すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「『ケルズの書』のもとに」 ペーター・R・ヴィーニンガー (オーストリア)  <水声社 単行本> 【Amazon】
802年アイルランド、復讐に燃えるヴァイキングたちに襲われたイオナ島のベネディクト修道会の修道院から、 4人の修道士が逃げ出した。彼らは、美しい字を書く者、美しい挿し絵を描く者、といった特殊な能力を持ち、 長い年月を掛けて豪華写本『ケルズの書』の作成にかかわっていた。1992年ウィーン、経済省のエリート役人で あるシュタインヴェントナーは、真新しいホンダ・プレリュード2.3iで走行中、急に車道に飛びだしてきた男を 轢き殺した。車に撥ねられたとき、男が手に持っていた鍵が車内に飛び込んだ。シュタインヴェントナーは 鍵をポケットに入れ、車を乗り捨てて逃げ出した。それこそが、『ケルズの書』の謎を解くための重要な鍵だとも知らずに。
にえ 水声社から出た<現代ウィーン・ミステリー・シリーズ>の第1巻です。
すみ 第1巻とはいえ、全巻中、発刊されたのはじつは最後、本当は1番先に出すはずが、 翻訳に手間取って遅れたのだとか。
にえ <現代ウィーン・ミステリー・シリーズ>はオーストリアで活躍する8人のミステリ作家のそれぞれの 長編と、8人の女流ミステリ作家の短編集1冊の合計9冊。まったく知らない作家さんばかりだから、読んでみないと作風も出来もまったく 想像できないのよね〜。
すみ たぶん、アタリもあれば、ハズレもあるんじゃないかってのが、読む前の予想だったんだけど。
にえ この本は、アタリかハズレか、ものすごく微妙だよね。
すみ ミステリというより、ホラーサスペンスって感じだったしね。
にえ おもしろくもあったけど、ちと稚拙な感じもした。あと、内容のわりには薄味かな。 好みからいうと、もうちょっとネッチリと濃い小説にしていただきたかったところだけど。
すみ 舞台は二つ。千年以上の時を隔てた二つの話がそれぞれ進んでいき、 やがて交差するという構成。こういう構成は好きだな。
にえ ひとつは9世紀初頭の中世ヨーロッパ。ゾロアスター教とキリスト教の諍いのなか、 贅沢な塗料を使って仔牛革に豪華な挿し絵と文字で美しく仕上げられていく『ケルズの書』。
すみ ゾロアスター教っていうのは、善神アフラ・マズダーと悪神アンラ・マンユの 存在を信じ、善神アフラ・マズダーの勝利のため、悪神アンラ・マンユと戦うことを教義とした宗教なのよね。
にえ キリスト教では良い行いとされることも、ゾロアスター教では悪とみなされたりするから、 二つの宗教がぶつかりあえば、諍いは避けられないの。
すみ ふたつの宗教はそれぞれの理由から、『ケルズの書』を奪い合うことになるのよね。
にえ で、もうひとつの舞台は現代。現代において『ケルズの書』はダブリンの トリニティ・カレッジ附属図書館のロングホールに展示されているのだけど。
すみ その現代で、『ケルズの書』とは一見、なんの関係もないような轢き逃げ事件が起きるの。 ひき逃げ犯は経済省の役人シュタインヴェントナー、この人が主人公。
にえ シュタインヴェントナーは轢き殺してしまった青年の手から飛んできた、鍵を持って逃げるのよね。 そのために、現代も今なお続く『ケルズの書』をめぐる攻防に巻き込まれることになるんだけど。
すみ じつは『ケルズの書』には、2000年前に使われていた聖なる文字、アヴェスタ文字を螺旋状に 書いた紙が挟まってるのよね。その文字から、ゾロアスター教に導かれていくことになります。
にえ このあたりまでは、おお、歴史ミステリだ〜と嬉しかったのだけどね。
すみ うん、そこからだんだんとオカルト的、ホラーサスペンスになっていくのよね。 それじたいが悪いとは言わないけど、ちょっとその内容に目新しさがなかったかな。
にえ というか、部分、部分にすんごくおもしろいところと、ちょっとな〜って感じの イマイチなところがあって、それが積み重ねられていくから、これはおもしろい本なのか、そうでもないのか、と悩んじゃうのよね。
すみ あんまり期待しすぎなければ、それなりにおもしろいと思うよ。あと、できれば読者は あまり大人じゃないほうがいいかな(笑)
にえ うん、作者が若いなって感じ。すすめるなら、この若さを許せる人限定かな。