すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ベロニカは死ぬことにした」 パウロ・コエーリョ (ブラジル)  <角川書店 文庫本> 【Amazon】
スロベニアの精神病患者のための病院ヴィレットに、一人の若く美しい女性が昏睡状態で収容された。 彼女の名はベロニカ。24歳で、図書館司書として働き、修道院の一室を間借りして、夜にはパブで気楽なひとときを過ごす。 もちろん、言い寄ってくる男性もいたが、門限があるという断りやすい理由があったので、深入りはせずにすんだ。 そんな堅実で、単調な生活に倦み、ベロニカは自殺を試みた末、ヴィレットに収容されることになったのだ。 目を覚ましたベロニカに医師は、彼女の心臓は多量に飲んだ睡眠薬のせいで弱り、もってあと一週間の命だろうと告げた。
にえ コエーリョの「そして七日目には……」三部作の2作目です。
すみ これは題名からして、暗〜い感じを想像してたんだけど、意外や意外、爽快な読後感だった。
にえ うん、「ピエドラ川のほとりで私は泣いた」みたいに濃い宗教話が出てこないから、読みやすかったしね。
すみ 書き出しの部分から、おやって感じだったよね。ベロニカが自殺しようとする シーンなんだけど、睡眠薬を飲んだあと、「スロベニアはどこにあるのか?」っていうフランスの雑誌の記事を読んで怒って抗議文を 書こうとしたりして、ちょっとコミカルなの。
にえ そうそう。そのうえ、雑誌の記事にブラジル人作家のパウロ・コエーリョさんなんて出てくるから、 暗い書き出しを想像してただけに、「えっ」と思った。
すみ コエーリョはあとでもう一度、自殺未遂後にベロニカが入院することになる精神病院の院長の娘の友人ってことで、 登場するのよね。
にえ コエーリョ自身が精神病院に3回も入れられたことがあって、それでこの小説を書く気になったって そこで説明が入るんだけど、本文中に作者本人が唐突に現れて、この小説を書くことにしたのは、なんて語りだすって珍しいよね。
すみ 驚いた。これについては賛否両論あるらしいけど、私はおもしろいなと思ったんだけど。少なくとも、 他の2作のはしがきよりはいいんじゃない?
にえ そうそう、小説の前に、作者自身が軽い解説をつけてあるのよね。 この方はどうしても、小説を書いて、あとはどうとでも解釈してくださいって読者に委ねきっちゃうのがいやみたいで、 一言添えたくなる方みたい。
すみ で、ベロニカが入院する精神病院は外国の投資家たちが営利目的で作った病院だそうで、とにかく高級な精神病院なのよね。
にえ うん、入院患者は金持ちの親が自分たちにとって恥ずかしい子供を強制的に入れてるケースもあれば、 何かから逃げのびるために、病んでもいないのにあえて自分から入ってる人もいたり。
すみ 入院患者たちのなかにはクラブって名前の知的なサークルを作ってる人たちまでいるのよね。この人たちにとっては保養所気分かな。
にえ 食事は美味しいし、精神病患者扱いだから、好き勝手なことをしても咎められないし、 目標を見失った人にとっては居心地のいい場所だよね。
すみ そんな中に、あと一週間の命と宣告されたベロニカが入ってくることで、かるく波風がたつの。
にえ それにしても、すぐに死のうと思ったのに、死ぬまで一週間の猶予が与えられた、なんて皮肉だよね。
すみ 若くて美しい、生きていればこれからいくらでも楽しい思いができそうなベロニカがあと一週間の命。 患者たちは最初、警戒して近づいてこないんだけど。
にえ あと一週間で死ぬ人と知りあって、仲良くなったりしたらあとが辛いし、ベロニカが良い娘かどうかなんて、 すぐに死ぬことを思えば知りたくないしね。
すみ でも、ベロニカは少しずつ他の人と話すようになり、自分の悩みをもう一度見つめるようになり、周囲もまた、 ベロニカのせいで自分を見つめ直す機会を得て、ってことで、簡単に言えば癒し系の小説ってことになるのかな。
にえ うん、ベロニカは似た悩みを持つ多重人格患者の青年と知り合い、少しずつ心を通わせていくことになるのだけど、 それも含めてベタといえば、ベタなんだよね。
すみ 登場人物たちのそれぞれの過去や苦しみのエピソードがいくつも出てくるけど、 それもまあ、ベタといえばベタだよね。でも、そのわりにはおもしろく読めたんだけど。
にえ サラッと書いてあってイヤミがなかったからかな。登場人物たちもぐずぐず悩んでなくて、どこか冷めてたし。 私もこの本はわりとおもしろいと思ったよ。
すみ あんまり期待しなかったら、これはこれでおもしろいんじゃないでしょうか、ということで。