すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「石と笛」 第1部 ハンス・ベンマン (ドイツ)  <河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
フラグルンドに一人の男の子が産まれ、聞き耳と名付けられた。父親は大音声と呼ばれる裁判官で、威風堂々たる体格に胸毛がふさふさと はえ、その大きな声による公平な裁判には、だれもが敬意を払っていた。母親は和らぎの笛匠の娘で、物静かな女性だった。 和らぎの笛匠はバレルボーグの深い森のかなたに住み、その美しい笛の音は人の心を和やかにさせ、たくさんの争いごとを 笛の音だけでおさめていた。聞き耳は大音声の息子とは思えない華奢な体格で、ふさふさと体毛がはえているところだけが 大音声に似ていた。
にえ ドイツの傑作ファンタジー小説「石と笛」のご紹介です。本は1、2、3上、3下と4冊に分かれていて、 第1部、第2部、第3部と話も区切られているので、3回に分けてご紹介させていただきます。
すみ 全部読んでみてわかったけど、この第1部は、前置きというか、導入部分というか、 第2部、第3部の濃さに比べて、ずっと軽いタッチだったよね。
にえ うん、第2部以降けっこうドロドロ状態というか、迫力のお話になるんだけど、 第1部はそんなことがこれからあることはあまり感じさせない、わりと牧歌的で普通のメルヘン。
すみ でも、甘さのない硬めの文章で、主人公の心理描写もきっちりしてて、 情景描写も美しかったから、メルヘン系はチト苦手な私も、すんなり入りこめたよ。
にえ そうそう、聞き耳がいい奴キャラじゃなくて、すぐにうぬぼれて調子に乗ったり、 ムッとしたり、等身大の普通の性格だから読みやすかったよね。
すみ それにしても、こういう男性が書いたファンタジーって、女性の登場人物はみんな 超美形で、細やかに描写されてるけど、男性の登場人物は毛深かったり、ほっぺたが赤かったりしてなんだし、 描写も細かくないし、個人的にはちょっとばっかし寂しいかも(笑)
にえ だからって、美男子ばっかり出てきて、ネチネチと描写されても、それはそれでひいちゃうけどね(笑)
すみ さてさて、この第1部では、聞き耳が17歳になったとき、フラグルンドに掠騎族が 攻めてくるところから、話は始まります。
にえ 掠騎族は、他の部族を襲って略奪することで暮らしを立てている部族、 攻めこまれたら皆殺しだよ。でも、暴力的なことが嫌いな聞き耳は、戦いに参加せず、けが人の世話をする係に志願するの。
すみ んでもって、戦いが始まると、自分たちの味方だけじゃなく、けがをした掠騎族の老人も 助けようとするんだけど、その老人は死んでしまう。老人の名はアルニと言うんだけど、登場そうそうなくなったわりには、これから先も 重要人物だったりするの。
にえ アルニは息をひきとる前に、聞き耳に不思議な石を渡すのよね。この先、アルニの石とか、瞳石とか 呼ばれることになるんだけど、これこそがこの物語の核となる謎の石。
すみ 石は光があたると、青、緑、紫の3つの色が不思議に脈打ち、見る人の心をあたためるの。 この石の継承者は、一生をかけて石の秘密を探らなくてはいけないらしいんだけど。
にえ まあ、ひょんなことから手に入れただけで、夢と希望で胸が膨らみっぱなしの聞き耳に、 ストイックに石ころひとつの秘密を探れっていっても、無理な話だけどね。
すみ とりあえず、そんなこととはまだ知らない聞き耳は、戦も終わって一段落つくと、 祖父の和らぎの笛匠に会いに、旅に出ます。
にえ 繊細で、小さな声で話す聞き耳には、豪快な大音声との暮らしに違和感があったんだよね。 これは理解できるなあ。
すみ ところが途中、怪しく美しい魅惑の女性ギザが統治する領土に踏み入ると、 あっさりとギザの誘惑に負け、ギザと暮らすことに。
にえ 独裁者ギザの寵愛を一身に受けて調子に乗った聞き耳は、人を裁く機会を与えられると、 とんでもない判決を下してしまうの。
すみ そこから、償いと、打倒ギザの旅が新たにはじまるというのが、ごく最初の導入部分。
にえ そこから紆余曲折はあるけど、まだまだお話はけっこう単調だよね。
すみ ストーリー以上に、ときおり挿入される寓話がおもしろかったな。 歌の詩もたくさん挿入されてて楽しかったし。
にえ 謎の石と魔法の笛がキーアイテムなんだけど、まだここでは紹介されてるだけで、 核心まではたどりつきません。
すみ 第1部はとりあえず、ひとつの話が完結しています。でもこれはあくまでも導入部、 話が混みあって、愛憎が絡み合い、謎が解けていくのは第2部から。お楽しみに〜。