すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「アリスの眠り」 マギー・オファーレル (イギリス)  <世界文化社 単行本> 【Amazon】
自殺をはかる日の朝、ある出来事で深く落ちこんでいたアリスは、突然思い立ってキングズクロス駅から実家のあるエジンバラに向かった。 列車から電話を入れておいたので、エジンバラ駅のプラットフォームでは、姉のカースティと妹のベスが待っていた。 カースティとベスは金髪で小がら、アリスは黒髪で背が高い。子供の頃から、アリスだけが違う家の子供のようだった。 三人は駅のカフェに入り、しばらく雑談していたが、アリスは立ち上がり、駅の有料トイレに向かった。そこで、 アリスは自分のうしろ、鏡越しにあるものを目撃した。アリスは動揺し、ロンドンへ帰った。そしてロンドンで、走る自動車の前に 飛びだしてしまった。アリスはなにに絶望していたのか、なにを見たのか。
にえ これはけっこう悲しいお話だったんだけど、読んでるあいだは興味津々で、 スルスル読めちゃったよね。
すみ 謎が少しずつわかっていくサスペンスのようであり、いろんな登場人物の 人生がかいまみえるオムニバスのようでもあったからね。
にえ 話はちぎれちぎれで、いろんな時期のエピソードがちょっとずつ紹介され、また入れ替わりで、 交錯しつつ、だんだんと全体が見えてくるって感じで進んでいくの。
すみ ひとつは、母親のアンとアリスの確執の物語だよね。やたらと娘の恋愛に口を出す母親と、 なにかと逆らって問題を起こす娘。
にえ そうかと思うと、アンの若い頃の恋愛の話、アリスの父ベンとの出会いと結婚の話が挿入さ れてたりするのよね。アンにはなんだかとんでもない秘密があるみたいだし。
すみ アンを心から愛し、結婚後も尽くしつづけるベンと、どこか冷たい、心ここにあらずみたいなアン。 この二人の関係をすべてわかってて、なんとか家庭としてまとめていこうとするアリスの祖母エルスペスの存在がいいのよね〜。
にえ エルスペスの若い頃の話もちゃんとあって、なかなか興味深かったよね。 貧乏な宣教師の娘として、お金持ちの娘が集まる寄宿学校で暮らす青春時代、夫との出会い、これもまた良かった。
すみ アンも寄宿学校出身なのよね。父親が音楽家で、演奏旅行のために両親が世界中を飛び回ってるから、 娘を預けざるをえなかったみたいだけど。
にえ でも、両親に見捨てられたような気がしてしまったアンにとっては、それから先の人生にも影を さしてしまうことになるのよね。
すみ 同じ寄宿学校時代があっても、親を誇りに思い、イジメをはねかえして 頑張り抜いたエルスペスと、親を恨み、いじけてしまったアン、この二人のその後の人生の対比は鮮やかだったよね。
にえ その二人に育てられるアリスが受ける影響も考えさせられたよ。
すみ それからアリスが大学生になってすぐの恋愛の話でしょ。裕福なアメリカ人家庭の息子 マリオとの未熟な恋の顛末。
にえ マリオは乱暴者で、身勝手で、それでも必死にアリスを追いかけてくるのよね、なんか こういう男の人っているなあと思いながら読んでしまった。
すみ 結局は子供なんだよね。でも、そういうところがまた魅力的に映ってしまって、 こういう男の子ってもてるんだよね。
にえ それから、ジョンとのこと。社会人となって財団事務局で働くアリスと、 新聞記者のジョンとの出会い。
すみ 様々な障害を乗り越えて、愛をはぐくんでいくアリスとジョンなのに、 どうして現在のアリスが不幸のどん底の末、自殺しようとしてしまったのか。この辺の謎が少しずつわかっていくんだよね。
にえ アリスは今、病院で昏睡状態。どうなってしまうのか。
すみ ラストにもう一行、救われるようなことが書いてあればなあと思わないでもなかったけど。
にえ 月並みなハッピーエンドで終わるわけにもいかないだろうけどね。
すみ 主軸が恋愛の話だったから、そんなに感情移入しなくてすんで重さは感じなかったけど、 まあ、悲しいお話だから、精神状態がマイナスになっちゃってる方にはオススメできないかな。
にえ うん、ただ悲しい話って片付けるには、あまりにもおもしろい小説だとは思うけど。 ぎりぎりで鳥肌の立つオセンチな路線には行ってなかったし。
すみ とにかく話がやたらと交錯するわりには読みやすいし、エピソードの積み重ねがどれもおもしろかった ので、こういう話が嫌いじゃない人にはオススメです。