すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「千年医師物語3 未来への扉」 ノア・ゴードン (アメリカ)  <角川書店 文庫本> 【Amazon】
ボストン大学医学部の教授を父に持ち、代々医学の道を歩んできた家系に生まれたRJは、医師になることを 運命づけられていた。運命に逆らいたくて法律を学んだRJだったが、医学への果てなき追求心を捨てきれず、 わずかな就職期間の後に医学部へと進学した。卒業後は、医者にまつわる法律の専門家として大学で教鞭を執り、 週に一度は家族計画クリニックで働きながらも、大病院で認められ、准医局長の候補となって忙しい日々を過ごしていた。 だが、同じ医者の夫のトムとはすでに冷め切った関係になり、私生活では淋しい思いもしていた。そんな中、作家として 活躍していたトムの昔の恋人エリザベスが末期ガンでボストンに戻ってきた。すぐに親交を深めたRJだったが、 エリザベスを助ける手だてはなかった。
にえ 第一部「ペルシアの彼方へ」、第二部「シャーマンの教え」に続く千年医師物語シリーズの 第三部。とりあえず、千年医師物語はこれで終了、淋しいね〜。
すみ まあ、それぞれ完全に独立したお話だから、どれから読んでもいいし、一話ごとに完結してるんだけどね。
にえ 第一部は11世紀初頭、第二部は19世紀初頭、で、この本はついに舞台が現代に。 おまけにこれだけは上下二巻じゃなくて、1冊なのよね。おまけに主人公が女性。
すみ 代々、ロブJと呼ばれる家系だったけど、今回は女性のためかRJって呼ばれてるの よね。お父さんだけは、意地でもロブJって呼んでるみたいだけど。
にえ RJは早くに母親を亡くしてるし、一人娘だし、お父さんはRJがかわいくてしかたないみたいね。 厳しいことも言うんだけど、結局は甘いの。こういう父親は知っているような〜(笑)
すみ RJは、そういう父親になんとか頼らないで、自力でやっていこうとがんばってるのよね。そんなRJがまず 医学部で親友になるのが、グウェンとサマンサ。グウェンはRJを家族計画クリニックに誘うことになり、 サマンサは貧しい家庭から這い上がってきた苦労人で、出世の道を進んでいくの。
にえ 卒業後のRJは、グウェンに誘われて家族計画クリニックに週一度だけど働くようになって、過激な中絶反対運動家たちの ために命の危険を感じ、勤めている大病院では出世競争に巻き込まれ、おまけに夫とはダメダメ状態で、なかなか大変そうなのよね。
すみ そしてとうとうRJは、いろいろあって嫌気がさしてボストンを離れ、田舎町の開業医となることに。
にえ そこからが本筋よね。田舎の美しい自然がタップリ描写され、田舎で暮らす人々の生活がたくさん紹介され、 開業医として独立してやっていくRJの奮闘記でもあり。
すみ 四十歳を過ぎたRJの大人の恋のお話もあるよね。いろいろ問題を抱え、たくさんの過去を引きずった男女が、 どこまで理解し合えて、信頼しあえるのか、若い頃の恋愛とはひと味違って、これはこれでまた大変。
にえ RJが医者でありながら法律家ってことで、現在のアメリカの医療制度への問題提起がタップリ盛り込まれてるし、 家族計画クリニックで働いてるってことで、アメリカの中絶問題についても、かなり取り上げられてたよね。
すみ うん、アメリカの医学界で実際に起きた事件についてもたくさん触れられていたし、作者のノア・ゴードンと 同じアメリカに住んでる人たちにとっては、けっこう衝撃的な内容だったんじゃないかな。
にえ ぜんぜん事情が違う日本に住んでる私たちは、逆にアメリカってこんなに問題を抱えてるんだと驚くばかりだったけどね。
すみ 作品中で一番重要視されてた医療保険制度についての問題は驚いたよね。日本では、国民健康保険とか社会保険とかがあるけど、アメリカでは、そういう 制度がなくて、すべて保険会社まかせみたいなの。だから、高い掛け金を払えなくて保険に入れず、病院に行けない貧しい人々がたっくさんいるのだとか。
にえ 作者はRJを通して、国がどうすればいいか、改善されない当面のあいだ、医者一人一人はどう対処していけばいいか、かなり はっきりと提案してたよね。
すみ さらに、他の作家の本でもよく出てきて、毎回驚かされる中絶問題。病院が中絶をしてくれなかったら、自力で無茶な中絶をして、 死んでいく女性がたくさん出るだろうって、私たちでもわかるのに、アメリカでは宗教上の理由から、反対してる人がまだたくさんいるのよね。
にえ ニュースで見たこともあるけど、実際に女性を助けようとして中絶をしている医師が何人も殺されてて、 本当に怖ろしい国だと思うよね。セックスについては寛容だけど中絶には厳しい、どう考えても矛盾してると思うし。
すみ 一人の女性が田舎の開業医としてがんばる話だから、今までと比べると地味だけど、内容としては深いよね。
にえ ただ私は途中でRJが、恋人が生きるか死ぬかってぐらい辛い状況の時に、どうして私のことをもっと大事にしてくれないのかしらって、 そんなことばかり言ってるのを読んで、ちょっと共感できなくなってしまったんだけどね。ふつう、自分のことを大事にしろとかより、まず恋人のことを心配するんじゃないの?
すみ お国の違いかなあ。たしかにRJは利己主義なところもあったけど。でも、そういうところも持ち合わせてないと、 RJみたいにアメリカの田舎で開業医はやれないんじゃないの。なんでも人のためを優先してたら、けっきょくは病院が経営破綻してしまう環境にあるのだからねえ。
にえ まあ、第一部にしても、第二部にしても、主人公は100%正しいって人たちではなくて、普通に欲もあれば悩みもある、等身大の人たちだからこその 良さがあったから、これもRJの姿を見て、自分を振り返ればいいのだし、これはこれでいいのかもしれないけど。ラストのほうは文句なく良かったし。
すみ そうそう、人のことが言えるほど、あなたが思いやり溢れた女性ってわけでもないしねえ(笑)
にえ とにかく、ストーリーは魅力タップリで、遠かった医学がグッと身近に感じられたし、ホントにオススメのシリーズです。ぜひぜひ♪