=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「アインシュタインの夢」 アラン・ライトマン (アメリカ)
<早川書房 文庫本> 【Amazon】
1905年、26歳のアインシュタインは、ベルンのスイス特許局で三級技官として勤務しながら、 寝食を忘れて革命的な物理学論の研究に打ち込んでいた。アインシュタインを理解し、支えていたのは、 チューリヒ大学からの友人ベッソーだった。時間の概念にとりつかれたアインシュタインは夜ごと、時間に まつわる不思議な夢を見た。アインシュタインが見た30の不思議な夢とは。 | |
すみません、↑はほとんど訳者さんのあとがきから書き写しました。 だってあとがき読むまで、そういう話だってわからなかったんだもの、ダハハ。 | |
まあ、たしかに本文に説明はないけど、題名と、各章に日付がついてることで、 だいたいは気づくと思うんですけど〜(笑) | |
各章は、3、4ページぐらいで、これといって主人公っぽいような 登場人物もなく、時がさまざまな形にゆがんだ、いろんな都市の断片をちょっとずつ見せてくれるって感じなんだよね。 | |
うん、時間がテーマになった不思議な話のごく短い短編集みたいだった。 で、時々、思い出したようにアインシュタインのエピソードがチラッと出てきて。 | |
小説というより、詩的だよね。30の短編はまったくつながっていな いんだけど、みんなテイストが似てるから、統一感があった。 | |
時間が逆に流れる都市とか、都市ごとに時間の流れる速度の違う国とか、 時間が止まってしまった都市とか、静止しているものがなくて、すべてが動き続けている都市とか、そういう 不思議な都市の話。 | |
アインシュタインの見た夢だという基本的な設定がわかってなくて 最後まで読んでしまった私は、自分が旅人になって、不思議な都市を巡っているみたいだな〜と思いながら読んだんだけど。 | |
アメリカでは、カルヴィーノの「マルコ・ポーロの見えない都市」を 思わせると絶賛されたそうだけど、ホントに似てたよね。不思議な都市の数々を、マルコ・ポーロじゃなくて アインシュタインが夢で巡るお話。 | |
ただ、カルヴィーノの研ぎ澄まされた鋭すぎるほどの感性とか、 毒々しいまでのユーモアと比べると、こっちはぐっと柔らかめで、まっすぐマジメだったけどね。 | |
文系じゃなくて理系の人が書いた小説って感じは近いよね。 カルヴィーノは植物に関する理系の両親に育てられて、最初は自分も理系の道を歩んでたけど、けっきょく 小説家になった人、このアラン・ライトマンって人もバリバリ理系の人、なんか感性が似てるな〜と思った。 | |
バリバリ理系だよね(笑) カリフォルニア大学で理学博士号を取得 して、ハーバード大学で物理学と天文学を教え、スミソニアン天文物理学観測所の所員だったこともあり、 マサチューセッツ大学で物理学の講義もするっていうんだから、理系のエリート。これが初の小説なのよね。 | |
ファンタジックなようで理論的でもあった。もしも時間が逆に流れたら、 人々はどういう行動をするか? もしもあと2年で世界が終わることをみんなが知っていたら、人々はどんな 行動をとるか? そういう、仮定にもとづいて、仮想世界を作り上げていくっていう姿勢とか。 | |
独特の美しさにも近いものがあったよね。でも、ストーリーのある小説 じゃないから、好き嫌いは分かれると思うけど。 | |
好きな人には、何度も読み返したくなる余韻のある本だよね。好きじゃない人には、 どこに焦点を合わせたらいいかわからない、ぼやけた短編集かも。 | |
作者のアインシュタインへのラブレターって気もしたけど。時折出てくる、 アインシュタインとベッソーの話が良かったよね。 | |
アインシュタインというと、どうしても「ベーッ」ってやってる写真を 思い出しちゃうけど、この本のアインシュタインはなんかナイーヴでストイックで、学問に対する純粋さが美しかったな。 | |
思索に耽るアインシュタインと、アインシュタインがなにも説明しなく ても、心情を察して気遣うベッソーの関係が、また美しいのよ。 | |
とにかく、カルヴィーノの「マルコ・ポーロの見えない都市」にかなり 似てるのはたしか。カルヴィーノが不思議な都市の話を短編のように積み重ねながら、時々、マルコ・ポーロとチンギス汗の会話を挟んでいくみたいに、この本でも、 時折、アインシュタインとベッソーの空想逸話が差し挟まれてるのよね、そういう構成までそっくりだった。 | |
読み比べると、またおもしろいかもしれないね。カルヴィーノの研ぎ澄まされた 美意識は完璧なものだったけど、この本にはアインシュタインへの敬愛からくる優しい柔らかさがあると思った。 こういう違いもおもしろいだろうし。 | |
日本でも1993年にいったん単行本で出したものを、今になって文庫化して 出版するくらいだから、名作なのは間違いなし。お好みでどうぞ。 | |