなりメロメロになって、運命をともにしようと考えるんだけど。
にえ そこには意外な運命が待ち受け、ラルフは<豊穣の女王>の秘められた過去を知ることとなるのよね。
すみ そして、なぜかラルフが望む望まないに関わらず、旅の目的地は<世界のはての泉> となっていくの。
にえ <世界のはての泉>を飲んだものは、長らく続く若さと命、それに あらゆる人を虜にする魅力を手に入れるのよね。
すみ <世界のはての泉>の前には<溶岩の海>があり、<魔女の館>があり、 <乾きの砂漠>があり、泉のそばには<乾きの木>というのがあって、それが泉を見つける目印になるのだそうな。
にえ しかしその前には愛や裏切りがあり、戦いがあり、悲劇があり、囚われの身となる運命があり、 なのよね。
すみ 変にこねくりまわさない、純然たる謎がいくつもあって、それを知りたいのと 王子の運命が気になるのとで、夢中になって読んでしまった。
にえ 美男美女が絶賛されまくるわりには必要以上のお耽美さもないし、 だからといって正統派ならではの硬質さもなくて、とにかく読みはじめたら止まらなかった。
すみ 私たちは、こういう騎士の出てくるファンタジーをほとんど読んだことがないから、 とくに凝らないストーリーに新鮮さや魅力を感じるのかもしれないけど、それにしても美しいファンタジーだった。年末の忙しさに ささくれだった心がすっかり潤ったし。オススメです。