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 「四年後の夏」 パトリシア・カーロン (オーストラリア)  <扶桑社 文庫本> 【Amazon】
四年前に兄ジャックを殺された女性マリオンが、私立探偵ジェファースンのもとを訪れ、事件の再調査を依頼した。容疑者はペタとサンドラ。当時、十六歳、駅で偶然知り合い、二人でヒッチハイクをしていた。二人のうちのどちらかが軽い気持ちで、ヒッチハイクした車中でピルケースを盗み、それが原因で様々な事件、事故、そして殺人を巻き起こすことになってしまったのだ。どちらの少女も、相手が犯人だと主張し、結局事件は未解決のままになっている。どちらかが嘘をつき、その家族も嘘と知りながらかばいつづけているはずなのに。
にえ 『ささやく壁』を読んだとき、オバアチャンが少女のように妙に瑞々しかったから、この人は少女が主人公のほうがいいんじゃない?と読んでみたら、やっぱり正解でした。
すみ それにさあ、一人の人間の心理を突きつめていより、時間の切りとられた情景を水分たっぷりの水彩筆で描写するのが得意ってかんじの人だから、この本みたいに場面がころころ移り変わるほうが巧さが引き立つよね。
にえ サンドラの証言、ペタの証言、目撃者の証言、などなどいろんな人の視線で、その夏にあった出来事が切れ切れで連なっていく感じなのよね。
すみ つなぎかたも巧かったよね。切れ切れでも、読んでてイライラさせられない。
にえ 『ささやく壁』はサスペンスとはいえ、ホームコメディーみたいなほんわかムードだったけど、これはぐっとシリアスな謎解きサスペンスだったよね。
すみ 最初は、どちらかといえば育ちのいい、ごく普通の二人の少女が、ありがちなヒッチハイクに出掛け、誰でもやるようなプラスチックの灰皿とかを記念品的な感覚で持って帰っちゃうのよね。
にえ それがどんどん抜き差しならない情況になっていく、この地滑り感はゾクゾクもの。
すみ 姉御肌のペタと頼りきるサンドラの力関係なんてあたりの描写は、さすがだったよね。
にえ 途中で出てくる子供の集団の描写とかも、さすがに秀逸だった。
すみ それでもって、謎を解く探偵のジェファースンがほとんど感情を表さない、影のような男だから、変に甘々しい話になってないのよね。
にえ ピルケースに入った薬の話がちょっと雑かなってそこは気になったけどね。
すみ クリスティを初めとする先人の女流作家たちなら、なんという名前の薬で、どういう特性があって、とかその辺、もうちょっときっちり書くよね。
にえ でも気になったのはそれくらい。テンポもいいし、緊迫感もあって、『ささやく壁』より数段いい出来。
すみ 『ささやく壁』でちょっとゆるくて好きじゃないと思った人も、こっちなら納得、じゃないかなあ。
にえ ただ、中盤に怖くはあったよ。ここまで盛り上げちゃうと、どんな謎解きでも満足できなくなるんじゃないかなあって。
すみ その辺も、まあバシッと決まってたんじゃない? 推理小説じゃなく、あくまでサスペンスの味わいなんだから、私はこれで充分だと思う。
にえ 個人的には、もっと心理をつっこんでもいいかな、と思ったけど、それだと重くなって読みづらくなるかもね。
すみ そうだよ、これぐらいのほうが読みやすいよ。殺人がらみのサスペンスとはいえ、けっこうサラッと読める。これはもうこの人の魅力でしょ。
にえ たしかにこの人、『ささやく壁』は寝たきりの老女、『四年後の夏』は嘘をついてる二人の少女、どっちもジトジトッとなりそうな話なのに、さらりと仕上げてるよね。
すみ まだ2冊しか読んでないけど、読みやすい、瑞々しい、リアリティの追求はやや薄くとも、おもしろいストーリー展開、この人の魅力はその辺じゃないのかなあ。
にえ けっこう、当たりはずれの激しい作家さんらしいので、私たちとしては、初カーロンはこれをオススメするね。
すみ うん、これでダメだと思ったら、やめといたほうがいいかも。これはこの作家の良さが存分に出てるって感じがするし、おもしろかった。
にえ オーストラリアの女流サスペンス作家、読んでみたかったらこの本がオススメで〜す。