すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「流れ星」 カレル・チャペック (チェコスロヴァキア)  <成文社 単行本> 【Amazon】
病院に重傷患者が運びこまれた。飛行機が墜落し、黒こげになった機体から運び出された瀕死のその男は、 焼けただれて顔もわからず、書類はすべて焼けてしまい、いろいろな国のコインを持っているので、国籍さえも 特定できない。「患者エックス」と登録されたその男の正体を、尼僧看護婦は夢に見、入院患者の千里眼は透視し、 詩人は推理と想像で知ることとなる。
にえ カレル・チャペックの哲学三部作の第2部です。
すみ チャペックによると第2部は、「遠近法的視点の確立、すな わち『ある人間についての視点は数多いが、それゆえに不可知ではなく、遠近法的な視点の集積は、統一的 真実を構成し得る』ということである」そうです。
にえ この「遠近法的視点」ってのは、第1部の「相対主義的視点」とは 対極の、アンチテーゼになるのだそうだけど、私にはわかったような、わからないような(笑)
すみ 哲学っていつも説明だけ聞いてるとわかるような気がするのに、 ひとつずつに名称をつけられた時点で、ついていけなくなるんだよね。しかも日本では名称が2つ紹介されることが多くて、 それがまた私には意味不明の漢字何文字かのと、ドイツ語とかギリシア語とかのでしょ。めまいがしちゃう(笑)
にえ ほんとにねえ。でも、このまま話を続けると、おバカ二人がもっとも低レベルに 哲学を批判するホームページになってしまうから、小説の話に移りましょ。
すみ そうそう、第1部のときに言い忘れてたけど、この3部作はまったく 別々の3つのお話で、別にストーリーじたいには関連性はないの。
にえ あら、心臓が象徴的に使われてるって共通点はあるじゃない。
すみ そりゃそうだけど、私はそれぞれ独立した物語だってことを言ってるんです。
にえ はいはい。「流れ星」は、飛行機墜落事故で病院に運びこまれた身元不明の 「患者エックス」のお話しなのよね。
すみ 「患者エックス」のお話といっても、患者エックスは最初から最後まで、 一言も語らず、ベッドから動くこともないんだけど。
にえ まったく身元不明の患者エックスの半生を、かってに想像する話なんだよね。
すみ 患者エックスの半生の話は3つ。1つは尼僧看護婦が夢に見たっていうお話。
にえ 患者エックスはもともとヨーロッパのどこかの国の裕福な家の一人息子。 母を知らずに育ち、適当に女性と遊んでいるうちに、一人の女性と出会い、その女性のために故国を捨てることになってしまうのよね。
すみ 女性らしい、ちょっとおセンチな話よね。ただおもしろいのが、その女性自身が 患者エックスのおセンチさを批判してるんだけど。
にえ 2つめの話は入院患者で、千里眼と呼ばれる男の透視による、患者エックスの半生。 これはちょっと難しかったよね。
すみ うん、彼の内部に何があるのか、とか、人生とは、とか、やたらと難しくて長い 語りが間にたっぷり挟まってて、出来事を追うのが大変だった。
にえ ヨーロッパの裕福な家の出で、母を知らずに育ち、父親に逆らって放浪の旅に出て、 墜ちるだけ墜ちて、しまいにはのっぴきならない状況に追い込まれたってことになるのかな。
すみ 千里眼ってことで期待が大きかったんだけど、筋だけ追うと、どうってこともないような(笑)
にえ でも、千里眼の存在自体はおもしろかったよね。医者や同じ入院患者の詩人が、千里眼の透視能力を じつは病気だとか、じつは簡単な推理に過ぎないとか、陰でこっそり批判してて。
すみ 3つめは詩人が少ない情報から推理し、想像を膨らませた患者エックスの半生の話。 これが一番長かったよね。
にえ 話も一番おもしろかった。自分の過去も名前もすべてを忘れたケテルリングという男が、 植民地のキューバで働き、雇主の娘と恋におちて、自分探しをはじめる話。もちろん、ケテルリングが患者エックスなんだけど。
すみ うん、植民地における白人支配と支配されない土着民の対立とか、あっさりと すべてが崩壊していくさまとかもおもしろかったし、ケテルリングが自分の名前や過去を知るきっかけもおもしろかった。
にえ 最後に、患者エックスの本当の正体がちょっとだけわかるんだけど、それが強烈なオチになってました。
すみ ちなみにチャペックによると、象徴として、患者エックスの心臓は肥大化しているのだそうです。