=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「平凡な人生」 カレル・チャペック (チェコスロヴァキア)
<成文社 単行本> 【Amazon】
ポペル氏はある医師から紙の束を受けとった。それは、ポペル氏の幼友達で、大人になってからも年に 一度か二度は顔を合わせていた知人が書いた自伝だった。知人はすでに亡くなっているが、病気が重くなっ たとき、平凡な人間の一生も記録されるべきだと書きはじめたのだという。 | |
カレル・チャペックの哲学三部作のラストを飾る、第三部「平凡な人生」です。 | |
第1部がテーゼ、第2部がアンチテーゼ、そしてこの第3部はジンテーゼ、つまり 総括ってことになるのだそうな。 | |
第1部「ホルドゥバル」は心を閉じて誰にも理解されない男の心理がかってに解釈される話、 第2部の「流れ星」は瀕死の男の人生をまわりの人々がかってに推測する話、そして最後のこの第3部は、 自分の人生を客観的に見て、分析し、語りつくす話。 | |
自分のなかにはいくつも自分という存在があることを認め、列挙するのよね。 | |
定義としては、「自他の正確な認識の可能性は、個々の人間が持つ自我の 複数性を容認することにある」だそうです。 | |
ちなみに、伝記を書いて亡くなった知人の心臓は、動脈硬化による心筋梗塞を起こしてます。 これが象徴。よくわかんないけど(笑) | |
これはけっこう痛みを感じる小説だったな。 | |
そうだよね。亡くなったポペル氏の知人が書いた自伝がほぼ全編を占めてるんだけど、 平凡な人生かもしれないけど、自分にたいする視線がとにかくキツイというか、鋭いというか。 | |
「きっちりした人だった」ってセリフが最初にも最後にも出てくるけど、 ホントにそうだよね。よくぞここまで自分の裏の裏までえぐり出したなと思うよ。 | |
あまりにも自分をきっちりと描き出してて、その几帳面さに同情してしまうというか、 もういいんだよと言ってあげたくなるほどだった。 | |
最初のうちはそうでもないんだよね。小さな指物師の家に生まれた主人公が、活発な近所の 子供たちになじめず、でも、父親を尊敬し、母親に溺愛され、成長していくところから話がはじまってるの。 | |
学校に行ってもやっぱり友だちが出来なくて、やり場のない気持ちを勉強に 打ちこむことで解消する孤独な少年だった。 | |
でも、そのうちに1歳年上のジプシーの少女と出会い、淡い恋をして、 それから大学に行き、詩人と出会ってみずからも詩を書き、親に感動されて学校を中退、鉄道会社に勤めだして、 そこからゆっくりと、でも着実に出世街道を歩みだす、そんな人生だよね。 | |
ぜんぜん勉強が出来ない友人をみんなで助けてあげたけど、けっきょくは 自殺してしまうというエピソードや、お世話になったドイツ人の老駅長の娘との大恋愛の末の結婚とか、 はじめて駅長になった駅を素晴らしく美しいものとしたのに、戦争でメチャメチャにされてしまう話とか、 いろんなエピソードが散りばめられてた。 | |
この辺を読んでる時点では、平凡とはいっても豊かな感受性によって、 キラキラと輝くものになっているではないの、素敵なお話だわ〜と読んでたんだけど。 | |
そこから裏返しがはじまるんだよね。 | |
淡い初恋の裏には、じつはドロドロとした薄汚いものがあったとか、 友人を助ける美談の裏には、こんなえげつないやりとりがあったとか、妻との冷たい関係とか、とにかく 読んでて嫌悪を感じるほど赤裸々な話になっていくの。 | |
でも、それで終わりかと思ったら、じつは正義感あふれる英雄的行為をして、 それを秘密にしていたとか、そういう話が出てきて、その英雄的行為をやった自分を誉めることもなく淡々と描写してて。 | |
最後まで読むと、この主人公の平凡な人生に胸をしめつけられる思いがしたよね。 哲学以前に、これはホントにいい小説だったな。 | |
ちなみに、三部作を貫くテーマは、「哲学的認識論の範疇に属する『自分探し』の 努力と関連する」のだそうな。 | |
う〜ん、難しいことはわからないけど、やっぱり三部作を続けて読んだら、 いろいろ考えさせられたな。人生ってホントにいろんな側面があるよね、内から見ても、外から見ても。 | |
読み物としても、けっこうおもしろかったよね。やっぱり本って、読んで そのあとにいろいろ考えることが大切なんだな、なんて今さらながら思ったりしました。 | |