すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「狂人の太鼓」 リンド・ウォード (アメリカ)  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
リンド・ウォードが出した6冊の木版画による文字のない小説のうちの1冊。
にえ アメリカでは1930年に出版されたリンド・ウォードの小説です。
すみ 小説といっても、文字はひとつも書かれてないのよね。本を開くと、右側に 木版画による挿し絵、左側は真っ白、で、120枚の木版画の挿し絵だけでストーリーは進行していく、とそういう本なの。
にえ 挿し絵だけで文章を想像させるのよね。木版画の挿し絵は、暗く不気味で力強く、 不思議な説得力のある絵です。
すみ でまあ、私たちがこの本を紹介するのは、ちょっとおふざけというか、リンド・ウォードが 文字をなくし、木版画の絵だけで小説を書いたのなら、私たちはそれに逆乗りして、言葉だけでリンド・ウォードの絵を紹介してしまおうという(笑)
にえ リンド・ウォードが絵だけで、無いはずの文字を想像させるなら、私たちは文字だけで絵を想像して いただきましょう。なんて、リンド・ウォードの完成された木版画に比べたら、私たちのお喋りなんて稚拙すぎてお笑いぐさなんだけどねっ。
すみ まあ、これもひとつの楽しみ方だし、下手なお喋りにかえって想像をかき立てられる方もいるかもしれないよ。
にえ ではでは1ページめ。おおぶりの剣を持ち、帽子をかぶった、頬がこけて目つきの悪い白人の男が、なにかを見ています。
すみ 男の向こう側には海があって、男の足元にはえている植物は南国のものらしい感じなんだけど、 男は黒っぽい長袖のジャケットを着ているよね。顎に手を当てているところが、なんか悪だくみをしていそう。
にえ 2ページめ。黒人の男性が草のはえた地に座り、アフリカのものらしき抱えるタイプの太鼓を叩いています。
すみ 黒人の男性は裸だけど、両腕、両足首には太い金の輪が三つずつ。のけぞって歯をむき出した姿は、 自分の打つ太鼓の音に恍惚としている様子。それを先ほどの白人の男が少し離れた背後から見てるの。いやな予感。
にえ 3ページめ。白人の男は右手に黒人のものだったはずの太鼓を、左手には血のしたたる剣を持ってます。
すみ 横向きの顔は削げた頬が強調されていて、前方を見る目には罪悪感なしの満足感だけ、しかもとても冷たい感じ。
にえ 4ページめ。海岸で、帽子をかぶり、ジャケットを着た男たちに連れていかれる 数多くの鎖に繋がれた黒人たちがうしろから描かれてます。
すみ 沖には大きな帆船が、人をたくさん乗せた小舟が、その帆船に向かって 進んでいるところ。
にえ 4ページめ。出航した船のなかでほくそ笑む、頬のこけた白人の男の横顔がクローズアップされてます。
すみ 男の向こうには、鎖につながれてしゃがんでいる暗い顔をした黒人たちと、鞭を持って威嚇するように立った 白人の姿が。
にえ と、こんな感じでストーリーが進んでいくんだけど、ちょっとは想像できたかしら?(笑)
すみ そのあとは、自宅に帰って裕福になったらしき白人の男の姿や、太鼓に興味をしめす息子、 太鼓を奪い、かわりに本を与える父親と続き、息子の生涯がつづられていってるの。
にえ かなり過酷な生涯だよね。本によって知に憑かれ、それでも太鼓への 執着は忘れがたく、美しい妻を持ち、やりがいのある仕事を持っても孤独が増すばかりのような。
すみ その辺はまあ、見る方の想像によって違ってくるだろうけどね。人間とは思えない感じのする、笛を吹く謎の男 が象徴的に現れるのが印象的だったな。
にえ 全体としては、読者の想像力にまかせっきりで、どうにでもとれるっていうのじゃなくて、 ひとつのストーリーに誘導され、はっきり話の流れがつかみとれる、キチッと物語性のある絵の連続になってるよね。とはいえ、なんども見返して少しずつ想像を固めていったのだけど。
すみ うん、ぜんぜんストーリーがわからないってこともなく、1回で簡単にすべてがわかっちゃうというものでもなく、 何度も見返していくうちに、ストーリーがだんだんとクッキリしてくるの。それがおもしろかった。興味のある方はどうぞ。