すみ=「すみ」です。 にえ=「にえ」です。
 「死神の戯れ」 ピーター・ラヴゼイ (イギリス)  <早川書房 文庫本> 【Amazon】
イギリスの田舎町フォクスフォードの聖バーソロミュー教会に新しく来た、オーティス・ジョイという 牧師はとても人気があった。若くてハンサム、それにとても優しいので女性信者に支持され、気安く明るく、 いつもジョークを口にするので、男性信者にも支持されている。説教は時におもしろく、時に深刻に、 その場に応じた最良の言葉で語られる。オーティス・ジョイは牧師の仕事をとても愛しているようだ。 だが、毎週火曜日には早朝から夜遅くまで出掛けているが、どこに行っているのかは誰も知らない。 そして、彼が殺人鬼だということも……。
にえ 私たちにとっては、4冊めのラヴゼイです。これはおもしろかった〜。
すみ おもしろいといっても、「偽のデュー警部」のような軽いコメディー タッチのおもしろさではないのよね。ゾクゾクッとくるおもしろさなの。
にえ 主な登場人物は、まずオーティス・ジョイ。名前からふざけてるのよね。 英語で「オー・ティス・ジョイ」っていうのは、「まあ、すてき」とか「ああ、喜ばしい」とかいう意味だ そうな。
すみ 表向きはハンサムで、思いやりがあって、まじめで、それでいてユーモアの センスがあって、牧師なのに気楽につきあえる、すてきな人。でも、裏の顔は、教会のお金を横領して、 都合が悪くなれば人も平気で殺す、おそろしい人。こわっ。
にえ でも、ジギルとハイドのようにコロッと変わるわけじゃないのよね、 ジョークでまわりを盛り上げている時のオーティスも、人を殺そうとしているオーティスも、一貫して オーティスなの。
すみ 楽しいことが大好きで、自分はよく思われていたくて、牧師の仕事を愛 していてるのよね。だから、神の言葉を使って人々に愛を語るし、必要なお金は横領するし、じゃまな人は殺す。
にえ 理解できちゃうから怖いのよね。
すみ オーティスの思考回路がわかってくると、ああ、この人もきっと殺し ちゃうのかしら、どうなの、どうなのって、怖がりながらもワクワクしながら読んじゃう。
にえ フォクスフォードの教会に来る前に、オーティスがいた聖セイヴィア 教会では、オーティスの妻が蜂に刺されて死んでいるし、寺男が行方不明になっているし、移ってからすぐ、 オーティスの上司であるグラストンベリー主教が自殺してます。さあ、これはみんな、オーティスの仕業かな(笑)
すみ フォクスフォードでも、なんだか次々に人が死んでいくのよね〜。
にえ おまけに、幼い頃に両親と死に別れ、孤児として育ってからカナダの 大学で勉強し、それからイギリスで牧師になったオーティスの経歴は、本当なんでしょうか。
すみ それに、それに、火曜日になると姿を消すけど、いったいどこに行っ てるのかな。
にえ 謎はたっぷりだし、つねに誰かが殺されるかもしれない恐怖があるし、 読みだしたら止まらないよね。
すみ 脇の人たちも、いかにも田舎町の人々って感じで、いい味だしてるの。 第二の主役はレイチェルだよね。
にえ レイチェルは、美貌にはまあまあ自信があったんだけど、釣った魚に は餌をやらないタイプの夫と結婚したばかりに、悶々としてるの。
すみ 夫はずっと年上だし、見てくれもイマイチだし、レイチェルを放っぽら かして仲間とのジャズ遊びに夢中になってるし、これはもうオーティスに恋するしかないよね。
にえ もちろん、レイチェルのライバルもたくさん。お色気とゴシップを振りま く未亡人のシンシアとかね。シンシアはクラスに一人はいたタイプよね。おしゃべりで秘密を守れないけど、けっこう面倒見がよくて、明るくて。
すみ 早く殺されてしまえ、と思わないでもなかったのが、バートンだよね。
にえ うん、オーティスにとってバートンは目の上のたんこぶ。オーティスを疑って、 コソコソかぎまわるの。でも、堅苦しい性格で嫌われてるから、だれも相手にしてないんだけどね。
すみ でも、やっぱりいつかはバレちゃう? それともオーティスは最後まで 逃げ延びちゃうのか。
にえ そうそう、オーティスって、パトリシア・ハイスミスがシリーズで書 いてる作品の主人公のリプリーに似てたよね。詳しいことはネタバレになっちゃうから言えないけど、共通点が多かった。
すみ う〜ん、リプリーは穏やかで上品な紳士だけど、じつは平気で人を殺す 裏の顔を持つって人なのよね、そういうところは似てるかも。でも、リプリーは地味だけど、オーティスは華があるな。
にえ そうなのよね、ここまで悪に徹してて、しかも楽しくて性格破綻してると、なんだか だんだん好きになってきてしまう。こわいわ〜(笑)
すみ やっぱり、ラヴゼイは上手い、チラッチラッと情報を見せていくやり方が上手いんだもの。 大満足でおもしろかった〜。もちろん、オススメ!