すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「ピッツバーグの秘密の夏」 マイケル・シェイボン (アメリカ)  <早川書房 単行本> 【Amazon】
アーサー・ベクスタイン、通称アートはピッツバーグ大学の4年生、最後のレポートを提出すれば、 あとは卒業を待つばかり。レポートを仕上げるべく図書館に行ったアートは、同じアーサーという名の 図書館員に声を掛けられた。アーサーが同性愛者であることにすぐ気づいたアートだが、誘われるまま 一緒に飲みに行くことにした。
にえ これは1986年、大学のワークショップで小説指南を受けていた23歳の学生が 書いた処女作品であるにも関わらず、出版社10社が争って、シェイボンには15万5千ドルという破格の 前金を受け取ったということで、そうとう話題になったマイケル・シェイボンのデビュー作です。
すみ 派手なデビューだよね。それだけ才能が突出していたってことだろうけど。
にえ 続きが読みたくてたまらなくて、走って家に帰るってほどではなかったけど、 まあまあおもしろかったよね。文章の美しさは翻訳でどこまで伝わってきたかな〜と疑問は残るけど。
すみ 作者の若々しさが全体的にみなぎりまくってたよね。そういう若さを愛せるか、 もう少しこなれた状態になった作家のほうが好きかってのが、好みの分かれ目だろうけど。
にえ ボルヘスから引用文をとったり、 ガルシア=マルケス、マヌエル・プイグなんて南米作家の名前を出したり、二人の日本人の登場人物には タケシとイチゾーなんてピンチョンの「重力の虹」からそのまま名前をいただいてたりして、読書好きの 青年が本の向こうに透けて見えるようだったしね。
すみ ストーリーはモロ青春ものだよね。アメリカでは一時期、アウトサイダー的な 青春小説が多発して、それが完全に過ぎ去ったあとに出てきたのがシェイボンってことになるんだけど。
にえ 主人公のアートは、アウトサイダーとはほど遠く、ちょっと軟弱な 感じのする青年なのよね。
すみ 母親が亡くなってて、ファザコン気味って設定なんだけど、 その父親はユダヤ人ギャングなの。こういう、ええって設定はいかにもシェイボンって気がしたな。
にえ ギャングっていっても暴力系じゃなくてインテリ系で、とっても上品だけどね。 アートはなるべくそういう世界から遠ざけて、まっとうな道を歩んでほしいと思ってるみたいだし。
すみ 仕事でピッツバーグに出てくるたびにアートに会いに来て一緒に食事に行くし、 アートはアートで、ちょっと父親に責められただけでメソッと泣いちゃうし、なかなかのファザコンっぷりだよね。
にえ そんなアートが出会うのが、アーサー、フロックス、それにクリーブランドと その彼女ジェーンの4人。4人はほぼ同い年で、登場人物はここから広がっていかないから、まとまりがよくてサラッと読めたね。
すみ フロックスはアーサーの同僚で図書館員、ちょっと変わった女の子なんだけど、 アートとつきあうことになるの。
にえ ちょっとベッタリくっついてきすぎで、うざったいかなって娘だよね。
すみ アーサーは同性愛者で、アートに気があって、アートもアーサーの さりげないかっこよさに強く好感を持ってて、三人はだんだんと三角関係へと突き進んでいくというわけだ。
にえ アートにはもともと同性愛傾向があったんだよね。というか、男も女も好きな バイセクシャルなのかな。
すみ で、クリーブランドはアーサーの友達で、もともとは良家の子息なんだけど、 完全に道を踏み外しちゃってて、今はギャングの使いで借金の取り立ての仕事をしている青年。
にえ でも、なんとも男同士としては魅力的な存在なんだよね。体がでっかくて豪快で、 バイクを乗り回して無茶ばっかりしてるんだけど、どこか子供みたいなところがあって、人なつっこくて。
すみ クリーブランドはアートが必死で隠してるギャングの父親がいるって秘密をつかんでて、 なんとか紹介してもらって今より割のいい仕事をさせてもらおうと狙ってるの。
にえ みんなに愛されて、良い方向に進んでほしいと願われてるのに、どんどん 自虐的になって墜ちていく、そういう青年なんだよね。
すみ 多感な青年たちが出会って、仲良くなって、こじれたりもしつつ、ある事件をきっかけにして、 それぞれの道へとわかれていく、そういう青春物のストーリー。
にえ クラウド・ファクトリーなんて名前をつけて、かってに雲をつくる工場だと決めつけてる建物が 象徴的に使われてたりして、ほろ苦くも爽やかだったんじゃないでしょうか。
すみ オススメってところまではいかないけど、マイケル・シェイボンの 記念すべきデビュー作、シェイボン好きなら読んでおいてもいいかなってところでした。