すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「トリエステの謝肉祭」 イタロ・ズヴェーヴォ (イタリア)  <白水社 単行本> 【Amazon】
35歳のエミーリオはずっと前に1冊だけ小説を出版した作家であり、保険会社の会社員だった。 彼の世話を焼く妹アマーリアと二人暮らし。アマーリアは、小柄で顔色もさえず、エミーリオよりも老けて 見える。そのため結婚もできそうにないから、エミーリオが一生面倒を見なくてはならない。友だちと呼べるのは ただ一人、彫刻家でわりと女性にもてるバッリだ。そんな生活に倦むエミーリオが初めて情熱的に女性を愛した。 女性の名はアンジョリ−ナ。だが、アンジョリーナはエミーリオとつきあいながらも他の男と婚約し、さらには 複数の男性ともただならぬ仲らしい。アンジョリーナを愛さずにいようとするエミーリオだが、惹かれる気持ちは 抑えられず、いつしか嫉妬が精神を埋め尽くしていた。
にえ 私たちは未読なんだけど、晩年に書いた「ゼーノの苦悶」が20世紀のイタリアで最も 重要な小説のひとつに挙げられているイタロ・ズヴェーヴォです。
すみ 「ある人生」「トリエステの謝肉祭」と2冊の小説を発表したけどまったく認められず、 長い間小説を書かなかったんだけど、ジェイムズ・ジョイズと知り合うことで道が開け、この本を再版してもらえることになり、 作家として認められて、62歳で「ゼーノの苦悶」を発表することになったんだそうな。
にえ 1861年生まれで、私たちの厳選作家からは対象外。で、イタリアでは認められてるとはいえ、 日本では「ゼーノの苦悶」が1978年に集英社から出された文学全集のなかに含まれてただけでそれっきり、だった作家さんなのよね。
すみ この「トリエステの謝肉祭」は1898年に発表されてるから、つまり百年越しで、やっと 和訳出版されたってことになるのよね。
にえ となると、出版の努力をされた方々には、ぜひとも敬意を表したい、のではあるんだけど。
すみ う〜ん、そうなんだけどね、でも、嘘もつけないし。困っちゃう。 ぶっちゃけ、古くさくって時代遅れ、今さら読むほどでもなかったってのが正直な感想。
にえ 悪く言うのはかなり気が重いんだけど、まず文章がちょっとね、って感じなのよね。
すみ 翻訳家さんの文章は上手なんだよね。でも、もとの文章がひどいみたい。 発表された当初から、文章の下手さがそうとう指摘されてたみたいなんだけど、それも無理ないな。
にえ 登場人物が新しく現れるたびに、地の文でクドクドその人物について紹介し、 主人公との関係を説明しって調子で、とにかく乗って読める文章運びじゃないんだよね。
すみ それから主人公の人物像。35歳にもなって、純情すぎるというか、子供っぽすぎるというか。 今時の感覚で、受け入れられる主人公じゃないよね。
にえ 表面ではあんな女、もうどうでもいい、なんてことを言いながら、嫉妬にグジグジ悩んだり、 女性を再教育して自分好みに変えてやる、なんてアホなことを本気で考えてたり。なんだかな〜な性格だったね。
すみ 主人公エミーリオの親友で、もて男の彫刻家バッリっていうのも、 イマイチぱっとしないというか、汗くさそうなだけで魅力がないというか、いろいろ助言はするけど、これといって 冴えたセリフもないのよね。
にえ ただ、主人公を振り回すあばずれ女として描かれてる、アンジョリーナって女性だけが、 やけに魅力的だった。
すみ 自分の容姿に絶対の自信を持ってて、すぐばれるような嘘を平気でつき、 男に色目を使うのも当たり前だと思ってて、デリケートさなんて全然なくて、今楽しけりゃいいじゃないって感じで生きてたよね。
にえ なぜか家族全員が彼女の味方で、彼女の嘘を裏付けるようなことを平気で言うんだよね。
すみ そうそう、それもそのはずで、父親は精神を病んでいて働けないし、母親も妹も軟弱。 アンジョリーナが男をたぶらかして金を貢がせることだけが、家族の収入なんだもの。
にえ このアンジョリーナには、じつはモデルになった女性がいたのだそうな。もちろん、 作者自身が振り回されたあげくに捨てられたのだけど。
すみ この小説では、悪女は悪女なりの末路を迎えるけど、モデルになった 実際の女性は作者のもとを去ったあと、サーカスの曲馬師になったんだってね。それをあとがきで読んで、 拍手したくなったよ。なんとまあ、カッコイイ女性だこと。
にえ アンジョリーナが主人公の小説だったら、ずっと魅力的でおもしろかっただろうにねえ。
すみ 百年前の小説では、ブチブチ悩むだけの男が主人公になってしまい、 他人を利用してでも我が道を行こうとする女性は、単純に悪女としてしか書かれないのね、なんてことを思ってしまった。
にえ で、主人公が嫉妬に苦しみまくるっていうのが、ほぼ全編をしめるストーリー。けっこうウンザリ。 浮気っぽい女性を好きになった男の苦悶、しかも男は古い道徳観念に縛りつけられまくってるうえに幼稚で感傷的で軟弱。これは今時はやらないよね〜。
すみ 正直言って、なんで今さらこの小説を、と思ってしまった。違う読み方をすれば、別の側面が見つけ られたのかもしれないけど、私たちには時代とともに消えてしまってもいい小説にしか思えなかったねえ。
にえ ということで、ゴメンナサイでした。