すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「キャッチ=22」 上・下 ジョーゼフ・ヘラー (アメリカ)  <早川書房 文庫本>   【Amazon】 (上) (下)
第二次世界大戦末期、キャスカート大佐率いるアメリカ空軍部隊は、イタリアのピアノーサ島に駐軍していた。 兵士たちは責任出撃の50回を終えれば、祖国に帰れるはずだったが、達成したと思ったら、責任出撃は 55回、60回……と増やされていき、いつまで経っても帰国許可は下りなかった。だれもがしだいに精神 をおかされていったが、それでも爆撃機に乗せられる。なぜなら、キャッチ=22の規定により、本人が 直接、軍医に自分が精神病であることを申告しなければ帰国許可は下りないが、軍医に自分の病状を説明で きるものは、精神病者だとは認められないからだ。
にえ とっても不思議な小説だったよね。想像してたのとはかなり違ってたし。
すみ うん、硬質的な読感かと思ったら、人間味あふれる小説だった。設定が 空想上で設定した戦争小説っていうことで、かってに、もっとSF的な雰囲気のある戦争小説かと思いこんじゃってたからね。
にえ それにしても、登場人物が多かったな。大きく分けると、兵士たち、将軍とかの上層幹部たち、軍医や従軍牧師、 兵士に身を任せる女性たち、の4つに分かれると思うんだけど。
すみ 主人公は兵士の一人、28歳のヨッサリアン。この人はとにかく惚れっぽくて、 女性ならだいたいだれにでも惚れちゃうの。
にえ なぜか体温がず〜っと38度ちょいあって、そのおかげで好きなときに 入院できるんだけど、入院中にまかされた手紙の検閲では、ひたすらおかしなイタズラをして、ワシントン・アー ヴィングもしくはアーヴィング・ワシントンなんて偽名の検閲済みサインをしちゃうのよね。
すみ それでも、登場人物のなかでは、ヨッサリアンが一番まともって印象なんだけど。
にえ ヨッサリアンと同室のオアなんて、ほっぺに野生リンゴを詰めて 歩き回りたがってて、なんでかというと、リンゴのほっぺただと思われたいからというから、わけがわかんないよね。
すみ でも、奇人ぶりならマイローに比べればまだマシかも。マイローは軍人だけどなぜか 商人で、7セントで仕入れた卵を5セントで売ることであげた利益で大儲けして、軍内にシンジケートを作ってるっていうから、 わけわかんない。
にえ 卵の仕入れ値と売値のカラクリは、あとで説明があってなるほど〜と思うけど、 なるほど〜と思ったときには、さらにマイローがわけわからなくなってるんだけどね。
すみ 全員まともじゃないんだけど、ネイトリーはまだわかりやすいかな。 良家の出で、ハンサムなんだけど、なぜか売春婦の一人に本気で恋をして、つくしまくってるの。
にえ あと、15歳だけど年を誤魔化して兵士になった少年やら、インディアンの酋長の 兵士やら、みんな個性派ぞろいだったね。
すみ 上層部の将軍とかはみんな、出世欲に取り憑かれてて、互いを引きずり降ろすことと、 自分が目立って出世すること、この二つしか考えてなかった。
にえ メイジャー・メイジャー少佐(メイジャー)だけは違ったけどね。コンピュータの ミスで異例の出世を果たし、出世したことでまわりのほぼ全員から憎まれることになってしまったメイージャーは、 ひきこもりを起こして部屋に閉じこもり、誰にも会わなくなっちゃうの。
すみ ダニーカ軍医は、これからってときの開業医だったのに従軍させられることになって しまった我が身を哀れむあまり、兵士たちには冷たかった。まともに診療もしないで、素人の助手二人に全部任せちゃってて。
にえ 従軍牧師は臆病で、みんなに嫌われまいと必死なのよね。いつもビクビクしてて。
すみ とまあ、男性たちは個性的だったけど、女性はほとんどみんな同じような性格だった。 お金を取って娼婦をやってる女性も、家政婦や看護婦の職にある女性も、兵士たちに体を提供することしか考えてないの。
にえ こういう人たちが、たくさん会話をするんだけど、みんなおかしくなっちゃってるためか、 まともな会話じゃないのよね。ぜんぜんかみあってなくて。
すみ ヨッサリアンとは変わった名前だな、ヨッサリアンとはどういうことなんだ。はい、それは ヨッサリアンの名前であります。なんて不毛な会話が延々続いたりして、つい笑ってしまうところも多かったよね。
にえ しかもストーリーの展開も、時空が歪んでるのか、たとえばヨッサリアンが入院中に全身包帯の男が運びこまれるんだけど、 そのあとヨッサリアンが退院して、いろいろあって、もう一回入院したら、そこに初めて全身包帯の男が担ぎ込まれたり。で、そのあとずっと経ってまた 入院したら、また全身包帯の男が担ぎ込まれて、今度は別人みたいなんだけど、同じ事がまた起きたって大騒ぎになったり。
すみ 読んでると頭を掻き回されるよね。おかしな会話に笑いつつ、登場人物の心の中もかいま見えてきて 、だんだんと愛着がわいてきて、ちょっとやんわりした気分になったところで、とつぜん、信じられないような酷たらしい死が襲いかかってきて、戦争なんだと思い出さされて。
にえ 思わず吹き出してしまう出来事や会話と、読んでて衝撃を受ける残酷な死の描写、 このコントラストは凄まじくて、しかも唐突で、度肝を抜かれたよね。
すみ なにもなくダラダラ行くのかと思ったら、最後のほうで話が急展開してきて、 なるほどこういうラストを迎えるのかと妙に納得してしまった。
にえ 戦争中の死というものが、本当に怖ろしくなる小説だったよね。書かれて五十年近く経った今も、 名作として読み継がれてるのもわかった気がする。
すみ なんだろう、言葉で伝えるのがとっても難しい読後感。読んでみる価値のある小説なのはたしかだと思います。