=「すみ」です。 =「にえ」です。 | |
「中二階」 ニコルソン・ベイカー (アメリカ)
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ハウィはオフィスビルの中二階にある会社に勤めるサラリーマン。ビルの玄関ロビーから入ると、エス カレーターがある。そのエスカレーターに乗ると、彼のオフィスにたどり着く。昼休みを終えたハウィは今、 エスカレーターに乗り、オフィスに戻るところだ。昼休みには、靴のひもが切れていたので、ドラッグストア に寄って新しい靴ひもを買ってきた。公園のベンチに座ってクッキーを食べ、牛乳を飲んだ。ペンギン・クラ シックスのペーパーバッグを少しだけ読んだ。 | |
私たちにとっては、初ニコルソン・ベイカーです。小説といってい いのか、なんなのか、変わっていて、おもしろい本だったよね。 | |
これといったストーリーはないのよね。筋といったら、ハウィってい う社会人になって二年のサラリーマン青年が、会社の昼休みに出掛けていって、またオフィスに戻ってくる、 それだけの話。これといった出来事もないし。 | |
でも、噛めば噛むほどおいしい味のいっぱいする本だったよね(笑) | |
開いてまず驚いたのは、脚注の多さでしょ。ページによっては、半分以上が 脚注で占められてて、本文がほんのちょっとだったりするの。 | |
本文じたいも、脚注みたいなものだったけどね(笑) | |
そうそう、たとえば店員に、牛乳のパックにストローをおつけしますか って訊かれると、そこから延々ストローについての考察がはじまるのよね。 | |
昔のストローは紙でできていて、水分が染みこむからコーラのなかに沈んだけど、 最近のプラスチックのストローは浮かんじゃう。どうしてこんなことになったのか、なんてね。 | |
開発当初はストローの重さから計算して、沈むはずだと思われたのに、じつは コーラの発する気泡がストローに付着して、そうはいかなくなったのだろうとか、そういう話をけっこう科学的に 分析して書いてあったりするのよね。 | |
牛乳パックについても、いろいろ語ってたよね。瓶から紙パックになっていった 歴史とか、配達の牛乳がすたれていった経緯とか。 | |
靴ひもが切れれば、靴ひもの結び方を覚えた子供の頃の思い出とか、 どうして靴ひもは一番上の穴のところで切れるのか検証したり。とにかくそういう身近なことを深く掘り下 げるおもしろさを徹底的に与えてくれたね。 | |
主人公がサラリーマンで、父親もサラリーマンっていうのもいいなあ。 うちも父親がサラリーマンだから、小説の主人公がお店やさんの子だったりすると、むしょうに羨ましくな っちゃうんだけど。 | |
そうなんだよね。サラリーマンの子って、生まれたときから学芸会の 脇役しかできない宿命を持って生まれてきたような、そういう寂しさがあるよね。商店の子でも、学者の子でも いいけど、とにかくそういう職業の親から産まれた子は、最初からスポットが当ってるような気がしちゃう。 | |
主人公のハウィが父親と食事に行ったときの思い出がでてくるんだけど、 お互いのネクタイを誉めあって、どこで買ったのか訊きあって、覚えてるんだけど、ええと、どこで買ったっ けななんて答えたりするところ、笑えたなあ。サラリーマンだ〜(笑) | |
クリーニングから帰ってきたワイシャツに挟まってる厚紙を、ちりとりの かわりに利用するって話も笑えたよ。 | |
そのちりとりを少しずつずらしていくと、最初は太い線が残っていたのが、 だんだん細くなっていって、最後まで完全に消えないんだけど、ほとんど見えないぐらいに薄くなる、それが 気持ちいいってところを読んで、「そうそう!」と声をあげたくなったね。 | |
ドラッグストアの商品の話もたくさん出てきたけど、日本とほとんど 同じで共感して読めたよね。日本とアメリカじゃ、売ってるものに差がないんだなと、あらためて驚いた。 | |
バンドエイドを箱で買うと、極小サイズがサービスでついてるって話は 笑ったな。大人はかなり大きな傷でも、大きいバンドエイドをつけるのは大げさすぎて恥ずかしい気がするので、 このサービスの極小サイズを使いたがるって書いてあったでしょ。まさに私もそうなのよ(笑) | |
金持ちの子は一番大きなデラックス箱が家にあるから、真四角のとか、 そういう普通サイズの箱に入ってない珍しいバンドエイドを貼って学校に来るってのが、私は笑えたな。 | |
シャンプーのボトルの歴史もおもしろかったよね。透明がかっこよかった 時代があって、それからマットな感じのボトルが流行ってってとこ。そういえば、そうだなあ、なんて思った。 | |
最近のシャンプーには液体に光沢を出す成分が入ってるなんてのも、 そういえばそうだっけと気づかされたよね。 | |
とにかくそういう、ふだんの生活でなにげなくやってることや見てる物 のことをクドクドと、でも楽しげに書いてあって、くすぐられるようなおもしろさがあった。 | |
ふだんは考えなしに使っている注ぎ口とか、そういう小さな物のこと を、なんて素晴らしい発明なんだろう!って絶賛して書いてあったりして、読んでるうちに日常が輝いてくるような 気がした。意識して暮らせば、なにげない物の一つ一つに喜びが満ちているのね、これからちょっと見習おうっと。 | |