すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「聖なる夜」 ターハル・ベン=ジェルーン (モロッコ→フランス) <紀伊国屋書店 単行本> 【Amazon】
娘でありながら、跡取り息子として育てられたアフマドは、20歳、聖なる夜に父親が死ぬことにより、 男であることから解き放たれ、家も財産も捨てて放浪の旅に出た。「砂の子ども」で講釈師たちによってさまざまな憶測が 語られていたその謎の人生が、アフマド自身によって今、語られる。
にえ 私たちにとっては2冊めのターハル・ベン=ジェルーンは、「砂の子ども」の続編です。
すみ この本単独で、フランスで名高い文学賞ゴングール賞をとってるし、 こちらはこちらでまとまってはいるけど、やっぱり「砂の子ども」から読んだほうがいいよね。
にえ うん、どういう経緯でアフマドが男として育てられたのちに女に戻ったか、「砂の子ども」を読んでないと わかりづらいかも。
すみ 「聖なる夜」のほうが一本つながりのストーリーで、ぐっと読みやすいから、 こちらを先に、と言いたくなってしまうところではあるけど。
にえ 続編っていうか、2冊でひとつになるって感じだよね。「砂の子ども」では、 アフマドが男として育てられ、父親の死とともに失踪したところまでしか確かじゃないから。
すみ そこから先の人生は、わからないからみんなで想像してって感じで、ハッキリしないまま終わったよね。
にえ 「聖なる夜」では、みんながあれこれ話していたその広場に、老婆となったアフマドが現れ、 本当にあった話をはじめるところから始まるの。
すみ 事実はみんなの憶測とは違った意味で、やっぱりかなり不可解、それだけにおもしろかった。
にえ 「砂の子ども」では見世物小屋に入れられてたとか、かなり勝手な想像になっちゃってたもんね。
すみ まあ、女なのに男として育てられた人間の行く末なんて、単純に考えると 見世物にするしかないってことになるんだろうけど。
にえ 実際には、アフマドは姫と呼ばれるほど美しい女性となり、不思議な旅をすることになるのよね。
すみ 最初は一人の男いがいには子供しかいない不思議な場所へ行き、それからまた旅をすることになり、だった。
にえ そこで、あ、これはあちこちを転々とする流浪の旅の物語になるんだなと思ったけど、 それもまた違ってたな。
すみ アフマドは女性としての屈辱を知り、その後に不安定ながらも定住の地を 見つけることになるんだよね。
にえ 奇怪な姉弟と同居することになるの。
すみ 弟に固執する醜く逞しい姉に雇われて、目の見えない弟の世話をすることになるんだけど。
にえ アフマドは初めて人を愛することを知るのよね。
すみ それはかなり奇妙な形ではあったけど、美しい恋ではあった。いろんな他の小説に譬えられて、 そのなかに谷崎潤一郎の「春琴抄」まで出てきて、かなり驚いた。
にえ なんか妙に納得してしまったよね。話が似ているわけではないし、 雰囲気もまた違うんだけど、あ、この作者は谷崎読んでるんだと思ったら、妙に納得してしまった。独特のエロティシズムに、なんか 共通するものがあるのかもしれない。
すみ 最後のほうでちょっと残酷すぎる描写があって、これはあんまりだと思ったけど、 その後に救いがあったから、まあ、相殺されたかな。
にえ とにかく、新しく女の道を歩みはじめたアフマドだけど、やはり過去からは逃れられないのよね。
すみ なんだろう、この独特の汗の匂いのする喪失感というか、そういう感じ、なんかだんだん癖になりそう。 好き嫌いがハッキリ分かれる作家さんではあるけど、いいね〜、はまりそう。