すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
「テキサス・ナイトランナーズ」 ジョー・R・ランズデール (アメリカ) <文藝春秋 文庫本> 【Amazon】
モンゴメリーとベッキーは学生時代からの交際期間を経て結婚した仲の良い夫婦だった。モンゴメリーは大学教授になった。 意気地なしかもしれないが、人の根はみな善だと信じるやさしい夫だった。ベッキーは高校教師となったが、理想と現実の ギャップに悩み、辞めようかと考えているところだった。その頃、街では連続婦女暴行殺人事件が起きていた。 犯人は高校生、罪悪感のまったくないクライドとその狂った仲間たちだ。クライドは自分の高校の教師であるベッキーに目を付け、 次の犠牲者にすることにした。ところが、暴行の真っ最中に邪魔者が乱入し、クライドは逮捕され、拘束中に自殺してしまった。 精神を病んだベッキーを癒そうと、友人の別荘を借りることにしたモンゴメリーとベッキーだったが、魔の手はそこにまで伸びよう としていた。
にえ これはいわゆるパルプ・ノワールもの。狂気をはらんだ暴力が炸裂して、スピード感満点のまま 壮絶な戦いのラストへと突き進んでいくの。
すみ 追う者と追われる者、設定としてはけっこう手堅くおさえてるって感じだったよね。
にえ ただ、ホラーっぽい味付けがしてあったよね。追うほうは、クライドの自殺で残された 不良少年たちなんだけど、そのリーダーとなるブライアンは、頭のなかにクライドが現れて、どんどん精神を支配されていっちゃうの。
すみ 追われるベッキーは予知夢を見るようになるのよね。夢で見た断片的な暗示がなにを表わしているのか、 じっさいに起きてわかってくる。
にえ クライドとなったブライアンはどんどん常軌を逸して凶暴になっていくし、予知夢で危険を察知する ベッキーは、なんとかブライアンたちの魔の手から逃れようとする、けっこう迫力あったよね。
すみ 巻末にディーン・R・クーンツの推薦文がついてるのが、すべてを語ってると思わない? いかにも クーンツっぽい小説だったし、こういう小説書いたら、だれよりもクーンツに推薦文書いてほしいでしょってそういう小説。
にえ でも、クーンツの小説に慣れてる人には、これは物足りなく感じちゃうかな。 私は逆にクーンツよりこっちのほうが読みやすかったけど。
すみ 視点が移っていくけど、話は一本でまとまってたよね。わりとスッキリしてた。それに、 少年たちの殺人はかなりグロいんだけど、グロい描写はなるべく避けてたし。
にえ 文章じたいもかなり削ってスッキリした文章にしてあったよね。必要最小限のことだけ書いてあるって感じで スルスル読めたから、そのぶんスピード感があった。
すみ 最初は、モンゴメリーとベッキーのつらそうな暮らしが描かれてるのよね。 ベッキーはクライドたちに襲われた事件のあと傷ついて、立ち直れなくなってて。
にえ このあたりではモンゴメリーにちょっと苛ついたりもしたよね。子供の頃から 意気地なしだった逸話とか出てきて、なんかがんばってるけど逃げ腰なんだもん。
すみ でも、あの状態でも逃げ出さないでベッキーについていてあげようとするだけでも、 男としてはそうとうの勇気と根性だと思うよ。へなちょこかもしれないけど、ダメ人間じゃないわ。
にえ それから二人の過去、それに、クライドとブライアンが出会って、悪に染まっていく過去の過程が 書かれてるのよね。
すみ クライドは古い屋敷を不法占拠して、仲間を言いなりに動かして、 少女たちを殺して。すべて暴力で圧倒して思い通りに生きてるっていう、ワルの中のワル。
にえ いちおうは良い子にしてたけど、前からそういう生き方を望んでいたブライアンが 会ってたちまちクライドに惹かれたのもわかるね。ここでスターウォーズのダーク・フォースに譬えてるのは、うまいと思ったなあ。
すみ それから事件が起きて、クライドが自殺して。でも、クライドはブライアンの頭のなかに現れて、 殺し損ねたベッキーを殺せと命じるのよね。ベッキーを追いながら、どんどん狂っていくブライアンの殺人につぐ殺人は、ホント残酷だった。
にえ うん、この人だけは殺さないで〜って人が、どんどん殺されていっちゃって、殺し方も残酷だしね。ラストに近づいていくにつれ 、モンゴメリーとベッキーが二人とも助かるのかどうかハラハラして、もう後半はページをめくる手を止められなかった。
すみ ランズデールは人を書くのがうまい作家さんだから、登場人物が頭に浮かべやすくて、 それでストーリーにも、のめりこみやすかったよね。
にえ 全体としては、よく言えばスッキリまとまってる、悪く言えば小さくまとまってるって気がしたけど。
すみ 大作的なものを求めたら、ちょっと物足りなく感じるかもしれないけど、重いものを 読むあいだに、気晴らしでこの本を手に取る分にはスンゴクよく書けてて、楽しめるんじゃないかなあ。
にえ ノワールものにしては、あんまりグロい描写をしないでくれたことも、読む人によっては ちょうど良いと思うか、物足りなく感じるか微妙なところだねえ。
すみ これは1987年に書かれたランズデールの初期ものだって理解した上で読めば、納得できる んじゃないかな。なんかソツなくまとまってて、絶賛するほどではないにせよ、私としては満足でした。