すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「塵よりよみがえり」 レイ・ブラッドベリ (アメリカ)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
イリノイ州の片田舎に建つ大きな屋敷には、魔物の一族が住んでいた。屋根裏では、四千年前のファラオの 娘のミイラである<ひいが千回つくおばあちゃん>が昔を語り、17歳の魔女セシーはいつも眠っているようだが、 心は遠くへ飛んでいき、世界中のあらゆるものの中に入ってその目から外を見、音を聴いている。けっして眠らな い<霧と沼の貴婦人>と、昼は寝て夜に起きる<闇の父>は朝になるとおやすみの言葉をかわす。ときにはおおぜいのいとこが、 空を飛び、地を這って集まってくる。そんな<一族>のなかに一人だけ、人間の子供がまじっていた。
にえ 私たちにとっては、スンゴイ久しぶりに読むブラッドベリです。
すみ ブラッドベリが55年かけて書いた長編小説がとうとう邦訳?!ってことで 飛びついたんだけど、じつは55年間のあいだに短編で発表してきた<一族>ものを加筆してひとつにまとめた長編 ってことでした。早とちり〜(笑)
にえ どっちにしても<一族>ものの短編を読んだことがあるのかないのかさえ 忘れちゃってる私たちには新鮮だから、新作と言われても納得してたんだけどね。
すみ でも、長編っていっても、別々の短編だったころのなごりが残っていて、連作短編的な 長編だったよね。ストーリーを追おうとしないで、一章ずつを堪能しながら、積み重ねるような気持ちで読んでいったほうがいいかも。
にえ 私は55年かけた長編って思いこんでたから、ものすごく分厚い本を想像してたんで、 厚みのなさに驚いた。
すみ それだったら私は、表紙の絵に見とれちゃった〜。読んでるあいだも時々、本を閉じて 絵に見とれちゃったんだけど、読み終わったあとにあとがきを見て納得。漫画「アダムズ・ファミリー」で有名な チャールズ・アダムズが<一族>もののためにわざわざ描いた絵なんだとか。
にえ そうそう、私はカバーの裏表紙の上部がバーコードとかの表示で隠れちゃってるから、 ぎゃ〜、ここが見たい〜と騒いじゃったけど、じつはカバーはずしてもちゃんと絵があって、隠れた部分が見られるのよね(笑)
すみ それはともかくとして、読みはじめたら、そうだ、そうだ、ブラッドベリってこんな感じだったと 妙に懐かしくなったよ。とにかくねえ、ゆっくりとしか読めないの。
にえ うんうん、いつもの自分のペースで読めないよね。どうしてもブラッドベリのペースに 引き込まれちゃうというか、休み休みでひと文字ずつ、一文ずつをじっくり読んでしまう。そうとしか読めないんだよね、なぜか。
すみ 文章の余韻がすごいんだよね。なんか余韻を味わってからじゃないと次に進んじゃいけないようなきにさせられる。 それにしても、ジワジワ来たよね〜。この長編ではいちおう、少年ティモシーが主人公だと思うんだけど。
にえ うん、ティモシーがぜんぜん出てこない章も多いけど、長編としての主軸からいくと、 やっぱりティモシーが主人公だよね。
すみ ティモシーは<一族>のなかのたった一人の人間。シェイクスピアを足載せがわりに、 ポオの『アッシャー家』を枕がわりにして、肌着には「歴史家」とメモがつけられ、ピクニックバスケットに入れられて、 屋敷の正面の鉄門の脇に置いていかれた赤ん坊を、<霧と沼の貴婦人>と<闇の父>の夫婦が育てた人間の子供。
にえ 鏡に映らなかったり、空を飛べたり、昼は寝て夜に起きていたり、千年以上も生きられたりする <一族>たちとはあまりにも違う自分に、最初のうちはちょっといじけてたりもするんだよね。
すみ でも、愛情深く育てられてるのよね。ティモシーのお友だちは、古代エジプトから三千年におよぶ旅を終えた ばかりの女王猫のアヌバと、屋敷にたった一匹だけいる蜘蛛のアラクと、ねずみのマウス。
にえ 屋根裏で<ひいが千回つくおばあちゃん>からずっとずっと昔の話を聞いたり、 心を遠くに飛ばすことができるセシーから、知らない世界の話を聞いたり、魔物って何だろう、人間って何だろうなんて考えたりしながら暮らしてるのよね。
すみ 大好きなのは、ときおり訪ねてくるアイナーおじさん! 羽がはえてて空を飛べるんだけど、 一度、ティモシーをつかまえて空高く舞い上がってくれたの。あのシーンはホントに美しかった。
にえ それだったら、セシーのお話も良かったよ。アンっていう美しい少女の中に入り、 トムという青年に恋をするの。
すみ 屋敷に訪ねてくる<不気味な乗客>の話もよかったよね。オリエント急行のなかで看護婦の老嬢と出会い、 一緒に旅をすることになるの。
にえ 逆の時を生きる美女アンジェリーナ・マーガレットの話も好きだったな。 アンジェリーナ・マーガレットの宿命は悲しくもあるけど、毅然と受けとめていて。
すみ どの話にしても、書いてあること以上に想像が膨らんでいくよね。ラストも小説としてきちんとしめなくても、 永遠の広がりを残したまま、放置してくれてたほうがよかったんだけどな。
にえ 透明感があって瑞々しくて、何度も読み返したくなる本だった。冬空の下で読みたい本だね。
すみ ブラッドベリはほとんど読んでないって人にこそ勧めたい本かな。お試しあれ。