=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「わが職業は死」 P・D・ジェイムズ (イギリス)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
地元警察の捜査のため、犯罪の科学調査をするホガッツ研究所で、生物部部長エドウィン・ロリマーが 殺された。殺害時刻は深夜、研究所は厳重に戸締まりされ、外部から侵入された形跡もない。第一発見者は 早朝に出勤してきたブレンダ・プリッドモアという受付嬢で、ロリマーを尊敬していた。では、犯人は誰なのか。 ダルグリッシュ警視長は捜査に乗り出すが、ロリマーを殺したいと思っていた人物は多く、特定は難しかった。 | |
これは、1981年に発刊された単行本が、2002年の今年になって 文庫化された、P・D・ジェイムズのダルグリッシュ・シリーズものの中の1作です。 | |
1981年には単行本で1300円、2002年には文庫本で980円、 本の値段の急上昇ぶりには、あらためて驚くねえ。もっと本が売れて、本の物価が下がりますように〜。 | |
それはともかく、これは本当にダルグリッシュものらしいって感じだったよね。 期待したとおりの、というか、ダルグリッシュものだったらこういうのだろうという枠にぴたりと収まるというか。 | |
うん、なんといっても舞台が医療関係の現場だしね。これはもう 自分もかつて医療関係の仕事をしていて、夫も医師だったというP・D・ジェイムズの十八番よね。 | |
むりに医療用語をつめこもうとしてるところもないし、でも、雰囲気は伝わってくるし 、自然だけど知らない人ならうっかりやってしまいそうなポカもなし。これは本当に知ってる人の強みだよね。 | |
登場人物が多いのもこのシリーズの特徴でしょ。区切られた地域や組織の中にいる人たちが、 複雑な愛憎関係を形成していて、互いはなんとなく秘密を知っていたり、知らなかったりだけど、外部の人間には隠そうとする、そういう 設定が多いよね。この本もまさにその典型だった。 | |
ダルグリッシュものを読むんなら、登場人物の多さは覚悟するしかないのよね〜。 この本はとくに研究所内だから、みんな似たような仕事をしてる人たちでしょ、最初のうちは区別がつかなくてどうしようかと思ったけど(笑) | |
どうしても欧米の小説だと、登場人物どうしが苗字で呼んだり、名前で呼んだり、 愛称で呼んだりと、同一人物の名前がころころ変わるからねえ。慣れない人は本についてる登場人物一覧を参考に、メモしながら 読んだほうがいいかもしれない。 | |
ざっと挙げていけば、殺されたエドウィン・ロリマーは、とにかく性格が悪くて、 嫌われ者だったのよね。細かくって、ジクジク他人を責め立てるタイプで、部下を誉めてのばすより、けなして潰すほうが 得意な人。いるよね、こういう人って。 | |
その一番の犠牲者がクリフォードっていう生物部の上級技官なのよね。 上司であるロリマーの姿が見えただけで萎縮しちゃって、実力を発揮できなくて評価は下がる一方。所長の マキシム・ハワースと文書検査官のポール・ミドルマスが庇おうとしてはくれるんだけど。 | |
ポールは、2年前に妻の親戚の青年がロリマーから同じような扱いを 受けて潰されて、自殺しちゃってるのよね。だから、抗議しているうちに、ロリマーの鼻を殴っちゃうことに。 | |
所長のマキシムがまた複雑よね。ロリマーは自分が所長になれると思ってたんだけど、 マキシムって外部の人が所長になっちゃったから、ロリマーはやたらと突っかかってきたり、逆らったりしてたのよね。 | |
それじゃあ、マキシムがロリマーを殺す理由にはならないけど、 じつはマキシムには自分が育てたも同然で、溺愛しているドミニカって妹がいて、その妹がロリマーとつき あっていたらしいから落ち着かない。 | |
妹のためなら他人の男は殺しそうなタイプだよね。複雑な家庭環境で 育ってて、普通の兄が妹を思う気持ちなんてものじゃないぐらい妹を愛してるんだよね。 | |
ドミニカってのもまた不思議な女性だった。すんごい美人で、愛想もいいんだけど、 結局は自分が楽しむことしか考えていないエゴイストで。こういう女性もP.D.ジェイムズの得意キャラだよね。 | |
マキシムの秘書アンジェラ・フォーリーは、じつはロリマーのいとこなのよね。 金持ちの伯母さんが亡くなったとき、結構な額の遺産があったけど、ぜんぶロリマーのものになっちゃって、ロリマーも 少しは悪いと思ってたのか、自分の遺産の一部はアンジェラに残すことになってる。 | |
アンジェラは女流作家と同棲中で、二人の大切な家を貸家から持ち家にするためには、 どうしてもお金が必要なのよね。しかも、借金を申し込んで断られてるから恨みもあって、ロリマーを殺す動機は充分。 | |
第一発見者のブレンダ・プリッドモアだけはロリマーに好意を持ってたのよね。 でも、ブレンダのすぐあとでロリマーの死体を発見したブレイクロックって警部は、娘を交通事故で失ってるんだけど、 その時のひき逃げ犯は鑑識の不手際のために無罪になってしまってるの。 | |
外部から依頼されて出入りしているヘンリー・ケリソンって人もまた 複雑よね。妻が他の医者と逃げちゃったんだけど、その妻が残していった子供二人を取り戻そうとしてる。でも、 ヘンリーはぜったい子供は手放したくないの。 | |
ヘンリーが手放したくないのが、二人ともなのかどうかは怪しいんだけどね。 子供のうち、3、4歳ぐらいの男の子ウィリアムはとってもかわいい子なんだけど、エレノアっていう16歳の少女は 精神的にちょっとおかしくなりかかってて問題も多いし、大人がかわいいと思えるタイプの子供ではないから。 | |
エレノアはお父さんがそばにいてくれないのは研究所のせいだって恨んでいて、 そのうえ、お父さんに会いに行って、ロリマーに激しくなじられて追い出されてるから、ロリマーにはかなり陰湿な恨みを抱いてるみたい。 | |
そういった人々が、じつはさらに複雑な関係を持ち、それぞれの裏事情を持ち合わせてるってことがだんだんと わかってくるのよね。これはシリーズものだから、オススメもなにも、お好みでってことで。手堅くまとまったダルグリッシュものという印象でした。 | |