すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「九百人のお祖母さん」 R・A・ラファティ (アメリカ)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
もっとも独創的なSF作家と称されるR・A・ラファティの初期10年間の代表的な短編作品21編を 集めた短編集。
にえ 私たちにとっては初R・A・ラファティですが、SF界では奇人、奇才として 有名な方だそうです。
すみ とにかく奇想天外な話を書くと聞いてて、おまけにこの本を読む直前に別の本の巻末で、 参加したSF大会で酔っぱらってるラファティさんの写真を目にしてしまって、これはストーリー破綻しちゃってるような、 理解しようとすれば疲れ果てるような作品を書く人だろうと勝手に想像してしまってたんだけど、違ってたな。
にえ うん、設定は風変わりで、会話は奇妙きてれつ、内容はブラックユーモアに溢れてるって感じなんだけど、 ストーリーはきっちりまとまってるし、じつは裏にスンゴイでっかい知性が隠れてるぞって気づかされるような作品群だったよね。
すみ 本人に社会適応能力があるのかどうかはわからないけど(笑)、とにかく頭のいい人なのは たしかだよね。おもしろい話を楽しみながらも、なんかそっちに感動してしまった。
にえ とにかく質が良くて、とびきり変わった話をたくさん読みたくなったらオススメでしょ。 私たちのように、あんまりSF小説を読んでなくても大丈夫です。
すみ では、21編すべてはご紹介しきれないので、とくに印象に残った、というか、 あらすじを書きやすそうだった9編をご紹介いたします(笑)
<九百人のお祖母さん>
プロアヴィタス人は死なないという話に興味を持った特殊様相調査員のセランは、プロアヴィタス人の ノコマの話を聞いて、たしかめることにした。ノコマの家には、プロアヴィタス人の家庭としては少ない方だが、 九百人のお祖母さんがいるという。
にえ 読む前は、なんで題名が「九百人のおばあさん」じゃなくて、「九百人のお祖母さん」なんだろうと ずっと疑問だったんだけど、読んでわかった。オバアチャンが900人いるんじゃなくて、母親の母親の母親の……ってずっと遡れる意味での お祖母ちゃんが900人いるのね(笑)
すみ 遡っていくと、お祖母様がたの姿がだんだんと変化していくことに気づくのだけど、 これが想像するだけでいつまででも楽しめちゃう。
<時の六本指>
ある朝目覚めたヴィンセントは、世の中の時が止まっていることに驚いたが、じつは世の中の時が止まっているのではなく、 自分一人が高速で動いているために、世の中が止まって見えるだけだということに気づいた。高速の時間と 平常の時間を使い分けることができるようになったヴィンセントは人生を謳歌したが、彼の様子が日に日におかしくなって いくことに同僚の女性は気づいた。
にえ ラファティさんは、ほんのわずかな時間のあいだに長い時間を過ごせたり、またその逆に デッカイものがちっちゃくまとまるって、そういう圧縮や膨張のような現象が好きみたいで、たびたび出てきます。
すみ ほんのわずかな時間で二百冊も本が読めたり、たった一晩で多くの言語を完全にマスターできたり、 うらやましいと思ったら、やっぱり裏があったのね〜。
<山上の蛙>
ガラマスクは、親友アリンが失敗し、死ぬことになったパラヴァータの狩りに挑むことにした。三段になっている山で 猫ライオンのサイネク、熊のリクシーノ、コンドル鷲のシャソス、そして蛙男のペーター・ジェノという4つの生き物を仕留めれば、 パラヴァータの謎は解けるといわれているのだが。
にえ パラヴァータ星にはローアという非常に賢い人類と、オガンダという 愚鈍で醜い人類が住んでいるんだけど、なぜかオガンダばかりが増えて、ローアは姿を消しつつあるの。
すみ ガラマスクの案内人チャヴォはオガンダなのよね。なんか生理的にムカムカするようなことばっかり言うし、 隙があればガラマスクを殺そうとするし、とんでもない奴。パラヴァータの謎には納得させられました。
<カミロイ人の初等教育>
あまりにも優秀な人材ばかりを生み出すカミロイ人の教育を学ぼうと、地球から3人のPTA代表が 訪ねていった。その驚くべきカリキュラムとは。
にえ カミロイ人は学校を卒業するまでに、とにかく医学から建築技術から 楽器の演奏からジョークやウィットの飛ばし方から、ありとあらゆる専門的な知識を身につけてしまうのよね。
すみ カミロイ人の子供たちはみんな神童ってかんじの早熟で生意気な子供たちなんだけど、 べつにカミロイ人に限らず、他の短編でも子供の登場人物はみんな早熟で生意気だったりします。
<スロー・チューズデー・ナイト>
その世界では、午前4時から正午までを活動期間とする早起き族と、正午から午後8時までを活動期間とする 昼光族と、午後8時から翌朝4時までを活動期間とする深夜族の3派が共存していた。深夜族の時の流れは高速だ。 乞食のバジル・ベイグルベイカーは一夜のうちに発明をして富豪となり、ベストセラー小説を書き上げて時の人となり、 株式で成功して大富豪となり、落ちぶれて乞食に戻った。その間、何回結婚して離婚したかはあとから数えてみないとわからない。
にえ これも時間圧縮型のお話。バジル氏のたった一夜にして波瀾万丈な一生もののようなお話。
すみ バジル氏の波瀾万丈人生より、バジル氏にからむ、この世界で一番の美女と 世界で一番手の早い女のバトルのほうがおもしろかったりするんだけどね(笑)
<スナッフルズ>
惑星ベロータは冗談でつくられたとしか思えない星だった。果物はいやな匂いがして、茨は汁気が多くて美味い。 始祖蝶は人を刺し、トカゲは蜂蜜を分泌する。湖はソーダ水、おまけに人まねをする熊がいた。
にえ ベロータの調査に乗り出した、優秀な6人の探検隊員の運命やいかにってお話。 でもじつは、悪ふざけに満ちた楽しい惑星が、一夜にして恐怖の星となる怖いお話だったりするんだけどね。
すみ こういう逆転ものもたびたび出てくるよね。ラファティさんのお話は、いつも愉快と恐怖が 背中合わせなの。あと、蛙と熊には並々ならぬ執着があるみたいで、他の話にも蛙と熊はたびたび登場します。
<せまい谷>
1893年、ポーニー族のインディアンであるクラレンス・ビッグ=サドルは政府から与えられたわずか 160エイカーの土地に課税されることに腹を立て、思い出せない呪文をてきとうにこねまわして土地に魔法をかけた。 偶然のいたずらか、いいかげんな魔法によって800メートル四方のその土地は、外から見ると幅2メートルぐらいにしか見えなくなってしまった。
にえ これは土地圧縮ものってお話。時は流れて現代になって、魔法のかかった土地を買うことにした一家の運命やいかに。
すみ この一家の奥さんが、旦那さんを担げるぐらい逞しいんだけど、どのお話でも、 女の人は綺麗で怪力だよね。これも特徴のひとつかな。
<町かどの穴>
ある夕方、意外性満点の愛する妻と5人の子どもと、頭が悪くてかわいい飼い犬の待つ我家へ帰ってきた ホーマーは、もう一人の自分が先に帰宅して、妻をむさぼり食っている場面に遭遇した。
にえ ホーマーの奥さんが怪物に飲み込まれながら叫ぶ「ゼッキョー、ゼッキョー」って いうセリフが、妙に頭に残ったな(笑)
すみ ホーマーとしか思えない、もう一人のホーマーは、じつはぜんぜん見てくれがホーマーとは似てなかったりするのよね。 でも、見た人はホーマーだと思っちゃう、この心理の解説のしかたが凄くて、思わず納得させられてしまった。
<他人の目>
チャールズ・コグズワースは新しい大脳走査機を完成させた。それは、ふたつの脳を連結させ、他者が見る世界を そのままもう一方も見ることができる小型装置だった。
にえ たとえば、ブタの目から見た世界は、私たちが見ている世界とは違うのか。 草の色は同じ色か、ブタや人間は同じように見えるのか、なんてことをクドクド書いてあるのがおもしろかった(笑)
すみ チャールズは憧れの美女ヴァレリーの目で世界を見ることにするんだけど、 それは驚くべきグロテスクな世界だったのよね。