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 「運命の石」 ナイジェル・トランター (スコットランド)    <大修館書店 単行本> 【Amazon】
13世紀末にロンドンに持ち去られたスコットランド王の戴冠用玉座「運命の石」(スクーンの石)は、じつは贋物だった。 本物の「運命の石」の存在に気づいたオックスフォード大学歴史研究会が、スコットランドに調査、発掘にやってきた。 彼らは、何か確実な情報をつかんでいるらしい。かつて先祖が本物の「運命の石」を守り抜いた没落貴族の末裔パト リック・キンケイドは、愛国ギャングのロディ、農場の娘ジーンの協力を得て、「運命の石」をスコットランドに残すべく行動に出た。
にえ ナイジェル・トランターは、1909年生まれで2000年に惜しまれつつ亡くなった、 スコットランドで絶大な人気のある歴史小説家だそうです。
すみ 100を超える著作の大半が歴史小説だけど、初期の頃にはロマンティック な冒険小説を書いていたそうで、1958年に書かれたこの作品もそっちに属するのよね。
にえ 表紙に「スコットランドミステリ」って書いてあるから、スコットランドの 歴史ミステリかな〜と期待して読んでしまったんだけど、そういった意味では期待はずれかな。
すみ 歴史の謎は解かなかったよね。二人の男と一人の女が、石を持ってひたすら逃げまわる話。
にえ スコットランドが善、イングランドが悪ってはっきり書き分けられてて、 それほどスリリングでもなく範囲も狭い逃げまわりがあり、のんびりとしたラストがあり、う〜ん、50年前の冒険小説って 感じだったな。
すみ もともとは、ロンドンのウェストミンスター寺院にある「運命の石」が 偽物じゃないかという学説があって、ナイジェル・トランターがその偽物説の支持者で、そこからできた小説みたいだけど。
にえ その検証を期待してたんだけど、そういうのは何もなかったんだよね。ただもう本物の石は 存在してて、スコットランドにある重要な物なら、なんでも持っていっちゃおうとするイングランドにひっそりと抵抗するってだけで。
すみ スコットランドの人たちの、イングランドの人たちにたいする嫌悪感とか、 恨みとかは、ちょっとわかったような気がしたけど。
にえ 「運命の石」はその象徴でもあるんだよね。
すみ もともと、1296年、スコットランドを征服したイングランド王エドワード一世は、 スコットランド王国の戴冠の玉座である「運命の石」を持ち去ったんだけど、それは長きにわたって、スコットランドに とっての屈辱のシンボルだったのだそうな。
にえ 1996年になってやっとスコットランドに返されそうだけど、この小説の書かれた 1958年なら、あれは偽物だったと言いたくなるのはわかるよね。
すみ 気持ちはわかるどころか、この偽物説が正しかったら、歴代のイギリス王は本物の 「運命の石」には座らなかったんだから、スコットランドを統治する資格はないということになって、けっこう政治的に 危険な学説だったりするのよ。
にえ でもまあ、とりあえずこの小説ではそんな危ない話には至らず、まあ、 けっこうのんびりとしたものだった。
すみ かなり間抜けなロンドン警視庁の刑事たちが、大人数を使って。「運命の石」を持って 逃げまわってる三人を追跡し、三人はいろんな人の協力を得て、たいした危険にも合わず逃げまわると、そういう話よね。
にえ その間に、没落貴族の息子パトリックと、農夫の娘ジーンが恋をするんだけど、 これもまた特別なロマンスも何もなく、最後にじつは……と打ち明けあって終りという平和な恋愛(笑)
すみ ロディは過激な愛国ギャングということで、でっかい体の怪力男なんだけど、 別にアクションシーンはなかったしね。
にえ ただひたすら、農家の小屋に隠れたり、山の中の洞窟で一泊したりと、まあ ノンビリ逃げまわってましたわね。胃にやさしい冒険活劇ってかんじかな。
すみ この作家さんはどうせ読むなら、歴史小説のほうを読むべきだったかな、ということで。