すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「イースターエッグに降る雪」 ジュディ・バドニッツ (アメリカ)  <DHC 単行本> 【Amazon】
1年のうちの9ヶ月は雪に埋もれ、あとの3ヶ月は泥まみれ、村人たちは何代さかのぼっても、せいぜい 村から40キロと離れたことがない頑なな人々。いつ飢えて死ぬかもわからないような暮らしなのに、 山賊に襲われたり、働き手の男が兵士としてこき使われるために連れ去られたりすることもしょっちゅう。 そんな村から逃げ出した15才の少女イラーナは、憧れの地アメリカをめざした。
にえ これは、ジュディ・バドニッツというアメリカの女性作家の初長編小説です。
すみ 前半は寒村から抜け出し、アメリカに渡るイラーナの半生がつづられ、 後半は、イラーナと、イラーナの娘サーシィ、孫娘のメーラ、曾孫のノミーの4人が交互に語るって構成なのよね。
にえ 読む前は、無学な少女が幸せをつかもうとアメリカに渡って苦労してっていう「いいお話」系かなと思ったんだけど、 違ってたな。
すみ うん、けっこう残酷で、それでいてユーモアに満ちていて、マジックリアリズムも とりいれてあって、おもしろかったよね。
にえ 前半のイラーナの半生は、ダークな冒険物語って感じだった。後半は、 4世代、4人の女の深い確執が描かれてた。
すみ 書き出しから、「お、これはおもしろい小説だ」と思ったよね。 イラーナが生まれてくるところから話がはじまるんだけど。
にえ うんうん、ブラックユーモアがばっちりきいてて、これは、と思った。 雪のために産婆が呼べず、お父さんがお母さんの出産を手伝ってると、そこによからぬことをたくらむ山賊が訪ねてくるんだけど、 お父さんの言ったひとことで、山賊は震え上がって逃げ出しちゃうの。
すみ それから、イラーナの3才年下の弟アリが生まれるエピソードがあって、 ここでマジックリアリズムの匂いがしだすんだよね。
にえ アリは生まれたとき、鬼みたいに額にこぶが二つあって、ゴワゴワの毛が生えてて、 村人たちから忌み嫌われるんだけど、成長するとどんどん大きくなって、とうとう動物に襲いかかって、生肉を食らうように なっちゃうの。
すみ かなりのバケモノだけど、お母さんやイラーナには従順なのよね。
にえ お母さんの存在も強烈だったよね。村人たちは魔女といわれて嫌われてるんだけど、 さまざまな薬草を使いこなし、愛する子どもたちのためには恐るべき力を使い、となかなか凄い人。
すみ お母さんの若い頃のエピソードもおもしろかった。ちょっと宙に浮いてたりして。
にえ それからいろいろあって、イラーナは家出するんだけど、そのすぐあとには、 目を背けたくなるようなスンゴイ残酷なことが起きるのよね。
すみ 家を出たイラーナは、堕胎と少女の見世物をやって暮らしているおばあさんの ところで働いたり、なぜか夫が次々と死んでいく女流画家のもとで働いたりするんだけど、どこに行っても暗黒な秘密が 待ち受けているの。
にえ 空には腹に人間の顔があるハーピィが飛んでたり、港と思っていった場所は世界の果てだったり、 だんだんマジックリアリズム色も濃くなっていったね。
すみ アメリカに渡ってからは多少、話がホンワカするのかなと思ったんだけど、 それは甘かったな(笑)
にえ サーシィもメーラもノミーも、とてもじゃないけど普通の女性の幸せを つかめるような人たちじゃないからね。
すみ サーシィは気取り屋で、見てくればかり気にしているような女性なんだけど、 この女性の結婚のエピソードは怖かった。
にえ メーラは頭のいい女性だけど、自分の兄のことを本気で愛して、異常な行動に走るのよね。
すみ ノミーがまだ一番まともだけど、とにかく仲がいいとは言えない3人の女性によって育てられるから、 けっこう大変そうだった。
にえ とにかくいろんなものが詰め込まれて、不思議なまとまりを見せてる小説だったね。 母と娘の確執とか、結婚の難しさとか、そういう身近な問題もたくさん盛り込まれてるけど、幻想と幻覚のあいだを揺れ動いて、 どこまでが真実かわからない話でもあったし。濃い小説が嫌いじゃない女性読者だったら、かなり楽しめると思うよ。
すみ 残酷な話も、幻想的な話も、ギリギリやりすぎのところまでいってなくて、でも、かなり奇妙な小説で、 夢中になって読めました。