=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「砂の子ども」 ターハル・ベン=ジェルーン (モロッコ→フランス) <紀伊国屋書店 単行本> 【Amazon】
モロッコの旧市街メディナの広場には、さまざまな曲芸師や物売り、見世物師や乞食などが集まり、賑わっていた。 そのなかで、一人の講釈師が人々に向かい、不思議な物語を語りはじめた。それは、女でありながら男として育てられた、 アフマドという男名前の女性の数奇な運命の物語だった。 | |
この人は、モロッコ人としては初めて、フランスのもっとも権威ある文学賞であるゴン グール賞を受賞した作家さんなのだそうです。 | |
ちなみに受賞作品は、この「砂の子ども」の続編にあたる、「聖なる夜」なんだよね。 | |
こちらが受賞作品ではないにせよ、この1冊で、たしかにゴングール賞をとる作家さん だわと納得したな。 | |
美しくも、不思議な味わいの小説だったよね。 | |
うん、複数の語り部がいて、一人が途中まで語ったあと、話のあとをついで次の語り部がまた違う角度から話を続け、 次には別の物語になり、でもまたあとで話が繋がっていたりと、不思議な流れのある小説なの。 | |
語り部の話もおもしろかったし、モロッコの今は様子が変わってしまった旧市街メディナの広場の 昔の姿が再現されていて、それもまた良かったな。 | |
怪しげな商売をする者、いんちきくさい見世物、こっそり盗みを働く者、 そういういろんな人たちが集まって、賑やかながら退廃的な感じもありっていう、いかにもな雰囲気が濃厚に伝わってきたよね。 | |
そういうなかで人を集めて話をする講釈師とくれば、話は嘘か誠かわからない。 その感触そのものに酔わされた。 | |
繋がっているような、繋がっていないような物語が、いろんな角度から語られ、 どれが本当か、真実をつか見かけたなと思うとまた擦り抜けていく、それじたいが、ああ、モロッコ〜って気がしたよね。 | |
物語じたいもおもしろかった。跡継ぎの息子がほしいのに、7人つづけて娘を授かった父親がまず出てくるの。 | |
イスラム社会では、アラーによって女児は男児の2分の1しか財産を相続できないって決まりがあるそうで、 このまま跡継ぎが生まれず、娘ばかりだと、二人の弟に財産の多くを奪われてしまうんだよね。 | |
そこで父親は、次に生まれてくる子はたとえ女の子であっても、男の子だと公表し、 男の子として育てようと心に決めるの。 | |
もちろん、8番めに生まれてきたのも女の子なのよね。 | |
女の子はアフマドと名付けられ、7人の姉たちにさえ知られずに、 男の子として育てられるの。 | |
アフマドはみずからもすすんで男として生きることにしていたようで、 自分の意志で奥さんまで娶っちゃうのよね。 | |
それから父親が亡くなって、長年のたががはずれ、そこから先、アフマドはどうなったのか、と ここから話が様々に交錯し、おもしろくも混乱の世界に突入するってわけ。 | |
この本でわからない部分も、続編の「聖なる夜」でアフマド本人が語ることにより、 すべてがわかるようになってるみたいね。 | |
私はこの本はこの本でもう完結してるって気がしたんだけどな。 | |
いや、この作家さんの書いた本なんだから、「聖なる夜」だってきっと 単なる謎解きなんてものじゃないでしょうよ。 | |
読むのが楽しみだね。私はこの本でこの作家さんがかなり気に入ったから、他の著作もぜひ読みたい。 女性が差別する社会への憤りみたいなものも、語りのなかにタップリ盛り込まれてて、共感できたし。 | |
ということで、モロッコ独特の雰囲気と、はっきしりないおもしろさが堪能できる小説でした。 興味のある方にはオススメ。 | |