=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「百万年のすれちがい」 デイヴィッド・ハドル (アメリカ)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
マーシーは15歳の時、41歳の母の親友の夫ロバートと愛人関係にあったことを夫のアレンには話していない。 アレンはマーシーの心の壁に気づいてはいても、プライドが高いので気づかないふりをしている。ユタはマーシーの 子供の頃からの親友でアレンのことを嫌っているが、心の底では惹かれてもいる。ユタの夫ジミーは初めて会ったとき から今までマーシーへ恋心を抱きつづけている。だからマーシーの親友ユタと結婚した。仲の良い2組の中年夫婦には、 それぞれが心に秘めた想いがあった。 | |
これは、詩人でもあり、短編作家でもある作者が初めて書いた長編小説なのだそうです。 | |
長編小説とはいっても、章ごとに違う登場人物が自分の思いを吐露しながら出来事を綴る短編みたいになってて、 それが積み重なってひとつながりの物語になっていくってかんじなのよね。 | |
あなた好きでしょ、これ。 | |
そうなのそうなの、すっごく良かった。登場人物のそれぞれに秘めた想いがあって、 それを隠しながら、表面的には仲良く暮らしてる、でもみんな孤独。ジンワリとせつなくなっていく感じがたまらなかった。 | |
でもさ、ネットで調べてみると、大絶賛してる方と、ぜんぜん意味がわからなかったって方と ちょうど半々ぐらいなのよね。 | |
だろうね。登場人物のそれぞれの心情と過去への回想が淡々と積み重ねられていく設定だから、 だからなに?ってなる人も多そう。 | |
4人の男女の複雑な関係の話かなと思うと、回想がまたほんの子供の頃のことだったり、 亡くなった妹やピアノへの執着なんかだったりして、主軸のストーリーからは一見はずれていて、え、なんなの?となりがちかも。 | |
うん、宣伝文句と違って、この小説は恋愛小説とか、本当はわかりあえない夫婦のお話っていう 単純なものじゃなくて、生きている上でのもっと深い様々なものをテーマに織り込んでいるんだと思うんだけど、ぱっと見にはそれがわからないから、 なんで恋愛を語るのに子供の頃の思い出話が必要なのよ、となっちゃうのかも。 | |
それに、過去の出来事の回想といっても、ぜんぜんドラマティックじゃなくて、 ほんの些細なことから優しさについて気づいたとか、そういう話が多いから、うんうんわかるって共感しなかった人には、 くだらない話をダラダラ書いてるんじゃないよってなっちゃうのかもしれない。 | |
とにかく私はすっごく気に入った。詩人で短編作家が書いた小説って聞いて期待してた通りというか、 それ以上に良かった。不思議な透明感も、ジワッと考えさせられる内容も、登場人物の独特の考え方も、ぜんぶ、ぜんぶ良かった。 | |
なんといっても登場人物は独創的というか、個性の際だたせ方がうまかったよね。 | |
うん、みんな良かった。まず、マーシー。綺麗で、スポーツも出来て、頭も良くて、 でも、好んで秘密を抱え持つ、どこか孤独を求めてるような性格で、だれに対しても一線を引いてるの。 | |
マーシーの夫アレンは、マーシーほどではないけど見かけもよくて、頭もまあ良くて、スポーツもまあ できるんだけど、かなりの自惚れ屋で自信過剰、友だちがあまり作れないタイプ。でも、まったく無神経みたいだけど、じつはけっこう自分のことをわかってたりするのよね。 | |
わかっていても、こうやって見栄はって生きていくことしかできない、みたいなところがあって、けっこう小心者なところを 隠し持ってたりして、好きになれなくても共感できる男性像だった。 | |
マーシーの親友ユタは、笑顔で無口の人なのよね。他の3人の心の中のことに気づいてたりもするけど、 その先まで読んでるような鋭さとシビアさがあって、それでいて優しさも知ってる人だったよね。 | |
他の三人はけっこうソリッドタイプというか、強さ鋭さ堅さみたいなものがあったけど、ユタの夫ジミーだけは、 悪く言えば優柔不断、でも、ほんわりとなんでも赦しちゃうようなやさしさがあって、微笑ましい存在だった。 | |
いつまでもマーシーのことを思って、マーシーのそばにいたいから嫌いなアレンと友だちになり、 そんなに好きでもないユタと結婚したと自分では言ってるけど、じつはアレンも、ユタも、マーシー以上といってもいいほど大事な存在だってことが、 伝わってくるの。 | |
それから最後のほうに、15歳のマーシーと関係を持っていたことがあるロバートと、ロバートの妻が また強い存在感だったよね。 | |
とくにロバートの妻の告白は衝撃的だったな。あの時、そんなことを考えていたのかとハッとさせられた。 | |
過去の話も、ロバートが少年時代、白血病で亡くなる運命にある妹を中心としていた家庭に育っていた話とか、 少女時代のユタのなにげない一言がマーシーを傷つけてしまう話とか、どれもよかったな。 | |
合わなければそれまで、ピタッと来るものがあれば、これから先もずっと読みたくなる、深い味わいのある小説を書く作家さんだと思う。 アメリカのアマゾンでこの本、それから他の著作のも読者の点数を見させていただいたんだけど、これほど満点の星5つがたくさんつけられてる作家さんは初めて見たかもしれない。 | |
とにかく作者の感受性が素晴らしかった。似てるってほどではないんだけど、グレアム・スウィフトをもっとサラッと読みやすくしたって印象を持ちました。あの路線が好きな方には、 ちょっと試していただきたいな。 | |