=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「石と笛」 第1部 ハンス・ベンマン (ドイツ)
<河出書房新社 文庫本> 【Amazon】
フラグルンドに一人の男の子が産まれ、聞き耳と名付けられた。父親は大音声と呼ばれる裁判官で、威風堂々たる体格に胸毛がふさふさと はえ、その大きな声による公平な裁判には、だれもが敬意を払っていた。母親は和らぎの笛匠の娘で、物静かな女性だった。 和らぎの笛匠はバレルボーグの深い森のかなたに住み、その美しい笛の音は人の心を和やかにさせ、たくさんの争いごとを 笛の音だけでおさめていた。聞き耳は大音声の息子とは思えない華奢な体格で、ふさふさと体毛がはえているところだけが 大音声に似ていた。 | |
ドイツの傑作ファンタジー小説「石と笛」のご紹介です。本は1、2、3上、3下と4冊に分かれていて、 第1部、第2部、第3部と話も区切られているので、3回に分けてご紹介させていただきます。 | |
全部読んでみてわかったけど、この第1部は、前置きというか、導入部分というか、 第2部、第3部の濃さに比べて、ずっと軽いタッチだったよね。 | |
うん、第2部以降けっこうドロドロ状態というか、迫力のお話になるんだけど、 第1部はそんなことがこれからあることはあまり感じさせない、わりと牧歌的で普通のメルヘン。 | |
でも、甘さのない硬めの文章で、主人公の心理描写もきっちりしてて、 情景描写も美しかったから、メルヘン系はチト苦手な私も、すんなり入りこめたよ。 | |
そうそう、聞き耳がいい奴キャラじゃなくて、すぐにうぬぼれて調子に乗ったり、 ムッとしたり、等身大の普通の性格だから読みやすかったよね。 | |
それにしても、こういう男性が書いたファンタジーって、女性の登場人物はみんな 超美形で、細やかに描写されてるけど、男性の登場人物は毛深かったり、ほっぺたが赤かったりしてなんだし、 描写も細かくないし、個人的にはちょっとばっかし寂しいかも(笑) | |
だからって、美男子ばっかり出てきて、ネチネチと描写されても、それはそれでひいちゃうけどね(笑) | |
さてさて、この第1部では、聞き耳が17歳になったとき、フラグルンドに掠騎族が 攻めてくるところから、話は始まります。 | |
掠騎族は、他の部族を襲って略奪することで暮らしを立てている部族、 攻めこまれたら皆殺しだよ。でも、暴力的なことが嫌いな聞き耳は、戦いに参加せず、けが人の世話をする係に志願するの。 | |
んでもって、戦いが始まると、自分たちの味方だけじゃなく、けがをした掠騎族の老人も 助けようとするんだけど、その老人は死んでしまう。老人の名はアルニと言うんだけど、登場そうそうなくなったわりには、これから先も 重要人物だったりするの。 | |
アルニは息をひきとる前に、聞き耳に不思議な石を渡すのよね。この先、アルニの石とか、瞳石とか 呼ばれることになるんだけど、これこそがこの物語の核となる謎の石。 | |
石は光があたると、青、緑、紫の3つの色が不思議に脈打ち、見る人の心をあたためるの。 この石の継承者は、一生をかけて石の秘密を探らなくてはいけないらしいんだけど。 | |
まあ、ひょんなことから手に入れただけで、夢と希望で胸が膨らみっぱなしの聞き耳に、 ストイックに石ころひとつの秘密を探れっていっても、無理な話だけどね。 | |
とりあえず、そんなこととはまだ知らない聞き耳は、戦も終わって一段落つくと、 祖父の和らぎの笛匠に会いに、旅に出ます。 | |
繊細で、小さな声で話す聞き耳には、豪快な大音声との暮らしに違和感があったんだよね。 これは理解できるなあ。 | |
ところが途中、怪しく美しい魅惑の女性ギザが統治する領土に踏み入ると、 あっさりとギザの誘惑に負け、ギザと暮らすことに。 | |
独裁者ギザの寵愛を一身に受けて調子に乗った聞き耳は、人を裁く機会を与えられると、 とんでもない判決を下してしまうの。 | |
そこから、償いと、打倒ギザの旅が新たにはじまるというのが、ごく最初の導入部分。 | |
そこから紆余曲折はあるけど、まだまだお話はけっこう単調だよね。 | |
ストーリー以上に、ときおり挿入される寓話がおもしろかったな。 歌の詩もたくさん挿入されてて楽しかったし。 | |
謎の石と魔法の笛がキーアイテムなんだけど、まだここでは紹介されてるだけで、 核心まではたどりつきません。 | |
第1部はとりあえず、ひとつの話が完結しています。でもこれはあくまでも導入部、 話が混みあって、愛憎が絡み合い、謎が解けていくのは第2部から。お楽しみに〜。 | |