=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「毒味役」 ピータ−・エルブリング (アメリカ)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
16世紀のイタリアで、ウーゴは貧しい農家に生まれた。やさしかった母が病気のために自殺したあと、 兄だけを愛する父にも、兄にも邪険にされ、ウーゴは14歳で家を出た。愛する女性と結婚して、やっと 幸せをつかみかけたウーゴだが、妻は娘を産み落とすと同時に亡くなった。それでも娘ミランダへの愛情に 支えられ、貧しいながらなんとか暮らしていたウーゴだが、狩猟中の領主フェデリーコが追う鹿がウーゴの 畑を横切って逃げ延びたために殺されかけ、ルッカの代わりをするなら命を助けてやると娘とともに フェデリーコの宮殿へ連れていかれた。ルッカの代わり、それは多くの敵を持ち、たえず命を狙われている フェデリーコの「毒味役」だった。 | |
これはピーター・エルプリングが、イタリアの古文書を発見し、それを 現代英語に翻訳したって設定の小説です。 | |
ウーゴが実在の人物で、自分の経験を綴ってあるってことになってるのよね。 | |
巻末の作者のインタビューで、イタリアのエージェントが本当に古文書が 発見されたと勘違いしたってエピソードが語られてたけど、これは眉唾物だよね(笑) | |
う〜ん、本当かもしれないし、嘘だとしても、そういうおもしろエピソードを捻り出せるってのが、 何よりストーリーテラーとして優れているって証拠なんじゃない? | |
そうだね、おもしろかった〜。特異な設定をけっこう手堅くまとめてるってかんじだったよね。 | |
時代がルネサンス円熟期のイタリアってのがまずいいよね。そのイタリアで、最下層に近い、貧しい家に 生まれた男が、ひょんなことから領主の毒味役となり、単純に言えば立身出世するって話だから、ますます魅力的。 | |
主人公のウーゴが毒味役ってことで、豪華な宮廷料理があれやこれやと出てきて、 どれも美味しそうだった。 | |
フォークをはじめて使うことになった、なんてシーンもあったり、ヴェネチアやフランスを旅して新しい食に出会う 話もありで、ヨーロッパの食の歴史を堪能できたよね。 | |
ウーゴはあんまり食べることを楽しんではいなかったけど(笑) | |
雇主である領主フェデリーコってのが、とんでもない人物だからね。思いつきで行動して、気に入らなければ残酷な手段で 人も殺すこともいとわないし、女好きで贅沢三昧、領民たちが重税にあえいでても、自分は人気者だと思いこんじゃってるようなやつ。 | |
平気でゲップもおならも人前でするし、汚い病気にばかりかかってるし、でっぷり太って食ってばっかりだし、 なかなかウゲゲな奴だった。 | |
でも、ストイックな感じさえするウーゴにたいして、このフェデリーコって人はベッタリ濃い人物像で、 いい味だしてたよ。意外と清潔好きだったりもするし(笑) | |
当然、宮殿内はおべっか使いの家臣たちばかりだし、妻の兄も、二人の息子さえもがフェデリーコの命を狙ってるようだっていうんだから、 おだやかじゃないよね。 | |
それでもウーゴは、フェデリーコが時折見せる、わずかながらの親しみある言葉や人間らしさを 信じて、忠実に仕えるの。 | |
なんといっても最愛の娘ミランダに、貧困にあえぐ生活をさせたくないって父心があるからねえ、ここはフェデリーコに気に入られて、 長く宮殿にいられるようにするしかない。 | |
宮殿内ではさまざまな陰謀が渦巻き、事件が次々に起きるんだけど、ウーゴは知恵をふりしぼり、 なんとか難局を乗り越えていくの。失敗もたくさんしたけど。 | |
だけどさあ、娘のために必死でがんばるウーゴだけど、贅沢に慣れたミランダは我儘になって困ったことをしでかしたり、 美しく成長してからは恋愛問題でウーゴを悩ませたり、そっちも大変だったよね。 | |
ウーゴ自身の恋愛もあったじゃない。ウーゴってもてるのよね。しかも、 ミランダにしても、ウーゴにしても、愛しちゃえば道徳観念もなんのその、けっこう自由奔放だったし。 | |
愛されていないとわかっていても、なんとか父親にやさしい言葉を かけてもらおうとしたり、娘への愛を語ったりっていう、肉親への愛もタップリ語られてたね。 | |
なんといっても、キーパーソンは極悪人のウーゴの兄でしょ。しばらく会わなかったら山賊になっていたり、 とにかくろくでもない奴で、ウーゴの前に登場するときは、かならずウーゴの人生に傷をつけるの。 | |
ペストが襲いかかってきたり、新しい芸術について語られてたり、時代背景も楽しめたよね。大きく広がりすぎずに、きっちり物語として まとまってるってのが読みやすくもあり、ちょっと物足りなくもありだったけど。 | |
そんな、いつもいつも上下2巻の分厚い本ばっかり読まなくたっていいでしょうが(笑) 負担になりすぎずに小説世界をタップリ楽しめる良い本でした。 | |