すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ボートの三人男 犬は勘定に入れません」  ジェローム・K・ジェローム (イギリス)
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19世紀のロンドンで、僕は107の病にたぶん罹っているようなので、ジョージ、ハリス、それに 愛犬モンモランシーと、気晴らしのためにテムズ河をのぼる2週間のボートの旅に出ることにした。
にえ これは、1889年に書かれたイギリスのユーモア小説です。
すみ そんなに前に書かれてたんだね。19世紀後半の時代の雰囲気がプンプンしてくる 描写なんだけど、笑えるところにまったく古くささを感じないから、読んでて百年以上も前に書かれた小説って気がしなかったな。
にえ うん、古さがないどころか、瑞々しい笑いだったよね。大爆笑じゃなくて、ジワジワとくる笑いだからかな。
すみ 冒頭からもう共感とともに笑えちゃうのよね。主人公である僕は、 重い病気に罹っているような気がして、大英博物館の本で調べてみるんだけど、なんと膝蓋粘液腫という病気以外の、 あらゆる病気に症状がピッタリ当てはまっちゃうの。
にえ わかる、わかる(笑) 家庭の医学書とか読むとさ、一日中だるさが抜けないとか、 起きるのが極端につらいとか、触ると首にしこりがあるとか、自分に全部あてはまるような気がしちゃうのよね。
すみ で、主人公は医者のところに行っても相手にされないから、静養のために 出掛けることにするんだけど、遠くまで旅行に行くのも面倒だから、ちょっとしたボートの旅に出ることにするの。
にえ 旅の仲間は、まず忘れちゃならないのが犬のモンモランシーだよね。
すみ 大型犬じゃなくて、しょせんはフォックステリアなんだけど、凶暴で、ものすごいバカ犬(笑)
にえ 主人公は、フォックステリアっていうのはみんな、こういう凶暴でおバカな ものなんだって例まで挙げて主張してるけど、どう考えても、この主人公ってのが犬の躾なんてできそうにない青年なんだよね。
すみ そうそう、なにしろ、人が一生懸命働いてると、そばに立ってボーっと見てるような青年だもの。 こら、手伝わないか、って言われて、はじめて動き出すようなお方。
にえ それで、僕は仕事が大好きだ、なんて平気で言ってるんだもんねえ(笑)
すみ 大好きだから、やらなきゃならない仕事をタップリためこんじゃってるの(笑)
にえ で、あとは友だちのジョージとハリス。三人はまさに似たものどうし。
すみ 三人とも、自分はかなり有能で、機転も利く紳士だと自認してるんだけど、 じっさいは、やることなすこと間が抜けてて、しかも自分が楽をすることしか考えてないの。
にえ だいたいからして、でかける日の朝、きちんと起きることすらできない人たちだからね。
すみ で、三人はボートで旅をしながら、おもしろかった思い出話なんか語り合っちゃうんだけど、 これがまた大袈裟なホラ話ばっかりなんだよね。
にえ 臭いチーズを持ち歩いたばっかりに、まわりの人たちを恐慌に陥れた話とか、 コミックソングを歌う集まりにやってきたドイツ人の話とか、次から次におもしろ話が出てきた。
すみ 実際の船旅でも、ジャガイモの皮を剥いたらピーナッツの大きさになっちゃったり、 沼にはまっちゃったり、次から次へとすごいことになっちゃってた。
にえ そうかと思うと、行く先々の土地の歴史について美しく語られていたりもして、 ユーモア小説独特の、おもしろいんだけど読んでてだんだん飽きてくるという欠点なく、うまく楽しませてくれるのよね。
すみ おもしろ話だってみんな教訓に満ちてるよ。ただ、教訓をたれるのが、どう考えても お手本となるような人じゃないところがネックなんだけど(笑)
にえ たぶん、この本はあと百年経ったあとにだれかが読んでも、じゅうぶん 笑えるんじゃないかなあ。読んでて「中二階」のニコルソン・ベイカーも、もしかしたらこの本の影響を受け てるんじゃないかな、なんてことも思ったよ。
すみ 19世紀の青年たちのボートの旅ってものじたいが、なんともいい風情をかもしだしているし、 しかも、いろんな話がつまっていておもしろかった。これは読んでみる価値アリでしょ。