=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「綴り字のシーズン」 マイラ・ゴールドバーグ (アメリカ)
<東京創元社 文庫本> 【Amazon】
兄のエアロンは典型的な虐められっ子ではあったが、学校では英才教育組に入っていた。ユダヤ教神秘主義者の父ソールはエアロンに、 勉強で見返してやればいいと励ました。妹のイライザも、おとなしくて目立たない子ではあるが、当然、英才教育組に入れると思っていたのに、 普通クラスに入れられ、父も、弁護士である母ミリアムも、イライザにはもう期待はしないことに決めていた。 ところが、イライザが11歳の時、校内の綴り字コンテストでいきなり優勝し、州大会も勝ち抜き、みごと全国大会まで 進むことができた。イライザはもう、目立たないだけの子供ではなくなった。 | |
アメリカの女流作家のデビュー作です。アメリカでは例えば「アップルとは」って 出題されると「A、P、P、L、Eです」って答える、みたいな感じの綴り字のコンテストがあるそうで、それを題材にした小説です。 | |
だけどさあ、想像していたのとはかなり違ってたよね。読む前は、綴り字コンテストに 出場する子供と、それを必死で応援する両親の奮闘をブラックユーモア的に描いた小説なのかと思ってたんだけど。 | |
うん、これほど陰湿な悲劇話だとは思わなかった。でも、この陰湿さがおもしろかったり するのだけど(笑) | |
宗教がらみの、家族崩壊の物語とでも言えばいいのかな。 | |
崩壊の仕方がまた一気にドドッというより、地滑り的にゆっくりズルズルと 深い谷間に落っこちていくという感じで、湿っぽく暗いんだよね。 | |
そうそう、他人の家族の不幸をのぞきみて、興味津々でおもしろがってるような、 陰気に楽しく読める本だった(笑) | |
あまりにも自分たちとかけ離れてて身につまされるってことはなかったからねえ。 その分で悲劇とはいえ、楽に読めてしまったかな。 | |
登場する家族はユダヤ人の4人家族なの。 | |
父親のソールはユダヤ教の神秘主義者。読んでてだんだんとわかってくるけど、 ユダヤ教とはまたぜんぜん違うんだよね。 | |
13世紀に生きてたアブラハム・アブラフィアって人の教えを信じてるんだけど、 これは調べてみたら実在の人物だった。 | |
「綴り字のシーズン」に書いてることをまるごと信じると、字の綴りかえを極め、 発音を極めることで、神のもとにたどりつけるって教えみたいなの。 | |
こういう教えを信じている人の娘が綴り字コンテストで優勝しちゃったら、まあ、 ただでは済まないよね(笑) | |
ソールは学生の頃にLSDでカバラに達しようとして、両親にも勘当されたみたいなんだけど、 今はこの神秘主義にたどりついて、さらなる研究を深めているところで、収入のある仕事はしてないみたい。家庭では 家事担当なの。 | |
かわりにお金を稼いできてるのが、母のミリアムなのよね。ミリアムは弁護士で、 完璧主義者。 | |
子供の頃からパーフェクトムンドって名付けた完璧の理想郷とでも呼べばいいのか、 そういうなにもかもが完璧な世界をめざしてるのよね。 | |
それぞれの物が完璧に正しい位置にあることが大切みたいなんだけど、 ものを完璧な場所に置くためにやってることは万引きなんだよね。 | |
この万引きがどんどんエスカレートしてきて、これがまた怖かった。 | |
兄のエアロンは友だちのいない虐められっ子で、父親にかわいがられ、 とりあえずは勉強とギターの練習に励んでたんだよね。でも、父親がイライザに執着しだして、おかしなことに。 | |
もともと神の存在について深く、まじめに考える青年だったんだよね。 それが父親のたががはずれちゃったせいで、キリスト教、仏教、ヒンドゥー教と、さまざまな宗教にさまよい始め、 最終的には……。 | |
で、やっと両親や教師の注目を浴びるようになって、自信をつけていくイライザだけど、 この子もだんだんとおかしな方向に進み出しちゃうんだよね。 | |
もうぜんぜん救いのないお話だったけど、でも、おもしろかった。 | |
私たちは家族崩壊ものが根っから好きだからねえ。こういうネッチリ陰湿な話が 好きな人限定でオススメ、かな。 | |