=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「アフリカの日々」 アイザック・ディネーセン (デンマーク)
<晶文社 単行本> 【Amazon】
デンマークからアフリカに渡ってきたブリクセン男爵夫人は、1914年から17年間、ンゴング丘陵の ふもとに農園を営み、暮らしていた。農園はコーヒー栽培にはやや高度がありすぎるが、手つかずの自然の美 しい景色を見渡せる場所だった。経済的に行き詰まり、デンマークに帰国することになってしまったブリクセン男爵夫人は今、 英国人デニスとの友情をあたため、動物たちと親しみ、キクユ族やソマリ族、マサイ族といった現地の人々と ともに共存した懐かしい日々を振り返る。 | |
この本の作者は1885年の生まれだから、私たちの厳選作家の枠からは 外れちゃうんだけど、この本はどうしても読みたかったのよね。 | |
アイザック・ディネーセンの「アフリカの日々」は、インターネットで初めて知ることが できた本。いろんな人がネット上で、もっとも好きな本、20世紀の小説のなかでも最も優れた本の中の1冊として、この作者と題名を 挙げているから、どんな本なのか読んでみたくてたまらなくなっちゃったのよね。 | |
読むまでは、男性なのかと思ってたよね。じつは、男名前のペンネームを使った 女性作家だった。 | |
アイザック・ディネーセンは、デンマークの資産家の娘として生まれ、28歳で 旧英領東アフリカ(現在のケニア)に移住、それからスウェーデン人の男爵と結婚するのだけど、いろいろ辛いこと があって、農園を一人で切り盛りすることになった女性。 | |
辛いことについてはあとがきに書いてあったし、調べもしたけど、ディネーセン自身が 潔くも小説のなかでまったく語ってないのに、1冊本を読んだからって私たちがペラペラ喋るのはとっても 失礼な気がしたので、興味のある方は自分でお調べくださいってことで割愛いたします。 | |
まあ、依怙贔屓型人間の私たちがこういう気遣いをするところを見せれば、 わかってらっしゃる方は、すっかり惚れ込んじゃったのねとお気づきになることでしょう(笑) | |
良い本だって評判だけで、ほとんど予備知識なしで手に取ったから、 アフリカの汗の匂いのしてきそうな熱い小説なのかしらとか、ほとんど自然描写に終始した大自然讃歌の エッセーかしらとか思ってたけど、ぜんぜん違ったよね。 | |
暑苦しいどころが、夕暮れ時の涼しい風を頬に受けながら、冷たい飲み物で 喉を潤しているような清涼感が漂っていたし、登場してくる人も生き物も興味を覚え、愛着がわいてきたし、 ホントに気持ちよく読めたね。 | |
ディネーセンの語りがなんといっても良かったのよね。優しく、しかも気高く強く、 なんとまあ、清々しい生き方でしょう。しかも、アフリカのすべてに対する愛情に満ちあふれてたし。 | |
その愛情がまた、ベタッとした執着心でもなく、諸手をあげての大絶賛でもなく、 理解もあれば、理性ある女性としての線引きもはっきりしてて、しっかりと自立した大人同士が共感しあっている ような愛情で、傍観者として読んでいても心地いいのよね。 | |
本文は5部に分かれて、趣向が少しずつ違ってるの。第1部はひとつの連なった物語の ようになってたね。すねて孤立してるようにみえたキクユ族の醜い少年カマンテが、病気から救ってもらったことで ブリクセン男爵夫人を生涯仕える女主人と決めて、勝手に奉公をはじめるところから、いくら可愛がられても、 野生動物として誇り高く生きることを忘れようとしないアンテローブの仔鹿ルルのお話まで。 | |
カマンテとルルは正反対の生き方を選んだようにも見えるけど、実はどちらも同じ、 他人に惑わされることなく自分で生き方を決め、誇りを持ってその生き方を遂行していく、まさにディネーセンが敬愛する アフリカの生き物の姿勢そのものだよね。 | |
カマンテは自分で判断して、女主人にとって良いことだと思う行動をとるんだけど、 なかでも夜中に草火事を見て、女主人を起こしに行った時のセリフがいいの! こういうのは欧米だろうが、 日本だろうが、作家が頭のなかで思いつけるセリフじゃないよ。 | |
第2部は、近くに住むアメリカ人ベルクナップ宅で、料理人の青年が 主人の散弾銃を友人たちに見せていたところ、弾が発射されて惨事を招いた、その事故後の顛末の話。 | |
このエピソードを通して、アフリカの人々と欧米人との罪と罰にたい する認識の違いが浮き彫りになっていくよね。 | |
どちらの法にも肩入れせず、こういう考え方もあれば、こういう考え方 もあると紹介するディネーセンの語り口も良いし、いろんな人の登場も興味津々、おもしろかったね。 | |
第3部は、農場を訪れた多くの人たちを次々に紹介。 キクユ族のンゴマって踊りの大会についての詳細な記述もあれば、陸に上がった船乗りの老人の不思議な生き様、 死に様の紹介もあり、デニスが乗せてくれた飛行機の話もあり。 | |
このあたりを読む頃には、またかって言われそうだけど、 私はアフリカに農園を持ちたいと本気で思うようになっていたよ(笑) | |
第4部は、細切れの回想録。バッファローと牛のあいのこを飼ったことの 顛末とか、運命にもてあそばれる老料理人の話とか、イグアナの話、コウノトリの話やキリンの話、第一次世界大 戦のときに仲間を集めて遠征した話、などなど。 | |
私はデンマークの老船主がしたという、シンガポールの売春宿で出会った 老女とオウムのお話が好きだったな。老女は若い頃、やんごとないお生まれのイギリス人の恋人からオウムをもらうんだけど、 恋人がオウムに教えた言葉をずっと知らずにいたの。 | |
第5部は、農園を去るときのお話。悲しく切ない出来事もあり、別れにいたって あらためてわかる友愛もあり。最後までジメっと湿っぽくはならず、爽やかな感動がありました。 | |
あいだには詩も挿入され、ハッとさせられる哲学的な言葉もあり、 さまざまな宗教観もありで、芳醇で瑞々しい味わいの文学作品でもありました。狭い自分の価値観だけで 判断せず、他人の生き方を尊重できる、こういう女性になりたいよね。読んでよかった〜。 | |