すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「著者略歴」 ジョン・コラピント (アメリカ)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
ミネソタ大学を卒業してニューヨークに出たキャル・カニングハムは、自分を作家となるべくして 生まれてきたと信じている。スチュワート・チャーチというコロンビア大学のロースクールの学生が ルームメートを探していたアパートに住み、書店でアルバイトをしながら傑作をものにする日を夢見ていた。 豹のようにしなやかな容姿で女性にもてるので、小説の素材集めと称して、女遊びにふけっていたが、ある日 いよいよ創作にとりかかることにした。ところが、一行どころか、一字として思いつかない。焦るキャルに 法律家をめざしているはずのスチュワートが、じつは小説を書いたので読んでほしいと言いだした。スチュワート の作品を読んだキャルは、そのあまりの素晴らしさに驚愕した。
にえ 発売当初はけっこう話題になってたサスペンスもののミステリを今頃になって ご紹介です。
すみ でも、今頃になったから感想をはっきり言いやすいってのはあるかもね(笑)
にえ うん、それはあるかも。はっきり言えば、おもしろいけどなにもない、って たぐいの小説だったな。
すみ なにも期待しなければ、読んでるあいだはじゅうぶん楽しめるよね。
にえ なんにも考えないで、娯楽としてちょっとサスペンスものの本が読みたいって 思ってる人にはオススメ、かな。
すみ 読みだしたら止まらないよね、どうなるんだろうってワクワクするし、 登場人物もわかりやすい性格だし。
にえ リアリティーはほとんどない小説だから、危機が迫ってても、それほど 息苦しくもなく、楽に読めるし、そのわりにはよくできてるしね。
すみ テンポがよくて起伏があって、しかもラストも軽くて後味がなんにも残らないから、 気楽に読書したいって思ってる人にはいいんじゃないのかな。
にえ ストーリーは、上昇志向だけが異常に強いけど、自分の才能のなさに気づいた 青年が、さえないルームメイトも小説を書いていることを知って驚き、その作品を読んでさらに驚くところからはじまるの。
すみ 主人公のキャルが、嘘をついてまで敏腕エージェントにとりいっちゃうのに対して、 ルームメイトのスチュワートは、感受性なんて何もない、ただのお人好しでまじめな青年って感じなのよね。
にえ しかも、親に反抗し、派手な女遊びをして、ってそれなりに波乱のあるキャルの 生活に対して、スチュワートはまったくボヨヨンと生きてるみたいにしか見えないし。でも、作家としての才能は、 じつはスチュワートの方にあったのよね。
すみ で、キャルはスチュワートの留守中に、こっそりスチュワートが隠している 長編小説も読んじゃう。そしたら、なんとその小説の主人公はキャル。
にえ スチュワートがただのお人好しで、話を聞くのが好きなんだとしか思ってなかったキャルは、 成長期の苦悩や、放蕩暮らしなど、これから自分が小説に書こうと思っていた自分自身のことを、全部しゃべってたんだよね。
すみ 自惚れ屋のほうがじつはお人好しで、利用されてたなんて、よくある話かも。
にえ で、むむむ、スチュワートめ、どうしてくれようと怒り狂ってるところに 警察から電話、スチュワートが交通事故で死んでしまったことを知るの。
すみ この、殺しちゃうんじゃなくて、うまいこと交通事故でスチュワートが 死んじゃうってのがポイントよね。
にえ そうそう、殺人じゃなくてタイミングよく偶然の事故死、つまりはこの先のストーリーも、 そういう展開が予想されるってこと。
すみ 当然、キャルはスチュワートの小説を盗み、自分の作品としてエージェントに 持ち込んじゃう。
にえ このキャルっていうのが、似たテイストってことで題名があげられてる、 パトリシア・ハイスミスの「太陽がいっぱい(リプリー)」の主人公ほどのクールさもなく、スコット・スミスの 「シンプル・プラン」の主人公ほどのリアルさもなく、ほどよく等身大で、わかりやすくて、読んでて疲れさせない主人公なのよね。
すみ 1冊の小説で一躍、時代の寵児となったキャルは、スチュワートの元恋人を 愛してしまい、そこに唯一盗作のことを知っている脅迫者である、あばずれ女が登場、とストーリーが進んでいきます。
にえ 脅迫者ってのがまたステレオタイプのあばずれって感じで、なかなかいい味出してたよね。 恋人のほうは作者の都合がいいように感情が流れていくって感じで、行動に一貫性がないけど、それはそれでご愛敬。
すみ 読みはじめたら、最後まで一気に読んじゃうこと間違いなし、でも、それ以上のものを期待されると 困るって小説でした。