=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「アースクエイク・バード」 スザンナ・ジョーンズ (イギリス)
<早川書房 単行本> 【Amazon】
故郷イギリスを捨て、日本に来て10年になるルーシー・フライは、会社勤めで翻訳の仕事をしていたが、 その仕事の最中に警察に連行された。知り合いのイギリス人女性リリーの切断された死体の一部が、東京湾で 発見され、ルーシーが第一容疑者だともくされているからだ。リリーは日本ではバーテンダーだが、イギリス では看護婦、日本に来てから間もないが、ルーシーとは親しくしていた。取調室でルーシーは詰問されても、 なにも答えない。ルーシーが思い出すのは、恋人だった禎司のこと。もう会えないとはわかっていたが……。 | |
これは、スザンナ・ジョーンズのデビュー作で、CWA賞(英国推理作家協会賞) の新人賞を受賞したサスペンスです。 | |
東京を舞台にした小説なのよね。なにはともあれ、日本を舞台にした 小説が、イギリスで広く読まれるのは嬉しいことだよね。 | |
でもさあ、この小説、日本人の私たちが読むと、けっこうギョッとする小説じゃなかった? | |
うん、海外作家が東京を舞台にして書いた小説っていうと、東京の ようで東京でないような、妙にキラキラと輝いてるみたいな、読んでてこそばゆいような、そういう感じが するのが普通のような気がするんだけど、これは違ったよね。 | |
輝きもなにもなくて、まんま東京なんだよね。それだけからすると 日本人が書いたみたいなの。でも、日本人作家なら当たり前すぎて書かないことまできっちり書いてるみたいな、 詳細な描写があったりして、なんか不思議な気持ちになった。 | |
作者自身が日本とイギリスを何回も行き来した人で、日本での滞在期間も、 一年、二年、二年、と長かったからだろうね。 | |
安アパートの薄暗さから空気の湿っぽさまで、やけにリアル。 | |
しかも、文章じたいも日本人が書いたみたいな、でもやっぱりイギリス人が 書いたみたいな、そういう読んでるこっちの頭を混乱させるような感じがしなかった? | |
うん、恋愛に固執しすぎた記述とか、ユーモアの入り込むすきもない 余裕のなさとか、なんとはなしに肌でリアリティーのなさを感じてしまう少女時代の逸話とか、ちょっと前 の日本人女性作家の小説を読んでるようだった。 | |
救いだったのは、主人公の語りで進行していくんだけど、一人称の「あたし」 となってると思うと、とうとつに「ルーシー」と三人称になってたことで、これのおかげで、なんか平衡感覚を失わずに 読めた。 | |
最初のうちは、なんか禎司って昔の恋人をやたらと美化して、 それがまた暗く、淡々とした口調で書かれてるから、うわ、最後まで読めるかな〜と不安だったんだけど。 | |
ルーシーと禎司は、禎司が夜の新宿で、水たまりに映った高層ビルを カメラでおさめてるときに知り合ったのよね。 | |
禎司はカメラマンなのかなと思ったら、じつはカメラはあくまでも趣味で、 仕事は伯父さんがやってる蕎麦屋の店員。ルーシーと禎司は、恋愛とも言えないような微妙な関係になるの。 | |
ルーシーは禎司にメロメロだけど、禎司はイマイチ、なに考えてるかわからない、 つかみどころのない男よね。 | |
そんな関係がズルズルと続くうちに、ルーシーは友人のボブからリリーを紹介され、 日本に来たばかりで困っているから助けてあげてって言われるの。 | |
リリーは元彼にストーカーされて、日本に逃げてきたんだけど、いかにも 自信のなさそうな感じで、やたらとルーシーにくっついてくるようになっちゃう。 | |
人と話すことじたいがあんまり好きじゃないタイプのルーシーにとって、 リリーは最初、かなりうざったい存在だけど、いつしかリリーを友だちだと思うようになるの。で、リリーに禎司 を紹介して、三人は知り合いになる、と。 | |
このあたりで、あとの展開はだいたい予想がつくよね。 | |
だからこそ、ラストがおもしろいのかも。やっぱりなと思うか、意外な ラストに驚くか、どっちかだろうと思いつつ読んだんだけど、結果としてはやっぱりなと思いつつ、そうだったのか〜と意外さに驚いた。 | |
最後まで読んだ甲斐のあるラストだったよね。そうか、ここまで読まされた 恋愛話そのものが伏線だったのか、みたいな。 | |
厚い本ではないから、イギリス人女性が書いたのに日本人が書いたみたいな、 この不思議感覚と、うまいなと思わせるラストで、充分納得。満足できたよね。 | |
なかなかおもしろかった。自己陶酔型の恋愛小説と見せかけた心理サスペンス、 あなどれないものがありました〜。 | |