すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「エバ・ルーナのお話」 イサベル・アジェンデ  <国書刊行会 単行本> 【Amazon】
さまざまなお話を創作し、語り、ついには作家になった「エバ・ルーナ」の主人公エバ・ルーナが 夫ロルフに乞われて語る、23のお話。
にえ これは長編小説「エバ・ルーナ」の主人公エバ・ルーナが作ったという設定の 短編集です。
すみ 最初に、ロルフがエバ・ルーナにお話をしてって頼んでいて、それから 22の短編があって、最後の短編で、どういった経緯でロルフがエバ・ルーナにお話をしてって頼んだかがわかるって仕組みなのよね。
にえ ひとつひとつが独立したお話だから、「エバ・ルーナ」を読んでなくても、 支障なく楽しめるんだけど、やっぱり先に「エバ・ルーナ」を読んでれば、なお良いかな。
すみ うん、お話は、エバが完全に作ったものもあれば、知り合いから聞いた話も あるって設定だから、当然、話の中にはエバの知り合い、つまりは「エバ・ルーナ」の登場人物が出てくる話もあるわけで、 じつはこの人にはこんな事があったのね〜なんてわかるようになってるからね。
にえ ひとつひとつの話がすごくおもしろかったよね。南米独特の雰囲気が伝わってくるし、 ありがちなオチのある話じゃないから、予想とかせずにゆったりした気持ちで読めたし。
すみ 「エバ・ルーナ」も「エバ・ルーナのお話」も、翻訳本はルソーの絵が表紙になってるんだけど、 それがピッタリ来るよね。まさにルソーの世界だな。鬱蒼としたジャングルから、極彩色の動植物が見え隠れして目を楽しませてくれるけど、 暑苦しいはなくて、不思議な静けさが漂ってる、そういう感じが。
にえ これでイサベル・アジェンデは、長編もすばらしいけど、短編もすばらしいってことがわかったよね。 私たちの、稀有な作家の条件をクリアしたわけだ。惚れ込んじゃうね。
すみ まさか23編ぜんぶを紹介していくというわけにもいかないので、6編ほど 紹介しておきますが、これはいいけどこれはちょっとっていうのがない、安定した魅力の短編集でしたよ。もちろん、オススメです。
<二つの言葉>
各地を旅して、真実の長い物語を語りながら言葉を売ることを生業としている、暁のベリーサは、大統領になりたいという 大佐に、選挙演説の原稿を依頼された。
にえ 言葉に値段をつけて売るっていうのが、イサベル・アジェンデらしい発想だよね。 5センターボですぐに覚えられる詩、6センターボでいい夢を見ることのできる言葉、ってぐあいに値段がついてるの。
すみ 大佐に売った選挙演説にはオマケとして、秘密の言葉が2つついてるんだけど、 それはいったいなんでしょう。
<トマス・バルガスの黄金>
金持ちのくせに銀行を信用せずに金を土に埋めておくような男バルガスは、妻にも子供にも金を与えず、おかげで妻は 子供を育てるために働かなければならず、子供たちはいつも飢えていた。そこに、バルガスの子供を孕んでいると訴える 若い娘が現れた。
にえ ケチケチ男と、苦労のために早いうちから老けてしまった妻と、 世間知らずの若い娘。これはもう痛快な結末が待っていると期待していいでしょ。
すみ 最初は若い娘を憎んでいても、つわりに苦しむ娘を世話するうちに連帯感がうまれてくるって いう妻の心の流れは、女性としてはすごくよくわかる気がしたね。
<恋人への贈り物>
三代つづいたサーカス団の団長オラシオは、富裕なユダヤ人の宝石会社社長夫人を一目見るなり恋に墜ちた。 しかし、あらゆる種類の花や高価な宝石を贈っても、夫人は見向きもしなかった。
にえ 弱り果てたオラシオは、サーカス団の創始者でもある祖父に相談を持ちかけるんだけど、 祖父がしたアドバイスはなんだったでしょう。
すみ オラシオの父親は根っからの経営者タイプだけど、祖父は本物の芸人って タイプなんだよね。
<トスカ>
5歳からピアノを習いはじめ、10歳で天才ピアニストになると言われたマウリツィアは、歌手になりたいと ピアノをやめたが、天性の美声は持ち合わせていなかった。大人になったマウリツィアを心から愛する男に乞われて 結婚したが、粗野な男にマウリツィアは愛情を感じてはいなかった。
にえ これは私が特に好きな話のひとつ。短いながらも一人の女性の半生が 綴られていて、最後にはズキンときたな。
すみ 人生は選択ミスだらけ、それでも自分で道を選んで、その道が正しかったと信じて努力する。 後悔はあとになってからしか来ないのよね。
<無垢のマリーア>
もともとは育ちの良かったマリーナは、記憶もすぐに消えていくほど頭が弱かったが、それでも、みずから すすんで娼婦の道を選び、生涯にわたって気品を失うことはなかった。
にえ 人として気品があるって大事だよね。うらやましい生き方ではないはずなのに、 読んでいくうちにマリーナを尊敬してしまったわ。
すみ 表面的な道徳観念は取り払って、なにが本当の美しさか、なにが本当の 汚さか、そういう人としての根元の価値観を問う話が、南米文学では多いような気がするね。そういうのも魅力のひとつだな。
<つつましい奇跡>
リヴァプール出身の商人が、海を渡り、一代で富を築いた。その商人の三人の子供である、ヒルベルトはイギリス留学のさいに 身につけた紳士然とした物腰が抜けない詩人、フィロメーナは百姓の奥さんのようにおおらかで世話焼き、ミゲルは生涯を貧しい者た ちのために捧げると決意した僧侶だった。
にえ これは楽しい男、女、男の三兄弟のお話。みんな個性的でまったく似てないんだけど、 どこか根の部分ではつながってるの。そういう関係っていいなあ。
すみ ミゲルの目が突然見えなくなるんだよね。その顛末がおもしろいし、 一人一人の個性的なセリフが愉快。