=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「タイムマシン」 H・G・ウェルズ (イギリス)
<角川書店 文庫本> 【Amazon】
昭和41年に角川文庫で刊行した「タイム・マシン」を一部改題し、再文庫化した短編集。 H・G・ウェルズは、1866〜1946年のイギリスの作家。おもな作品は他に、「月世界旅行」 「透明人間」「宇宙戦争」「モロー博士の島」など。 | |
映画の予告を見ていたら、どうしても読みたくなった本です。 | |
「タイムマシン」はあまりにも有名で、しかも短編だってこともあってか、 とにかくいろんな出版社から、いろんな翻訳者で、題名が違ったり、収録作品が違ったりしながら、いろんな 翻訳本が出てるのよね。 | |
ちょっと翻訳の違いとか気になったから、私たちは何冊かの本を読み比べ てみたりしたんだけど、ご紹介としては、最新で手に入りたい角川文庫のでご紹介ってことで。 | |
この本だと、「みにくい原始人」が入ってて、都合がいいしね。 | |
キングの「アトランティスのこころ」で主人公の少年が読んでたゴールデ ィングの「後継者たち」は、このウェルズの「みにくい原始人」がヒントになって書かれてて、ということで、 私たちはやっと源にたどりつきました(笑) | |
それにしても、どれもおもしろいお話ばかりだったよね。 | |
ずっと前に書かれたSFだと、古さを感じさせないとか、時代遅れだとか、 そういうことをどうしても言いたくなるんだけど、これは古さを感じさせるSFだからこそのおもしろさがあったよね。 | |
うん、かえって新鮮な気持ちで読めた。しかも、SFの短編だとどうしても 大丈夫かなって不安になるところだけど、どのストーリーも破綻なくキレイにまとまってて、とにかく読み物としておもしろかった。 読んでない方はこの機会にいかがかしら。安心してオススメ♪ | |
<タイムマシン>
心理学者や医者や地方の市長といった面々は、タイム・トラヴェラーの自宅に招かれた。彼は自宅の研 究室で、とんでもないものを発明していた。 | |
タイムマシンっていうから、未来や過去へ行ったり来たりする話かと思ったら、 西暦80万2701年という、とんでもなく遠い未来に行った男の見聞録だったんだよね。 | |
未来には、苦労というものをまったく知らず、フワフワと暮らしている 人類と、暗闇でどう猛に生きている人類と、私たちの子孫は二種類の生態に分かれていたのでした。 | |
最初のタイム・トラヴェラーのタイムマシンの説明が難しくて、 なんだかよくわかんなかったんだけど、本筋に入ったら俄然おもしろくなったよね。 | |
よく映画が先か、原作が先かって話になるけど、読んだかぎりでは、 映画はそうとうアレンジを加えて、原作とはかなり別物になっていそう。先に原作を読んでおいて、どれだけ 話を膨らませ、アレンジを加えたのか映画を観てたしかめるとおもしろいんじゃないかな。原作を先に読んで ストーリーがわかっちゃって、映画がつまらなくなるってことはないと思うよ。 | |
映画への期待が膨らんだよね〜。 | |
<盗まれた細菌>
細菌学者は、自宅に訪ねてきた男に、コレラの病原菌を見せたのだが、その男が何者で、どんな目的があって 病原菌を見たがったのかは知らなかった。 | |
これはオチがすぐにわかっちゃうんだけど、とっても短い短編だから、 べつにオチがわかってても気にならず、「タイムマシン」のあとの息抜きにはちょうど良かったな。 | |
脱力した状態で、笑いながら読めたよね。 | |
<深海潜航>
鉄の球体型潜水艦で、人類未到の深海世界を見たエルステッドは、予期せぬ世界に驚愕した。 | |
さてさて、深海にはいったい何があるのでしょ〜(笑) | |
これは、なるほどそう来たか、とニマニマしちゃったね。 | |
<新神経促進剤>
ギバーン教授は、全身くまなく効く興奮剤を開発した。その薬を飲むと、たとえば一人の人が一時間以内 にできる仕事の量が、何千倍にも増えるのだ。しかも、副作用はまったくない。ギバーン教授に誘われた僕 は、さっそくその薬を飲んでみることにした。 | |
これこそ、そう来たか、だよ。何千倍も早く動けるようになった人間から見た 世界は、いったいどういうものでしょう。 | |
まさか、あんな風になるとは〜!(笑) | |
<みにくい原始人>
現在の人類の祖先たちがヨーロッパに移動してきた頃にはまだ、滅びゆく運命にあるネアンデルタール人が 存在し、彼らは出会っていたはずだと考えられる。人類の祖先たちのなかに、首長であるはずの長老を亡くした 小集団が存在した。若きウォーとクリックは、仲間を率い、ヨーロッパにたどりついた。 | |
これが問題の、ゴールディングが「後継者たち」を書くきっかけとなった 小説なんだよね。 | |
「後継者たち」はネアンデルタール人側原始の世界が書かれていて、 こっちの「みにくい原始人」は、人類側から書かれてるの。こっちのほうがわかりやすいし、説明もきっちりしてるから、 「みにくい原始人」を先に読んで、「後継者たち」をあとで読んだほうが良かったかも。 | |
滅びゆく種族の目を通して書かれた小説と、未来をになう種族の目を通して書かれた 小説、どっちもそれぞれにおもしろかった。大満足。 | |
<奇跡を起こせた男 ──散文による四行詩──>
懐疑的で、奇跡などまったく信じない30歳の男フォザリンゲイは、あまり頭のいい男ではなかった。 ところがなんと、このフォザリンゲイは、奇跡を起こす能力を持っていたのだ。 | |
これは笑えた。かなりおもしろい。ぜんぜん望んでもいないのに、意志の力でなんで もできちゃう能力が自分にあることを知った、あまり頭の良くない男の話っていうのは童話的なんだけど、 しっかりSFチックな展開になっていって、さすが!と思ったよ。 | |
たいして悪くもないのに、地獄に飛ばされたり、サンフランシスコに飛ばされたりする警官が いるんだけど、この警官がほったらかしにされちゃってるのが、とにかく笑えてしまった。SF大ボラ話って感じの、愉快な作品。 | |
<くぐり戸>
ライオネル・ウォーレスは成功した男だが、子供の頃に一度だけ行けたくぐり戸の向こうの世界が忘れられずにいた。 | |
ラストにふさわしい、ジンと来るような話だったよね。 | |
くぐり戸の向こうには、軽やかで楽しげな世界が待っているんだけど、 そこに人生はないのよね〜。 | |