すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「フォックスファイア」 ジョイス・キャロル・オーツ (アメリカ)  <DHC 単行本> 【Amazon】
1952年、ニューヨーク州北部の小都市ハモンドにあるさえない公立高校で、女生徒だけのグループが誕生した。 最初の設立メンバーはレッグズ、ゴールディ、ラナ、リタ、マディの5人、グループ名はリーダーであるレッグズによって、 フォックスファイアと命名された。腕に炎の入れ墨をほどこし、炎のようなオレンジ色のスカーフを首に巻く。 「フォックスファイアは後ろを見ない!」「フォックスファイアは火の玉だ!」「フォックスファイアは反省しない!」を 合い言葉にして、無法者でありながら、仲間同士で、誠意、信頼、愛のきずなで結ばれていた。少なくとも、 メンバーが増えて新聞沙汰の事件を起こすまでは、最高の非行グループだった。
にえ ジョイス・キャロル・オーツは、O・ヘンリー賞や全米図書賞など 様々な文学賞を受賞し、ノーベル文学賞の候補にもなったアメリカの女流作家です。
すみ なにげに日本でも翻訳本が何冊か出てるんだけど、私たちはあまりよく 知らなかったよね。アメリカでの評価のわりには、日本では有名じゃない作家さんって言っていいのかな。
にえ 私はこの本しか読んでないから全作品について語るわけにはいかないんだけど、 この本に関しては、スゴクおもしろいと思ったし、かなり気に入ったけど、他の人には勧めづらいかな〜。
すみ ストーリーのわりには抑えた語り口だし、ころっと話題が変わって引っかかるところも多いし、 夢中になって一気に読む感じではなかったよね。でも、読みづらいわけではなくて内容はおもしろかったし、読後の満足感もタップリだった。
にえ なんかとっつきづらさがあったよね。でも良かった。読む人によって は大絶賛だとは思うんだけど。
すみ 内容としては、フォックスファイアの記録係を自認するメンバーの一人、 マディのフォックスファイア回想録という形式になってます。
にえ フォックスファイアは、リーダーのレッグズの強い個性に惹かれて集まったグループなんだよね。
すみ レッグズは背が高くてショートカットの、きれいな顔立ちなんだけど、 パッと見に男か女かわからないような中性的なところのある少女。
にえ 学校や親には徹底して逆らう不良なんだけど、弱い子をかばう姉御肌で、 頭の回転が速くて決断力があって、男にまったく引けをとらない潔さと強さがあって、ちょっと淋しげで、 友だちにビックリプレゼントをするのが好きで。こういう娘には惹かれまくるよね、同じ女子高生だったら。
すみ でも、読み進めていくと、オヤッと思うのよね。公園で知り合ったとても正常とは思えない ファーザー・トリオートって老人の影響をすごく受けてて、神とか、資本主義者め、とか、プロレタリア革命とかやたら 口にするし、異常なほどのフェミニストで、男性はすべて敵だとか、やたら言ってるし。
にえ ただの魅力的な不良少女でおさまらない、過激な正義感のある少女なんだよね。
すみ それでも最初のうちはよかったんだけど。メンバーの一人、リタが居残りの補習で 数学教師に胸を触られて、フォックスファイアは強烈な仕返しをして、小さな檻にむりやり動物を押しこんでるペット ショップに抗議して騒ぎを起こし、彼女たちなりの正義を遂行するの。
にえ 男子の不良グループと揉め事を起こすけど、貧しい人、虐げられている人には お金を集めてこっそり寄付したり。
すみ 正義を貫く不良少女集団だよね。
にえ それがしだいに、ヴァイオレットという白雪姫みたいな美少女や、 V・Vっていうちょっと常識から外れてしまっている少女が入ってきたこともあり、なんといっても レッグズの狂気に引きずられてしまい、で、フォックスファイアはおかしな方向へ進みだしてしまうのよね。
すみ 新聞沙汰になる大きな犯罪をおかしてしまい、世間の人にフォックスファイアの 存在じたいが誤解され、本当のフォックスファイアの姿を知ってほしくて、50歳になったマディが回想録を書くことになるのだけど。
にえ 時代の匂いがプンプンする小説でもあったよね。マディも含めて、戦争で父親を亡くして 母子家庭になった娘も多かったし、資本主義者だとか、共産主義者だとか、そういう憎しみをこめた言葉が行き交ってたし、 人種差別も今よりずっとひどかったし。
すみ レッグズはすべての差別と戦ってたよね。貧乏人差別、人種差別、男女差別。差別をなくしたいと いう発想は正しかったのかもしれないけど、性格がまっすぐすぎたし、極端すぎた。
にえ 差別と戦うって意識しかないのよね。やられたら倍にしてやり返す、それしか 頭にないから、どんどん過激になっていくしかなかった。
すみ ちょっと懐かしいアメリカ青春小説のような、痛々しい若さを感じさせる小説だったな。
にえ でも、これはもう悲劇的なラストしかないなと思ってたのに、最後の最後には救いがあり、 意外と読後感の良いイラストで驚いた。興味のある人に限定でオススメ、かな。
すみ 私はあえてオススメはしないけど、とても良い小説だと思いました。