すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「壜の中の手記」 ジェラルド・カーシュ (イギリス)  <角川書店 文庫本> 【Amazon】
エラリイ・クイーンやハーラン・エリスンも大絶賛した、異色作家カーシュの短編集。
にえ 私たちにとって、初カーシュです。カーシュじたいが久しぶりの邦訳出版みたいだけど。
すみ ひとことで言えば、奇譚ものだったよね。怪奇小説っぽいやら、SFっぽいのやら、ミステリっぽいのやら、 いろいろあったけど、どれも独特の不可思議な世界が展開されてた。
にえ 不気味系の話が好きで、短編小説が好きだったら、間違いなくオススメしたい 本だよね。
すみ うん、とにかくどのお話も完成度が高くて、グチャッと不気味な雰囲気が漂いまくってて、 でも品の悪さはなくて、読みやすくて、と、けなしようがなかった。
にえ 破綻もなく、どれもキレイにまとまってて、さすがイギリス人作家って感じだよね。 上質な短編集。
すみ 奇譚ものとひとくくりにしても、あれやこれやとテイストの違う作品の集まりだから、 飽きずに最後まで夢中になって読めました。
<豚の島の女王>
船が難破し、サーカス団のうちの醜い大男ガルガンチュアと、二人の小人チックとタックと、手足のない美女ラルエットだけが 豚の島と呼ばれる無人島にたどりついた。
にえ ラルエットは貴族の出身で、手足がなくてもペンを口でくわえて美しい文字を書き、 大変な教養を持った女性なのよね。
すみ それぞれ足りないところがあるから、四人は四人そろってはじめて完璧な暮らしができるんだけど、 心に芽生える嫉妬や妬みが、それを許さないの。悲しいお話。
<黄金の河>
ピルグリムという男は、アマゾン河の支流にある部落で、一千万個に一個といわれる、人間並みの知能を持つ トクテ・ナッツを手に入れた。
にえ ピルグリムは知能を持つトクテ・ナッツで、ティクトクというゲームに勝ち続け、 黄金やエメラルドやルビーやダイヤモンドを大量に手に入れたって言うんだけど。
すみ 今は落ちぶれ果て、黴の匂いがしてきそうな男なのよね。さて、真実はどうなんでしょ。
<ねじくれた骨>
凶暴なワニがはびこる沼に面し、人食い人種ラトン族に囲まれた地にある流刑所に送りこまれた囚人たちには、 逃れる術はないはずだったが。
にえ ストーリーもおもしろかったんだけど、劣悪な環境の流刑所の所長が、 いらっしゃいませ〜みたいな乗りで話すのが、妙に好きだったな。
すみ 主人公は殺人の罪でこの流刑所に送られてくるんだけど、ここでラトン族の謎と、もうひとつ 驚くべきことを知ってしまうの。
<骨のない人間>
ヨーワード教授とともにアメル河の水源の奥の高地のジャングルを訪れた理学博士グッドボディーは、 そこで骨のない人間を見たという。
にえ 色は灰色で、皮膚はゼラチン質、おおよそ人間とは思えない生き物が大勢で 襲いかかってくるのよ、怖すぎ(笑)
すみ 衝撃のラストは意外にも、SF然としたオチでした。
<壜の中の手記>
不思議な形をした壜のなかには、恐るべき体験をしたアメリカ人作家アンブローズ・ビアスの手記が隠されていた。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作品。
にえ ビアスはメキシコの奥地に忽然と現れた、黄金が満ちあふれた豪華な邸宅に誘い込まれ、身を寄せていたらしいのよね。
すみ おそろしいお話なんだけど、七人の美女による全身マッサージというのが昇天するほど 気持ちいいらしくて、妙に羨ましかった〜。
<ブライトンの怪物>
1745年にブライトヘルムストン沖で発見された、極彩色の奇怪な模様に埋め尽くされていたという人間のような形をしたばけものの正体とは。
にえ このばけものの正体ってのは、日本人なら腰抜かすぐらいビックリするよね。
すみ 過去と現在が不思議な符合を見せ、不可思議な結論に達するお話。
<破滅の種子>
骨董品や宝石の小商いから商売を発展させたジスカ氏が扱う品は、エミール・ゾラが『ナナ』を書いていたときに吸っていたパイプや、 バルザックがジョルジュ・サンド通りで足元を照らしていた燭台など、どれも眉唾ものの逸話がついた品ばかりだった。
にえ ほらを吹いて物を売ることを常としていたジスカ氏が、手に入れた指輪に不気味な逸話を添えてしまい、 事態は思わぬ方向へ。
すみ 贈られた物がかならず不幸になる<破滅の指輪>が、その名にふさわしい数奇な運命をたどっていくのよね。
<カームジンと『ハムレット』の台本>
財産のほとんどを失ってしまった紳士、サー・マシー・ジョイスのため、彼の蔵書を高額で売ろうとした友人は、歴史解明クラブなる悪趣味な 有閑マダムたちの団体に、一泡ふかすことにした。
にえ シェイクスピア作品を書いたのはじつは、フランシス・ベーコンだとか、 クリストファー・マーロウだとか言われている、イギリスの文学ゴシップを嘲笑した、ひねりの利いたユーモア話。
すみ イギリス人は、シェークスピアの正体話がほんっと好きなのね。
<刺繍針>
スピンドルベリー街にある家で、8歳の姪と二人きりで暮らしていたミス・パンタイルが変死を遂げた。 一本の刺繍針が頭蓋骨を突き抜け、脳に刺さって死んでいたのだ。
にえ どんなに力があろうと、金槌を使おうと、頭蓋骨にまっすぐ針を刺すなんて、できるはずがないのだけど、 できちゃってるという謎を解く警官のお話。
すみ これは、きちっとトリック解明ありのミステリだった。
<時計収集家の王>
ニコラス三世のお抱え時計師ポメル伯爵が作ったのは、有名なカラクリ時計<ニコラス大時計>だけではなかった。
にえ ルイ16世のように時計に魅入られてしまった王と、陰謀と策略が渦巻く宮殿に時計細工師、 こういう話は好きなのよ〜。
すみ 年老いていつ亡くなるかわからない王のために、人形細工師とカラクリ細工師が 力を合わせて作るものといったら、アレでしょ、アレしかない(笑)
<狂える花>
精神異常者の血を薄めた培養液で育てた植物の異変に気づいたヒューイシュ博士は、温室に恐ろしい食虫植物を育てはじめる。
にえ 不気味だけど救いのある、マッド・サイエンティスト話。
すみ 狂人博士のおどろおどろしいお話も、田舎紳士の領主の品のいい行動で中和され、ちょっといい話になってた。 けど、怖いラスト。
<死こそわが同志>
一人の女性を愛しつづける武器商人サーレクは、より強力な武器を開発するため、地下研究室を作った。
にえ 売りさばく武器は最初、マシンガンとか大砲とかなんだけど、最後のほうは恐ろしい毒ガスになっていくのよね。
すみ サーレクの見事なまでの壊れっぷりにゾゾゾッとした。私はこの話が一番好きかな。