=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「恥辱」 J・M・クッツェー (南アフリカ)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
52歳、ケープタウン大学の文学教授デヴィッド・ラウリーは、大学側のリストラ的な処置で、まったく 時間の無駄としか思えないような教養科目の講座を二つ受け持ち、なんとか教職を失わずにいた。離婚歴二回、 かつては女性に不自由しない男だったが、あるときからピタリと女にもてなくなり、エスコート・クラブで ソラヤという娼婦と契約して、週に一回の逢瀬を楽しみにしていた。ところが、ひょんなことからソラヤの私生活を 見てしまい、ソラヤは会ってくれなくなった。失意のまま、もう女性と性関係を持つこともないのだろうかと思い はじめていた矢先、メラニーという女子学生と関係を持ったが、幸福な時はつかの間、セクハラで訴えられて 大学を追われてしまう。醜聞に仕事も友人も失ったデヴィッドは、娘ルーシーがきりもりする田舎の農場に身を寄せることにした。 | |
これは、ブッカー賞史上初、クッツェーが2度目のブッカー賞受賞を果たした 作品です。 | |
おまけに、受賞した次の年にクッツェーは、ノーベル文学賞の最終候補に残ったらしいって いうからスゴイよね。 | |
おまけに、これまでのクッツェー作品は、入り組んだ仕掛けや摩訶不思議な 設定の小説ばかりで、クッツェーにとっては、これが初めてリアリズムに徹した記念碑的作品でもあるみたい。 | |
とはいえ、私たちはあんまり期待しないで読んだのよね。セクハラ教授が田舎に逃げ込んで 恥辱にたえる話、おもしろいか〜?みたいな感じで(笑) | |
それどころか私は、ぜったい主人公に嫌悪感をもつと思って、最初から身構えてたよ。 | |
期待しなかったおかげか、わりとおもしろかったよね。主人公も意外とまっとうで、 嫌悪を感じるところまで行かなかったな。 | |
うん、淡々とした語り口で文章も読みやすかったし、徹底した心理の追究だと 決め込んでたら、事実を追っていくストーリー展開で、それなりに飽きさせないメリハリもある話だったし、 拍子抜けしまくり。 | |
たださあ、わりとおもしろく読めたってだけで、クッツェー文学の深淵を かいま見ることができたとか、衝撃を受けたとか、そういうレベルのところまでは行けなかったな。ただ、ふ〜んって 読んだ程度で。 | |
うん、私は、古い価値観念にとらわれない、わりと新しいタイプの父親と、 なぜか先祖帰りしたみたいに、古い価値観念に自分からすすんで縛りつけられようとする娘の世代の逆転というか、 そういう対比がおもしろかったけど、まさかこれがこの小説の真髄ではないんだろうね。 | |
デヴィッドは、自分に対するあきらめもあり、落ちぶれた大学教授に ありがちの、捨てきれない無駄なプライドありすぎなところありの、まあ、いろんな意味で理解しやすい 人だったよね。 | |
学があるけど生きることがヘタな、典型的なインテリバカだよね(笑) ストーカー紛い のことをしながら、ワーズワースやバイロンの詩をとうとつに口ずさんだりして、ちょっと笑えるし。 | |
ただ、主人公のデヴィッドが理解しやすかった分、娘のルーシーは 理解しづらかったね〜。 | |
ルーシーは、デヴィッドとオランダ人の最初の妻とのあいだに生まれた娘で、オランダで暮らしてたこともあるけど、 南アフリカに戻ってきたんだよね。同性愛者みたいだけど、デヴィッドはわりと抵抗なくその事実を受けとめてるみたいだった。 | |
もともとは数人でコミューンを築いてたっていうから、ヒッピーあがりだろうね。 他の仲間はヒッピー卒業しちゃって、ルーシーとルーシーの恋人の女性二人だけが残って、農場を手に入れて暮らしてた んだけど、恋人の女性は去ってしまったみたい。 | |
ヒッピーだったってことは、既成観念や従来の古い道徳心に とらわれず、自由な精神を大切にしようって考えてそうなものだけど、なぜかルーシーはその正反対なんだよね。 | |
閉鎖的な村社会のなかで暮らすこと、土地に根をはることに、なんだか異常なまでに 固執してたね。とくに自分の土地に対する執着心はすごかった。東京で主婦をやってたら、ギュウギュウに節約しまくって、通勤時間3時間ぐらいの 場所に土地つき一戸建てを買おうとするタイプだね(笑) | |
節約よりも自己犠牲はスゴイよ。村社会での摩擦を避けるためにレイプされても訴えなかったり、 自分の土地を守ってもらいたいという理由だけで、好きでもない男の第三夫人になろうとしたり、執着心で自分を見失ってるみたいにしか 感じなかった。 | |
私たちが今まで読んだアフリカの小説に出てくる女性というと、そういう 封建的な村社会とか、虐げられる女性の地位から逃げ出したくて必死に戦い、ヨーロッパやアメリカに旅立つ女性たちだったよね。 ルーシーはまったく正反対。 | |
デヴィッドが金は出すからオランダでも、よその都会にでも行けって言っても、 かたくなに拒否して、自分を奴隷のような立場に追い込んでいくんだよね。 | |
デヴィッドはもっと自分を大切にしろと言い、ルーシーは私の立場もわかってよと言うんだけど、 私には頭がまともだけどセクハラ教授のレッテル貼られてる父親と、完全に頭がおかしくなってる娘の言い争いにしかとれなくて、 デヴィッドがんばれ〜と思っちゃった(笑) | |
父親が2回も離婚して、子供時代に落ち着かなかった反動で土地に執着するってのはわからないでもないけどね。 でも、ルーシーみたいな女は、ジーン・アウルのエイラシリーズでも読んで、原始時代の女でも、もっと自立しようと努力してたってこと を理解したほうがいいと思うよ。 | |
ルーシーの親友の動物医院の医師ベヴってのが、また理解できない 女性だったよね〜。 | |
そうそう、たいして事実を知ろうともしないで、ルーシーの判断に任せとけばいいって、 いいかげんな助言しかしなくって、しかも、自分は情事を楽しむことしか考えてないみたいだったし。 これで、地道に社会を変えていきたいみたいなことを主張されても、賛同できないよ。 | |
もしかして、もしかすると、ルーシーやデヴのような女性が地に足に着いた 生活をしてて、デヴィッドだけが浮いてるって感じで書いてあったのかもしれないけど、そうは受け取れなかったよね。 | |
うん、どう考えてもデヴィッドのほうがまともだった。プライドが高いわりには、 肉体労働もいとわないで、すすんで働いてたし。 | |
あとさあ、帯に「中年男がたどる悔恨と審判の日々」って書いてあったけど、 それほど反省しているようにも思えなかったよね。読んでて、その歳までその調子でやってきたんなら、最後までがんばれと思っちゃった(笑) | |
というわけで、私たちは勝手な読み方をして、それなりに楽しんだのでした。おしまいっ。 | |