=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「悪魔とプリン嬢」 パウロ・コエーリョ (ブラジル)
<角川書店 文庫本> 【Amazon】
人口はたったの281人、若者はみんな出ていき、今では子供が一人もいない。おもだった産業もなく、観光客が来ても、狩りをするぐらいしかすることのない。 そんな山間の田舎町ヴィスコスに、一人の異邦人がやってきた。ホテルの宿泊カードによるとアルゼンチン生まれでカルロスという名前だが、 それは本当ではない。男はホテルのバーで働く街で一番若い女性シャンタール・プリン嬢に恐るべきことを告げた。これから一週間以内に町の 誰かが死体になっていたら、地金10枚を差し出そう。それだけあれば、この町の住人全員が楽に暮らせるはずだ。金欲しさに殺人を犯すかどうかは、 町人たちに決めてほしい。伝言を頼まれたプリン嬢は怖ろしさに震え上がった。 | |
いよいよ、三部作の最後を飾る3作目「悪魔とプリン嬢」です。 | |
これは文句なしにおもしろかった。あくまで私の感覚ってことで言わせてもらえば、 前2作とくらべて、はるかに、はるかにおもしろかったな。 | |
おもしろかった〜。一番寓話的な話ではあるけど、ぐっと大人向きの話って気がしない? | |
ラストのほうで説教臭くなりかけたから、あららと思ったけど、そこはぐっと抑えた感じで、 お説教臭く終わらなかったしね(笑) | |
1作目のテーマが「愛と信仰」、2作目が「生と死」とするなら、 この3作目はなんだろう。単純に「善と悪」かと思ったら、そうとも言い切れなかったよね。 | |
うん、<悪魔>と<プリン嬢>なんだから、単純に、カルロスと名乗る男が悪の代表で、プリン嬢が善の代表で、 この2者の戦いってことになるのかしらなんて考えてたんだけど、そうではなかったね。 | |
善と悪の戦いでもなかったし、カルロスと名乗る男のなかにも、プリン嬢のなかにも、はっきりと善と悪があった。 | |
プリン嬢なんて善人どころか、ぜんぜん小説の主人公っぽくなかったしね。まあ、そこがとってもおもしろかったんだけど。 | |
かわいそうな娘ではあるの。プリン嬢は父親がだれかもわからないっていうから、たぶんあんまり節操のある母親じゃなかったんだと思うんだけど、 その母親がプリン嬢を産んですぐ死んじゃって、それからはお祖母さんに育てられて、町の人たちには「あのみなしご」なんて言われてんの。 | |
お祖母さんはやさしい、いい人だったみたいだけどね。 | |
プリン嬢はお祖母さんが亡くなってからは、ホテルのバーで働きながら旅行客に色目を使い、 なんとか田舎町ヴィスコスから出ようとあがいてるのよね。まあ、けっきょく、母親と同じで節操がない女になっちゃったってことになるんだけど。 | |
同級生だった子はみんな都会に行っちゃったのに、自分だけは田舎でくすぶって、 田舎町では自業自得とはいえ悪い噂が立っちゃってるから、結婚相手を見つけられるあてもないし、焦るのも無理ないんけどね。 | |
そんなところに現れるのが、カルロスと名乗る謎の男。この男がプリン嬢に目をつけ、 町の人々が共謀してだれか一人殺せば、楽に暮らせるだけの金をあげるぞと提案するの。 | |
とにかく金は欲しい、でも、人殺しなんてぜったいダメだと思うだけの良心はしっかりとあり、 でもでも、黙っていて町の人たちに知られたら、自分が犠牲者になるんじゃないかって不安もありで、プリン嬢は悩みに悩むのよね。 | |
男のほうにも、こんな提案をしたのは、じつはっていう理由があるのよ。悪魔的な行為をしていても、 悪魔にはなりきれてないの。 | |
そこから、謎の男とプリン嬢の知恵を凝らし、策を凝らした攻防があり、やがて町の人々も巻き込んでいくのよね。 | |
謎の男とプリン嬢、二人のなかにもまた天使と悪魔の激しい攻防があるの。ホントに最後の最後までどうなるのかと緊張感タップリだった。 | |
かならずしも、善が悪に勝つって単純な結末じゃないから、お楽しみに〜。 | |
シュミレーションゲーム的な感覚もあったね。貧しい人々の集団に、たった一人犠牲者を出せば、他の全員の楽な暮らしが補償されるとしたら、 人々は一人の命と全員の幸せ、どっちを選ぶのかっていう。コエーリョはゲームソフトも作ったりしてるらしいんで、そういう発想があったのかもしれない。 | |
町に残るさまざまな伝説が効果的に挿入されてたり、夫の霊と話すオバアチャンが出てきたり、そういうところも楽しめた。 | |
けっきょく、この1冊で三部作全部読んだ元は取れたって感じ。これは本当におもしろかった。前2作がイマイチだった人にも、あえてオススメしたいところだな。 | |
三部作とはいえ、これ1作はぜんぜん雰囲気が違うし、1作目と2作目の発表のあいだには4年、2作目と3作目のあいだには2年というブランクがあって、もしかして コエーリョさん自身が作家として変わりつつあるのかな、なんてことも思ったんだけど、それはまた次の作品を読ませていただかなくちゃわからないか。とにかくこれはおもしろかった! | |