=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「石と笛」 第3部 ハンス・ベンマン (ドイツ)
<河出書房新社 文庫本> 【Amazon】 (3上) (3下)
半人半獣の体となり、呪いによって広い平原に出ることもできなくなった聞き耳は、すべての記憶を失い、 森をさまよった。石も笛もなくし、人間たちにも動物たちにも忌み嫌われ、避けられる聞き耳だったが、山羊 の群と知り合い、冬のあいだだけは共棲できることとなった。だが、山羊たちには山羊たちの生き方があり、 心の底から馴染めない聞き耳の孤独は癒されない。 | |
さて、いよいよ怒濤の第3部。これは上・下の2分冊になってて、 いろんな出来事あり、いろんな要素ありで、どこまで語ればいいのか難しいね。 | |
まあ、これから読む方のために、ぼやかし、ぼやかしで行きましょう(笑) | |
それにしても、今まで言い損ねてたけど、この本って変わってるんだよね。 私たちがネタバレどうのこうのと言う以前に、作家自身が、各部がはじまる前に、ここにはこういうことが書かれ てますって軽く粗筋を紹介してるの。 | |
粗筋がわかってたぐらいじゃあ、この本を読むことの大きな喜びが減ることは ないのさという気迫を感じるね。 | |
それよりも、これはストーリーを単純に楽しむ本じゃなくて、もっと深いものが 書かれている本なんだよと主張してるみたいだったけど。 | |
その本領がいよいよ発揮されるのが、この第3部なんだよね。ある意味、哲学書の ようでもあったし。 | |
そうそう、さんざん青二才扱いされてきた聞き耳が、やっと生きることの 意義をつかみかけ、この長い物語が精神成長というものをテーマにした小説だったんだと私たちにもわかって くるんだよね。 | |
しかし、「まだまだこれがすべてではない」のよ(笑) | |
さてさて、第3部の冒頭では、なぜかは言いませんが、体の半分が山羊になってしまった聞き耳が、 石も笛も失い、記憶も失って、森をさまよってます。 | |
自分が何者なのか知ろうと失った記憶を探し求める聞き耳は、さまざまな きっかけから、少しずつ記憶を取り戻していくのよね。 | |
でも、それは自分の経験を思い出すというより、自分の過去を他人がやった ことのように客観的に知る機会を得るってことだから、これによって聞き耳は、自分がなにをやってきたか広い視野で 知ることができ、それがどんなに愚かで、どんなに悲惨な結果を巻き起こしてしまったか、知ることになってしまうの。 | |
それだけ言っちゃうと、つらいばっかりの話になるのかなあと思われるかも しれないけど、じっさいは違うでしょ。 | |
うん、なんといっても少しずつ増えてくる仲間がいいのよね。 私は、なかなかクールで、でもちょっと優しいところのあるイタチの針歯が好きだったんだけど。 | |
勇敢で謙虚なネズミたちがかわいかったよ。ちっぽけな体でも、 義を通す心を持った小さな騎士たちなの。 | |
ヘビのリンクラも良かったよね。リンクラは賢者で、聞き耳に 道を示す者なの。ここぞってところに現れて。 | |
で、自分の過去を知りたいと思っていた聞き耳だけど、無情にも、聞き耳が 狂わせてしまった運命の歯車は、多くの人々を巻き込んだとんでもない悲劇へと発展していき、それを知った聞き耳は……。 | |
牧歌的なメルヘンの世界から始まったこの物語が、まさかこんな残酷な、そして 衝撃的な話になっていくとはねえ。 | |
それから聞き耳は、自分が存在しない時代にまで意識を飛ばすこととなり、 石や笛にまつわる過去の人々の生き様、死に様を知ることに。 | |
それから、心の闇の中にいた聞き耳に、一条の光が射し込むことになるのよね。 ついに、聞き耳は本当の愛を知るのだけど。 | |
これがまた、悲恋ともハッピーエンドともつかないような、ある意味スンゴイ大人な 愛の形で、私としては意表をつかれて驚いてしまったよ。 | |
最後のほうになってくると、老いた聞き耳の姿にシミジミしながらも、 ハンス・ベンマンの独特の人生哲学に、そういう考え方、生き方の選択もあったのかと考えさせられたな。 | |
話はそれるけど、聞き耳が洞窟の奥に探検に行くシーンで、「指輪物語」の ゴクリによく似たキャラが出てきたよね。 | |
あ〜、いたいたっ。あれはニマリとしちゃった。 | |
それはともかく(笑)、第3部は終りが近づくに連れ、ファンタジック、 メルヘンチックなお話を期待していた読者は愕然としちゃうぐらい、大人な話になっていくのでした。 | |
聞き耳に求められてる生き方は、簡単なようで難しい生き方だったよ ね。難しいからこそ、生涯をかけてもまだ到達できなくて、それだからこそ求めがいもあるんだろうけど。 私にはできないな〜と思ったり、できないからこそ目指すべきなのかなと思ったり。 | |
とにかくハンス・ベンマンさんは、独自の考え方を確立している人なんだなと 感心させられたし、こういう考え方もあるのかと新鮮だった。なんかちょっと目覚めさせられたかんじ。いろんな意味で読んでみる価値のあるご本でした。オススメします。 | |